『フォーカス』=“ええクルマ”は、クルマ事情通の間では、昔からの常識だ。Cセグメントの巨人=VW『ゴルフ』の打倒を、これほど真剣に考えてきたモデルは他になかった(ルノー『メガーヌ』くらいか)わけだし、過去には実際に、ゴルフのケツを蹴飛ばすほどの実力をみせつけたこともあった。
というわけなので、正規輸入の再開は大歓迎だ。
グローバルで単一モデルを造り販売するというフォードの新しい戦略は、今のところ成功を収めていて(一モデルで世界一の販売台数)、そのなかに日本市場を含めてくれたことを、素直に感謝したい。だって、この難しい市場で、欧風タイ生産の小さなフォードなんて、どだい苦労するのは目に見えている…。
これで、どこかの国産ハッチバックモデルのように、お話にもならないくらい低レベルの仕上がりだったなら、無視を決め込めばよかった。
けれども嬉しいことに新型フォーカスは、売る方はもちろんのこと、われわれ伝える方だって、“苦労のしがい”ある完成度の高さを誇っている。どうにかして、日本のユーザーの心のハードルを押し下げ、ほんのわずかでいいから、よくできたフォーカスを受け入れる隙間を作ってあげたい。乗ってみると、真剣にそう思えるクルマだったのだ。
魅力の源はナカミ=走りの資質に尽きる。ボディとシャシーとアシの組み合わせ、バランスが一級品。町乗りの快活な心地よさと、攻め込んだときの粘り気ある活発さに関しては、試乗した時点で、ボルボ『V40』やメルセデスベンツ『Aクラス』を上回って、欧州Cセグメントナンバーワンだとさえ思った(ゴルフが出てくるまでは…)。
問題は、だ。よくできたナカミを覆うデザインや仕上げ質感が、グローバル平均点のマーケティング志向で作られていること、燃費対策が不十分なこと、それでいて、ライバルたちに比べればちょっと割高なこと、などである。
やっぱり“ツウ好み”で終わってしまうのかなあ。でも、この走りが世界のスタンダードだってみんなが知ることで国産車がレベルアップする、とも思ったり…。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。精密機械工学部出身。