先の東日本大震災による電力供給不安を体験してみて、単純な電気自動車では電欠してしまえば移動もままならなくなってしまうという現実に気づかされた。
その点、三菱の『アウトランダーPHEV』は12kWhの電池容量を持っており、しかも100V 1500Wという大電力供給が可能。家庭用の一日分の必要電気量といわれる10kWhを上回っており現実的に有効と思われる性能を備えている。しかも、停車中や走行中に蓄電が可能でこれを利用すれば10日分程度の電力供給が可能というから、まさに我が家の発電所といったクルマであるわけだ。
このような性能も、先の震災以来リアルな性能として考えることができるようになってしまった。もちろん緊急時の電源ばかりでなく、アウトドアシーンでも有効だし、こちらが本来意図した魅力だ。
さて、クルマとしてのPHEVの性能だが、これだけの電池容量があれば、市街地はほぼEVで走行が可能。高速道路での移動中に充電し、再び街に降りたらEVで走行するといったこともできる。
PHEVの魅力は、EVとして優れた性能とともに、クルマとしての走る面白さとか走りやすさを備えていることだ。PHEV化したことで270kgほど重量アップしているそうだが、バッテリーをフロアに搭載し、重心をガソリン車のアウトランダーに比べ30mm下げているのだという。また前後重量配分も55対45となっている。その結果、実際に運転しても腰高な感覚がなくカーブでも重心の低さからくる安心感、安定感がある。
PHEVは大容量電池を搭載してるためか、出力の大きなモーターを前輪用と後輪用2基搭載しており、モーター駆動による4WDとなっている。モーター特性で、発進時に力強いトルクが発揮されることもあって、軽々と走り出し、スムーズに加速してくれる。それでも絶対的な重量増は慣性重量を大きくしているので、誤解を恐れずに言えば曲がる・止まる性能は不利になる。それを解消するために三菱がPHEVに導入しているのがS-AWCだ。これはツインモーター4WDとAYC、ASC、ABSとを統合制御したもので、曲がる性能をアシストする機能と考えてもらえばいい。
例えば右に素早く曲がりたいときには、右にハンドルを切ると前のモーターのトルクを絞って曲がりやすくし、かつ右側前輪に軽くブレーキをかけることでより強いヨーモーメントと(曲がる力)を発生してくれる。具体的にどんな風にクルマが動くかというと、じつはあまり違和感がなく、ハンドルを切るとスイッと鼻先がハンドルを切ったほうに向き、するりと曲がってくれる。
このあたりの味付けの巧みさは三菱がランエボで培ってきたノウハウがふんだんに盛り込まれているのだろう。
実用上の不満はないが、あえて言えば、ブレーキの容量をもっと増やして欲しい。フィーリングや微細なコントロール性の点でより好ましくなると思う。ともあれ、機械的にドライバーの意図とかかわりなく制御されているような不快感がないのが何よりもいい。あたかも自分がすべてをコントロールしているかのように…つまり気持ちよく走ることができるクルマにも仕上がっているのだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーく:★★★★
オススメ度:★★★★★
斎藤聡|フリーランス・ライター
クルマの「走る(走らせる)」という点に興味があり、走らせることの楽しさ、面白さを中心とした試乗レポートが多い。守備範囲は、軽自動車からセダン、RV、スポーツカー、チューニングカーまでなんでも。また、安全運転にも興味があり、安全運転スクールのインストラクターも務める。COTY選考委員。