【スズキ スイフト 試乗】大衆車の課題に正面から挑んだ開発陣に拍手…家村浩明

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スズキ スイフト XS-DJE
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『スイフト』が渋いマイナーチェンジを行なった。

主たる狙いは燃費の改善で、開発陣によれば、スイフトを購入したカスタマーにリサーチしたところ、デザインや走りについては満足度が高かったものの、燃費や経済性についての評価がやや低かった。そこから、どうしたら燃費を向上させられるかをメインにしての開発が始まったという。

さて、そういうテーマだとして、ではどうするか。手っ取り早いのは、電動モーターとのコラボレーション(ハイブリッド化)で電動駆動の時間を増やし、化石燃料の消費を減らすという手だが、しかし、それは同時にパーツとコストと車重の増加を招く。

ここで思い出すのはマツダの「スカイアクティブ」だ。電動化というワザを使わない(この時点では)ことにしたマツダは、既存のエンジンをどこまで改良できるかに挑戦して、マーケットからも評価を得た。だがスズキ開発陣によれば、スカイアクティブは「ずいぶん贅沢」なのだという。エンジンは直噴化してあるし、システムにしてもパーツにしても、かなりのコストをかけてもいいというスタンスによる開発、それがスカイアクティブというのだ。

しかし、『スイフト』はそうではない。そういう“何でもやれ!”はできない。これはリスペクトを込めて言っているのだが、スイフトはもっとビンボー(笑)なのだ。あくまでもスイフトというモデルの範囲内で(2WDの最も高価な仕様で160万余円だ)、コストや販価も考えながらの省燃費化を果たす。だから、ハイブリッドなし、直噴なしなのだ。エンジンパーツの“新装”で目立つのはインジェクターをデュアル化したくらいで、あとは、圧縮比にしても燃焼室にしても、ひたすら、既存のもの改良と見直し、その調整でまとめてあり“飛び道具”は何もない。

ゆえに、ニュースにもなりにくいのだが、クルマ(パーツ)を高価にしないことを大前提に、しかし、従来型よりは絶対に良くしたい!この日本の「大衆車」に課せられた課題を正面突破しようとした、そんな好ましいジョブが今回の「MCスイフト」なのである。ちなみに一応ネーミングはあって、燃料噴射装置を1気筒あたり2本とした点に着目し、この新エンジンには「デュアルジェット・エンジン」という名が与えられている。また、アイドリングストップは、時速15km以下ではスパッとエンジンを止めてしまうという割り切った設定だ。

では、新型スイフトで走ってみる。今回は市街地のみを走行した。スイフトの真骨頂でもあるコーナリングはナシという状況だったが、そうした車速が低い状況でも足はしなやかで、乗り心地も滑らか。エンジンの低回転域での“チカラ”も十分にあり、日常使用車としてスグレものであることを体感した。低燃費エンジンでは低・中速域でのトルクが細いと感じるものが時にあるが(開発陣はこのあたりを気にしていた)、この「デュアルジェット」にはその種の不足感はない。アクセルの踏み代に応じて、ドライバーが望んだ“チカラ”や駆動力が応分に発揮される。

そして、スイフトにはもうひとつ、長所がある。それはシートだ。スポーティ仕様のRSが追加されたときに、いいシートが載ったものだと思ったが、今回は、それをベースにシリーズ全体でグレードアップがなされたと思える。腰(脊椎)の低い部分をしっかりと押さえてくれる基本形状が良好で、同時に身体の全体を隙間なく、かつ万遍なく支え、身体のどこか特定部分にストレスを与えない。厚味感も十分なそんなシートが、このプライスで手に入る。

総じて、長所は拡大し、短所は底上げするというマイナーチェンジ。新型スイフトの充実に拍手を贈りたい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

家村浩明|ライター&自動車ジャーナーリスト
1947年、長崎生まれ。カー雑誌やムックなどの編集を経て、1983年頃よりクルマ関連を中心に執筆活動をはじめる。クルマは“時代を映す鏡”として興味深いというのが持論で、歴史や新型車、モータースポーツとその関心は広い。市販車では、近年の「パッケージング」の変化に大いに注目。日本メーカーが日常使用のための自動車について、そのカタチ、人とクルマの関わりや“接触面”を新しくして、世界に提案していると捉えている。
著書に「自動車コラム大全1984~1989」「最速GT-R物語」「プリウスという夢「(以上、双葉社)「ル・マンへ……」など。大久保力氏の著作「百年のマン島」(2008年・三栄書房)には編集者として関わった。

《家村浩明》

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