カーデザイン評論家として活動している私は、COTYでも「そのクルマの商品性全体にデザインがどれだけ貢献しているか」を判断基準にしている。去年は迷わずマツダ『アテンザ』に10点を入れた。では、なぜ今回、同じ「魂動デザイン」の『デミオ』ではなく『Cクラス』を10点にしたのか?
Cクラスはボディ構造から数々の安全装備まで、『Sクラス』の技術内容を惜しみなく盛り込んだクルマ。それを素直に「凄い」と思えるのは、Sクラスのイメージをコンパクトサイズでバランスよく再現したデザインのおかげだ。
ルーフからリヤデッキへのラインを見れば、デザイナーが後席居住性と空力性能をギリギリで両立させつつ、メルセデスの新世代セダンとしての佇まいを表現したことがわかる。しかも、ロングノーズ&ショートデッキのバランスがSクラスより強調され、Cクラスならではの俊敏さも演出。ブランド・アイデンティティと車種の個性を兼ね備えたデザインが、内に秘めた技術内容の説得力を高めている。中身の良さをカタチに示すデザインだ。
とはいえ、私が上位に入れた3車種に、配点ほどの差がないのも確か。僅かな差が強調されるのが、COTYの配点ルールの妙味であり、我々選考委員の悩みのタネでもある。
デミオは小さなボディに「魂動」の躍動感をみなぎらせる。マツダが続けてきた技術革新をバックに、素晴らしいデザインが生まれた。しかしそれはアテンザでも具現化されていたこと。今年の話題としてはちょっと弱いかな、というのが私の気持ちだ。
『i3』はプロジェクト丸ごと革新的で、それをしっかり表現する大胆なデザイン。これも素晴らしいのだが、やや「左脳的」なクルマに思える。例えば真っ黒な後ろ姿は、デザイン意図として理屈は通っているけれど、「商品」として共感されるのか? アクセル・オフでの急減速感も、エネルギー回生するためとはいえ違和感が残るし…。デザインを左脳で考えがちな性分の私だが、今回はそこを意識的に反省し、i3への配点を少しだけ下げることにしたのである。
メルセデスベンツ『Cクラスセダン』:10点
マツダ『デミオ』:7点
BMW『i3』:5点
プジョー『308』:2点
スズキ『ハスラー』:1点
千葉匠│デザインジャーナリスト
1954年東京生まれ。千葉大学で工業デザインを専攻。商用車メーカーのデザイナー、カーデザイン専門誌の編集部を経て88年からフリーのデザインジャーナリスト。COTY選考委員、Auto Color Award 審査委員長、東海大学非常勤講師、AJAJ理事。