【フォード フォーカス 試乗】真の意味でのグローバルで戦えるプロダクトとなった…川端由美

試乗記 輸入車
フォード・フォーカス「Sport」
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久方ぶりの欧州フォードの上陸! と『フォーカス』を歓迎するのは、ある意味では正しいが、ある意味では間違っている。

というのも、日本に上陸する初のグローバル・プロダクトであり、アメリカ、ヨーロッパ、そしてアジアに展開されるフォードのリソースを集約して開発されたモデルだからだ。

実際のところ、去年の夏に開催された国際試乗会には、エンジニアはベルギーやドイツから、マーケティングや車載ITの開発者はアメリカから、それぞれ集まっていた。そして、試乗会の会場に選ばれたのは生産工場のあるタイだった。同じ会社なんだから当たり前だろう!と思う人も多いかもしれない。

しかし、各地に散らばるリソースを集約してグローバルで勝負できる製品を作るということは、大企業ほど難しい。ましてや、以前のフォードは地域ごとに縦割りの組織で、ある関係者から聞いた話では、現CEOのアラン・ムラーリが就任する以前には本国のトップが欧州フォードの開発拠点を訪れたことなどなかったらしい。

だからこそ、本国ではアメリカらしさを強調したクルマを、欧州では欧州らしい味わいのあるクルマを、それぞれに開発できたわけだが、今の時代にグローバルでの戦略を立てなければ生き残りは難しい。

グローバル・プロダクトの日本上陸第一弾と聞いて、フォーカス・ファンが真っ先に気にするのは”欧州フォードらしさ”を失っていないかどうかだろう。結論を急ぐようだが、欧州フォードのこだわりどころである”欧州車らしさ”は、存外、味わい深くこのクルマの遺伝子に刻まれていた。それはスタイリングにも、走りにも、色濃く現れている。

近年のフォードが推進するキネティックデザインからは、力強い面とエッジの効いたキャラクターラインの組み合わせによって、鍛えぬかれたアスリートが駆け出すときのような躍動感を感じる。ほどよくタイトな運転席に座って室内を見回すと、外装同様、スポーティネスを感じさせる要素が散りばめられている。ドライバーズシートを中心に設計されたコックピットは囲まれ感があり、サイドサポートの張り出したシートがスポーティが身体をしっかり支えてくれる。

タイで試乗したときには、山道での元気の良さと市街地での乗り心地の良さの両立に驚きを隠せなかったが、日本の道でもそれらの美点はそのまま感じられた。日本に導入されるのは、現段階では5ドア・ハッチバックの「スポーツ」のみ。搭載されるパワートレーンは、2L直噴NAエンジンと6速DCTが組み合わされる。4359×1824×1466mmのスリーサイズは『ゴルフ』より一回り大きいが、寸法から想像する以上に室内は広々しており、後席の足周りと頭上空間の余裕は特筆に値する。

Dレンジに入れてアクセルを踏み込むと、自然吸気エンジンならではの吹け上がりが気持ちいい。最近流行りの過給ダウンサイズ・ユニットに慣れた身体は、懐かしさがこみ上げてくる。もちろん、ただ懐かしいだけではない。170ps/202Nmを発揮する可変バルブタイミング機構付2L直噴ユニットは、自然吸気でありながらも、1500rpmで最大トルクの80%近くを発揮し、どの速度域からでも力強くグイグイと引っ張ってくれる。ゲトラグ・フォード製DCTはダイレクトな操作感が気持ちが良く、シフトヘッドの横にあるボタンを使って積極的に変速して操りたくなる。変速マナーがよく、6%もの低燃費化と共に常にドライバーが望む加速を引き出してくれる。

あえて苦言を呈すなら、JC08モードによる燃費は12.0km/リットルと、ゴルフTSIの15.8km/リットルとくらべて見劣りするところだ。とはいえ、エンジンに関しては、高速道路で巡航するなどの負荷が低いシーンでは積極的に燃料をカットオフし、吸排気のバルブタイミングを最適化されている。ボディに関しては、約1000時間もの風洞テストを行なって空力を検討し、エンジンへの冷却空気の流れを必要に応じて開閉するアクティブ・グリル・シャッターを採用するなど、新たな試みがなされている。ブレーキ時にエネルギーを回生しバッテリに蓄積するといった現代的な低燃費化もはかられている。限られた試乗時間の中では、実燃費を測定できなかったのが悔やまれる。

エコとパワーのバランスについては議論し尽くせないところもあるが、このクルマのドライビング・プレジャーについては多くの人の意見が一致するだろう。キビキビとしながらもグッと粘る懐の深い足回りとインフォメーションが豊かなステアリング・フィールがあいまって、”欧州フォードらしさ”を生み出している。ドイツ車でも、フランス車でも、イタリア車でもない、”ヨーロッパ車らしさ”が、このクルマにはあるのだ。

同じCセグメントに属するゴルフほど足回りは固められておらず、イタリア車ほどロールはせずに、よく動く足で荒れた路面からの入力をいなしていく。あらたにトルクベクタリング機構が採用されたことにより、ワインディングロードでのコーナリング時に鼻先をクン!と曲げていき、小気味いい走りを披露する。欲を言えば、これだけスポーティなのに、MT仕様の設定がないことは残念だし、旧来のフォーカス・ファンの中には250ps/36.7kgmを発揮する2.0Lターボを積む「ST」を望む声があるのも想像に難くない。

歯に衣着せぬ物言いをすれば、このクラスには「ゴルフ」という王者が君臨している。そして、プジョー『208』、シトロエン『C3』、ボルボ『V40』、アルファロメオ『ジュリエッタ』という伏兵が潜み、ライバルが星の数ほどいる。しかしながら、フォーカスにはその中で勝負を挑めるだけの個性がある。吹け上がりの良い自然吸気2Lユニットと6速DCTを組み合わせ、剛性感の高いボディにトルクベクタリング機構を備えてキビキビとスポーティに走る…と繰り返すまでもない。

とにもかくにも久方ぶりに日本に再上陸したフォーカスは、長年、欧州の地で培われた味わいを継承しながらも、グローバル化によって得た近代的な面を盛り込んでいる。その点では、真の意味でのグローバルで戦えるプロダクトとなったことは間違いない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

川端由美|自動車ジャーナリスト/環境ジャーナリスト
エンジニア、自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランス。自動車の環境問題と新技術を中心に、自動車専門メディア、自動車技術誌、ライフスタイル誌、経済誌といった幅広い分野に寄稿する。各国のモーターショーや技術学会を取材する国際派でもある。

《川端由美》

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