【ヤマハ MT-07 試乗】マニアックだがスパルタンではない…和歌山利宏

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ヤマハ MT-07
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ヤマハ『MTシリーズ』のMTとは、マスター・オブ・トルク。これらはトルクフルで鼓動感に富んでいて、4気筒のパワフルさとは好対照な性格のストリートスポーツモデルである。

過去には、2005年登場で『XV1600』ベースのVツインを搭載した『MT-01』、『XT660』の単気筒ユニットを搭載し2006年に登場した『MT-03』が存在したが、昨年来、注目を浴びているのが、新設計3気筒エンジンを搭載する『MT-09』。そして今回登場した2気筒エンジンの『MT-07』である。

MT-09とMT-07はともに、身の丈にあったスポーツ性能を見つめ直し、走る楽しさを追及している。そして、「クロスプレーンコンセプト」に基づき、鼓動感がそのまま、マシンをコントロールするトラクション感覚と直結したフィーリングを提唱している。

MT-09の120度クランク並列3気筒、MT-07の270度クランク並列2気筒は、クロスプレーンクランクの『YZF-R1』や『YZR-M1』と同じく、ピストンなどの往復運動部分の慣性力が互いに相殺され、クランクトルクの変動には燃焼圧の変化がそのまま反映されやすく、トラクション感覚を掴みやすいのだ。

ちなみに、MT-09とMT-07に関しては、末尾の数字が排気量を意味していると考えて差し支えない。その意味でMT-07はMT-09の弟分であるし、上級者向きに高度なスポーツ性を作り込んだMT-09に対し、MT-07にはビギナーが楽しみやすいようワイドレンジな性格を持たせていると、ヤマハも明言する。

確かに、私の印象からしても、その通りである。しかし、両車の性格をそこまで端的に表現し切れるほど、話は単純ではない。

まず、MT-09ではサスストロークがやや大きく、ハンドルがワイドでライポジもストリードモタードの雰囲気があることからすると、MT-07は、ほとんど普通のロードスポーツの印象である。

そのライポジもネイキッドモデルのスタンダート形としてよく、ストリートファイター風にハンドルが低くワイドに開いているわけでも、国内専用モデルのようにグリップが狭く絞られているわけでもない。

足着き性は絶賛できるほど良好なわけではなく、ミドルクラスとして並みのレベルなのだが、車重が圧倒的に軽く(XJ6比で26kg、YZF-R6やMT-09より10kgも軽い)、フィット感も良いので、足着き時のストレスが圧倒的に少ない。まず、その点で親しみやすく、日常的に楽しむ気にさせてくれる。

と、いい意味でお手軽な印象もあるのだが、軽めのクラッチレバーをミートさせていくと、全身に伝わる270度クランクの不等間隔(90度Vツインと同じだ)の鼓動が、なかなかマニアックである。

鼓動の間隔が開いたところで、それが途切れる不安が頭をかすめるのだが、意外やしっかり粘ってくれる。実際、45km/hを6速で流せるほど柔軟だ。マニアックさを訴えても、決してスパルタンではないわけで、このことがMT-07の本質を物語っているようでもある。

トルク特性も常用域が重視されている。4000rpmの手前からみるみるトルクが豊かになり、6500rpmのピークに向かってトルクに乗っての走りを楽しめる。その後の急激なトルクの落ち込みもなく、ワイドレンジに楽しむことができる。

ハンドリングもスポーティで、高水準にコーナリングを楽しむことができる。しかも、シャープなステアリングレスポンスを生かして曲げていくのではなく、リーンに応じて舵角が入り、そのことで忠実に旋回性と接地感が高まっていく特性は親しみやすい。

スムーズに路面を舐めるようにコーナーを回っていくのも印象的で、ステップのバンクセンサーが路面に接地しても、ガツンとはこずに、滑らかに滑っていく。標準タイヤの「パイロット・ロード3」や剛性バランスに優れるホイールもさることながら、適度にしなって表情が豊かなフレームの効果もあるのだろう。

ただ、フロントから寝込み切れ込んでいこうとする性質が強めの気もする。これに関しては、欧州向きに合わせたリヤサスペンションが、体重55kgの私には少々固めで、車輌姿勢が後上がりになっているせいもあるようだ。試しに、リヤのプリロード調整を2段弱めると、ほとんど気にならなくなったので、体重65kgなら1段弱めといった具合いに、体重に合わせた調整をお薦めしたい。

そして、本音を言えば、リヤタイヤがもっと細ければ、フロントにもっと軽快な素直さが出ると思えてならないが、コーナリングが楽しいバイクであることは事実である。

このMT-07は、フレンドリーさとマニアックさの入り混じり具合が絶妙である。バイクは、ホッとさせてくれるから、ワクワクもしてくるのである。

3気筒のMT-09の場合は、大きいサスストロークによる豊かな姿勢変化を生かすべく、それに合わせたスロットルコントロール、特に閉じ側でピッチングモーションを作り出すコントロールが求められるというマニアックな特性があり、それをこなせる人にはこの上ない面白さがある。でも、MT-07は乗り手を選ばない寛容さも持ち合わせているのだ。

和歌山利宏|二輪ジャーナリスト
1954年生まれ、1975年にヤマハ発動機に入社し、様々なロードスポーツバイクの開発に携わり、テストライダーも務める。また、自らレース活動も行ない、鈴鹿8耐第5回大会では4位入賞の成績を持つ。現在は二輪ジャーナリストとして執筆活動、ライディングインストラクターなど多方面で活躍中。

《和歌山 利宏》

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