【マツダ アクセラ 試乗】高付加価値戦略がくみとれる内外装の質感…井元康一郎

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マツダ アクセラ ハイブリッド S
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  • マツダ 新型 アクセラ(参考画像)
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マツダが昨年11月に投入したコンパクトクラスの世界戦略モデル、新型『アクセラ』に試乗する機会を得たのでリポートする。まず内外装の仕上げやディテールのタッチなどの品質面から詳しく見ていきたい。

◆CX-5、アテンザに続く高付加価値戦略車第3弾

初代アクセラがデビューしたのは2003年。数えて3代目となる新型アクセラは、先代同様5ドアハッチバックに加えて独立したトランクを持つ4ドアセダンもラインナップする。また、2.2リットルターボディーゼル、トヨタのシステムを用いたストロングハイブリッドなど、話題豊富である。

近年、マツダは富士重工を追って高付加価値戦略を打ち出しており、欧州Cセグメント(フォルクスワーゲンゴルフなどと同格)のアクセラは、その戦略の中核を担う重要なモデルである。高付加価値化への意気込みが感じられるのは、クルマに乗り込んで各部を操作するときのタッチだ。

たとえば室内のドアハンドルを引くとき。ドアハンドルとドアを固定するキャッチロックの間には、ワイヤーやリンケージなど、フリクションのもとになるような部品が介在しており、操作の質感を高めるのは結構苦労するポイントである。アクセラのそれはゴリゴリとした感触や重さがまったくなく、作動のインフォメーションを伝えるクリック感だけが残されるなど、Cセグメントの世界のライバルのなかでも非常にクオリティの高い操作感であった。

◆感性品質が飛躍的に向上

ドアハンドルだけでなく、カリッカリッと決まる手動変速機のシフトフィール、自動変速機のシフトレバーの動き、ステアリングの握り心地やフリクション感、パワーウィンドウ操作時のノイズなど、クルマを購入後、時間が経過するにつれて気になってくるポイントのネガが丁寧に潰されているという印象。先にデビューした上級モデルの『アテンザ』に対して“下克上”を果たしている部分も多々みられたことから、マツダのラインナップにおけるヒエラルキーの維持をあまり気にせず、定められたコストのなかでできることをやり尽くすというポリシーで開発を行ったことがうかがえた。

コクピットへの着座感はアテンザに似た、ややタイトなもの。今回の試乗は最長で2時間だったため、長距離ドライブ時のフィーリングは試せていないが、シートの身体保持機能は結構良いものに感じられた。ガソリン及びハイブリッドモデルにはレザーとファブリックの2種類のシート表皮があるが、身体へのフィット感が良いのはファブリックのほうだった。

これらの感性品質だけでなく、見た目の質感も旧型モデルに比べて上がった。車格や価格を考えると高い素材を使えるわけではないが、デザインや表面処理を工夫することでうまく上級感を出している印象。インパネのメーター類は先代に比べてかなり凝縮されたディスプレイとなっており、インフォメーションは把握しやすい。

難点は低グレードのシルバー塗装の加飾パネルがいかにも安っぽく、室内の雰囲気をスポイルしているように感じられたこと。これならオフブラックのほうが良かったかもしれない。また、アテンザにも共通することだが、機能性に気を取られるあまり、ワンポイントの光物など、オーナーが乗る度に自己満足を覚えるような演出がなく、華には欠ける。もうひと工夫すれば、控えめで好ましい雰囲気はそのままに、マツダが狙いとする上級感をもっと出せるのにと残念に感じられた。

◆原点回帰のデザインファクター

エクステリアのスタイリングはあらためて公道で見ると、なかなかの出来栄えであった。発表会で見た時はフロントノーズが長く、フェイスもかなり攻撃的な表情で、造形レベルは高いのだが品位には欠けるような気がしたのだが、試乗中に首都高速の大黒パーキングエリアで他の車と並べて見ると、このくらいエモーションの強い表現を与えないと、他モデルの間に埋没してしまうのだなと考えを改めさせられた。

90年代にマツダが『ユーノス500』や『ランティスクーペ』などの商品に採用、欧州メーカーがこぞって追従したリアフェンダーからボディ後端に向かう丸みなど、マツダにとっては源流回帰とも言えるデザインファクターが随所に散見される。とりわけ旧来のマツダファンにとっては喜ばしく感じられるスタイリングといえるだろう。

細部の造形自体は上位モデルのアテンザと相当異なるが、全体を俯瞰するとは同一ブランドだとひと目でわかるのも面白いところ。アテンザはデザインや仕立て、技術パッケージ等で高い評価を得ながら、車両価格が高く、しかも日本では売れ筋から外れ気味のDセグメントセダン&ワゴンということで、日本市場で爆発的な販売とまでは至っていないが、アクセラは発売後1ヵ月で1万6000台の受注があったという。上位モデルでブランドイメージを作り、下位モデルで顧客を取り込むという作戦を最初からマツダが立てていたわけではなかろうが、結果オーライという状況である。

◆塗装には惜しい点も

惜しい点を挙げるとすれば塗装表面の仕上げ。もっとも顕著なのはテーマカラーのソウルレッド。このカラーはルノー『クリオ』のルージュフラムと同じく、下地と透明なクリア層だけで色を出すのではなく、クリア層に色をつけて、下地との合成色とすることで深々とした色合いを出すという技法が用いられている。天気の良い昼間など、ハイライトが当たっている状態では、このソウルレッドは光の強さや当たり具合によって実に美しいグラデーションを見せる一方、日が落ちて暗くなると、彩度が落ちてくすんだように見える。これはアテンザにも共通してみられる現象だ。

最初から大したことのない色なら気にならないのだろうが、ソウルレッドは昼間が実に見栄えがするだけに落差が大きく、気になってしまう。クリア塗装表面を鏡面仕上げのように平滑にすることができれば、昼夜問わずプレミアム性の高い見栄えを手に入れられることだろう。塗装技術をもうひと息頑張ってほしいと思った次第だった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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