【新型 クラウン 試乗】3.5リットル V6 に新世代クラウンらしさを見た…井元康一郎

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トヨタ自動車のプレステージサルーン『クラウン』。昨年12月に発表された14代目モデルに短時間ながら試乗する機会を得たのでリポートをお届けする。

パワーユニットで最も人気があるのは、従来の3リットルV6代替のパワーユニットである2.5リットル直4ハイブリッド。旧型はボトムエンドの2.5リットルV6が最量販だったことを考えると、ハイブリッドモデルの低コスト化を上手く利用して上位誘導を果たしたと格好だ。メーカーは利益が拡大し、ディーラーは売りやすく、ハイブリッドプレステージセダンを手頃な価格で買えたユーザーの満足感高しという“三方一両徳”も、新型の人気の高さの一因と言えよう。

その新型クラウンだが、普通のガソリンエンジン搭載車ももちろん用意されている。ハイブリッドの陰に隠れた感のあるガソリンエンジンのフィールについても試してみた。

◆アイドルストップ機構が欲しかった

まずは「4GR-FSE」型2.5リットルV6搭載の「ロイヤルサルーンG」から。ハイブリッド2機種の後に試乗したということもあってか、市街地を走り始めてまず感じたのは「停車しているのに延々アイドリングするのがもったいない!」という軽いストレス。アイドルストップ車用の鉛バッテリーのコストが量産効果で急速に下がっている今日、先進性をうたうモデルはアイドルストップ機構を原則標準装備にするくらいの気合を見せてほしいところである。

エンジンそのものはモデルライフ途中でレギュラー仕様化された旧型クラウンの2.5リットルV6とほぼ同じもの。遊星ギア式6速ATもキャリーオーバーである。2003年のゼロクラウンでデビューしたときは、出力特性の良さやエネルギー効率の高さで脚光を浴びたが、その後、ライバルメーカーも優秀な対抗ユニットを続々出してきたこともあって、今日においてはパフォーマンスは平均レベル。

2.5リットル直4ハイブリッドに対するアドバンテージとして期待したいのは、よく「シルキー(絹のような)」と表現される6気筒エンジンならではの緻密で静かな回転感と低振動。だが、もともとGR系6気筒エンジンが少しザワザワしたフィーリングであることもあって、それほど高級感に満ちたパワートレインというわけではなかった。とくにアクセルをあまり深く踏み込まないハーフスロットル領域では、エンジン負荷が高まる時間の少ない4気筒ハイブリッドに負けているように感じられた。

◆年間走行距離の少ないユーザーには2.5リットルV6もあり

もっとも、最高出力203馬力、最大トルク24.8kgmという性能は、1.6トン弱とラージクラスのモデルとしては比較的軽量に仕上がっているクラウンを走らせるのには十分な数値だ。同じく4GRのプレミアムガソリン仕様を搭載する『レクサスGS』2.5リットルに比べて電子制御スロットルの味付けが大人しいというかマトモで、旧来のトヨタ車の感覚で運転すると飛び出しが悪いように感じるが、アクセルをきちんと踏み込めばダッシュ力は十分に得られる。

首都高速、それほど混雑していない一般道をほぼ1:1の割合で横浜~鶴見界隈のベイエリアをごく大人しくドライブしてみたさいの燃費は11.1km/リットル。感覚的にはハイブリッドの6割程度の値だが、排気量が大きめのガソリン車としては優秀なほうである。

かりに都市部と高速道路混合でV6が10km/リットル、ハイブリッドが18km/リットル、レギュラーガソリン価格150円とした場合、年間1万5000kmを走るユーザーが支払う燃料代の差がちょうど10万円くらいになる。ガソリンとハイブリッドの価格差は50万円以上あるため、年間走行距離がそれほど多くないユーザーはV6を選んでも損はない。

3年ないし5年ごとに新車に乗り換えるユーザーの場合、かなりの長距離ドライブ派でも燃料代で元を取るのは簡単ではないが、旧型から一転、ハイブリッドが売れ筋となっている状況では下取り価格に大差が出る可能性が高く、ハイブリッドにしておくのが無難であろう。

◆8速AT化で断然面白みが増した3.5リットルV6

同じガソリンモデルでも、「2GR-FSE」型3.5リットルV6搭載の「アスリートG」は性格がまったく異なる。エンジンはレクサスGSの3.5リットルとほぼ同じだが、最高出力315馬力、最大トルク38.4kgmと、ごくわずかながら数値が落とされている。一方、トランスミッションは逆にレクサスGSよりハイスペックで、従来の6速ATに代えて8速ATが装備されている。

テストドライブしてみると、この3.5リットル+8速ATの組み合わせはとても好印象だった。プレステージサルーンをいろいろな意味で“それらしく”走らせる能力とフィーリングという点では、ハイブリッドも含めた全ラインナップのなかで、新型クラウンのキャラにダントツに似合っている。

もともとこの3.5リットルはきわめて優れたパフォーマンスを持つエンジンなのだが、8速AT化によって、変速のシフトアップ、ダウンが格段に綿密になり、本来持っている能力が引き出されたように感じられた。首都高速の合流、ベイブリッジの登坂など様々なシーンにおいて、アクセルひと踏みで胸のすく加速感が得られる。

この8速ATは、ステアリングのシフトパッドを使って2ペダルATのように使うこともできる。面白いのは、シフトアップ時はトルクコンバーターのロックアップクラッチをほとんど解除することなく、変速機内部の湿式多板クラッチの切り替えを使って、欧州のデュアルクラッチ変速機のようにダイレクトに変速できることだ。

プレステージセダンというモデルの性格に合わせ、シフトダウン時にはロックアップを解除し、変速ショックを和らげている点は異なるが、同様の制御が与えられたハイパフォーマンスセダンの『レクサスIS-F』、『86』に通じるマニュアル変速の楽しさがある。ギア段が8速もあるためクロスレシオぶりもなかなかのもの。コンサバな6速ATを搭載したレクサスGSと比べて、パワートレインをコントロールする楽しさは桁違いであった。

首都高7割、渋滞なしの一般道3割の比率でエコランを意識せず、踏むところは踏んでドライブした結果、燃費は9.1km/リットル。似たような運転をした場合、燃費面は2.5リットルのV6と大した差はないと思われる。ハイブリッドよりぐっと値が張るが、少々荒ぶった性格のプレステージセダンを欲しい層にはオススメだ。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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