サーベラスも知らない?西武の「不採算」路線…休止から半世紀の安比奈線

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新宿線南大塚駅付近に残る赤さびたレールと木製の架線柱は、川砂利輸送を目的に建設された安比奈線の名残。法手続上は現在も休止であり、「廃線」ではない。
  • 新宿線南大塚駅付近に残る赤さびたレールと木製の架線柱は、川砂利輸送を目的に建設された安比奈線の名残。法手続上は現在も休止であり、「廃線」ではない。
  • 安比奈線の路線図。
  • 安比奈線はあくまで休止線。廃線ではないから現在も西武鉄道が線路を管理しており、「立入禁止」の看板が立てられている。しかし一部の線路敷地は周辺住民のガーデニングの場と化している。
  • ナノハナが咲き乱れる安比奈線の線路敷地。2条のレールが少しだけ顔を出している。
  • 線路脇の木々の葉が安比奈線の線路を覆っている。
  • 安比奈線の線路敷地は通常立入禁止だが、2009年には西武鉄道の主催により安比奈線のウォーキング大会が開かれたことがある。写真の橋桁に設置された欄干はそのときに整備されたものと思われる。
  • 終点・安比奈駅の少し手前に残る線路。レールの下に木の根が張り出しており、現状のまま列車を運行することは不可能だ。

西武ホールディングス筆頭株主の米投資会社サーベラス・グループが「西武鉄道の一部路線廃止」を提案したとして、大きな波紋を呼んでいる。不採算部門の整理による株価引き上げが狙いとされるが、一方で半世紀近く休止している安比奈線は廃止対象から漏れている。

安比奈線は、新宿線の南大塚駅(埼玉県川越市)から分岐し、入間川の河原に設けられた安比奈駅までを結ぶ、全長3.2kmの鉄道路線だ。関東大震災後の復興事業に伴う砂利需要の急増を背景に入間川の砂利を輸送するための貨物線として計画され、1925年2月15日に開業した。

1949年5月には電化されて電気機関車が運行できるようになり、戦後の復興需要にも対応した。しかし、東京オリンピックによる建設ラッシュが一段落ついた頃に運行を終了した模様で、入間川の砂利採取が規制された1967年には正式に休止線となった。

法手続上は休止であるため、安比奈線の線路はほぼ全線に渡って残されている。しかし、道路との交差部など一部の線路は撤去。線路が残っている部分も架線がほぼ撤去され、木製の架線柱は朽ちるに任せた状態になっている。現状のまま列車を運行することは不可能だ。

実質的には廃線に近い状態だが、1987年には新宿線西武新宿~上石神井間の複々線化が計画され、これに伴い安比奈線の再整備も計画された。複々線化で新宿線の運行本数が増えると運行に必要な車両数も増加し、それを留置するための車両基地を整備しなければならない。そこで安比奈駅を車両基地として再整備し、新宿線と車両基地を結ぶ回送線として安比奈線を使用することが考えられた。

しかし、不況や少子高齢化の影響で新宿線の利用者が減少したことから、複々線化計画は事実上中止となり、車両基地と安比奈線の整備計画も宙に浮いた。西武は車両基地の整備計画を捨ててないものの本格着工の動きは見られず、安比奈線も休止状態が続いている。

休止中の安比奈線は輸送量がゼロで、もちろん運賃収入もない。その上、土地や施設は完全に遊休化しており、ある意味では不採算路線となっている。しかし、サーベラスが廃止を提案したとされる路線は、これまでの報道によれば多摩川線、山口線、国分寺線、多摩湖線、西武秩父線の5線。安比奈線の名前は全く挙がっていない。

サーベラス側は、一部路線の廃止は「検討項目の一つであり、提案したことはない」などとしているが、これまでの報道が事実なら、明らかに不採算路線である安比奈線の名前が挙がっていないのは不可解だ。半世紀近い休止で路線の存在自体が忘れられた格好となっており、サーベラスも安比奈線の存在に気づかなかったのだろうか。

《草町義和》

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