充電時間を効率化するために
トヨタ『プリウスPHV』に自宅への充電設備が必須だとした理由は、ただひとつ。一般的なHVのおよそ10倍の距離が望めるEV走行モードを余すところなく使い切るには、ドライバーが自宅に戻っている時間内に充電することが好ましいからだ。EV走行モードを使って移動したいと思う時に充電時間が重なると、もどかしさを痛烈に感じてしまう。長期試乗中、こうした状況を幾度となく経験した。
改めて言うまでもないがPHVの良さは、EVの弱点をHVの柔軟性がカバーしてくれることにある。一方で、EVとしての存在意義に過大な期待を寄せてしまうと、充電時間と移動時間の均衡点を探るという新たな課題と向き合う必要性があることも知っておくべきだろう。
集合住宅住まいの私からプリウスPHVにリクエストさせて頂くとすれば、やはり急速充電にも対応してほしい。200V普通充電/90分の満充電時間が長すぎるというよりも、26.4kmがリミットのEV走行モードを外部充電によって繰り返すことは、充電時間に実走行時間が反比例してしまうという別の問題を発生させるからだ。もちろん、EV走行モードを使い切ったとしてもHVとして優秀な燃費数値は達成できるし、積極的な充電を行いながらHV走行する走法があることも承知している。ただ、プリウスPHV最大の存在意義は、外部充電によってEVとしての長所を伸ばせることにある。その長所を強みにする施策のひとつが、この急速充電にあると私は考えている。
EVにはパーソナルモビリティとしての可能性
では、そのEVの強みについてもう少し深く考えてみたい。パワートレーンの高い汎用性からすると「パーソナルモビリティ」という分野での飛躍が期待できる。パーソナルモビリティとは、人ひとり、ないし二人が移動できる必要最小限のボディ(サイズや快適性など)をまとった移動体のことで、日産の『ランドグライダー』、プジョーの『BB1』、VWの『XL1』に代表されるように世界中の自動車メーカーが既存のクルマに替わる乗り物として注目しているカテゴリーだ。日本でも国土交通省による「超小型モビリティ」の導入検証がスタートしたが、これもパーソナルモビリティのひとつになるし、トヨタの『i-REAL」』や『Winglet』、ホンダの『U3-X』や『UNI-CUB』などのショーモデルや、ホンダやスズキが市販している、いわゆる「セニアカー」もその範疇だ。
パーソナルモビリティがEVと高い親和性を誇る理由は、5~8kWh程度のバッテリー容量でも十分に乗り物としての機能が果たせることだ。たとえば2011年冬に横浜市と日産自動車が共同で行った実証実験では、軽自動車よりもふた回りほど小さい「ニッサン・ニューモビリティコンセプト」が使用されたが、車両重量は470kgと市販軽自動車の最軽量モデルに対してその値を66%程度に収めつつ、バッテリー容量7kWhで二人の乗員を100km以上移動させることを両立させた。
この実証実験に被験者のひとりとして参加したが、歩行者や自転車との混合交通下でも無理がなく、加えてボディデザインが愛らしいこともあり、すれ違う人々に笑みがこぼれていたのが印象的だった。走行性能も満足のいくもので、システムの制限を解除すれば60km/h程度までの加速力は街中での流れをリードできる125ccの原付二種スクーター並み(約8秒)であることも検証できた。
ただ課題も見つかった。前述の必要最小限という観点から、簡易的なドアによるシェル構造となるため、どちらかというと二輪車(オートバイ)に近い解放感を伴う。これは軽快さを生む反面、天候の影響を直接受けるためクルマのような快適性や包まれ感はない。加えて、バッテリー容量と消費電力の関係から、パワーステアリングやブレーキサーボといった当たり前の装備がないことも荒削りな乗り味を助長しているようだ。シートベルトにしても、一般的な3点式に加えて右肩にもうひとつバンドを掛けるのだが、ベンチ形状に近いシートのホールド性が弱いため、たとえば交差点での右左折時におけるコーナリングであっても遠心力に対して体を支えることが難しかった。これはナローボディ+狭小トレッドでの緊急回避性能を保つためサスペンションの減衰力が高められていることが要因だ。名実ともに4輪車だが、コーナリングにはスノーモービルをライディングするように身体を使った積極的な加重移動を伴った運転を必要とすることも新たな発見だった。
PHVの可能性は…
一方で、PHVのさらなる発展性はどこにあるのか? 乗用車としての立ち位置はプリウスPHVで見たとおりで、使用環境と充電設備に応じて大きく異なることが分かった。だが、これが商用車となると話は大きく違ってくる。たとえば小型トラックのPHVだ。小型トラックとは積載量にして3tまでのクラスのこと。巷では数多く活躍しているが、半数以上は宅配便やコンビニエンスストアへのデリバリー便などで、都市内もしくは都市間における近距離輸送向けだ。御存知のように、宅配車両やコンビニ集配車は頻繁なストップ&ゴーを繰り返す。地域によって違いはあるものの、ほぼ決まったルートを走行することも特長だ。この小型トラックのPHV化に対する期待が寄せられている。現在、小型トラックのPHVは市販化されていないが、いすゞ自動車では、高い完成度を誇るプロトタイプによる実証実験が頻繁に行われ、近い将来、まずはコンビニ集配車での市販化を目標にしている。
また、商用車のPHV化は、トラックだけでなくバスへの適合性という意味でも高い可能性を秘めている。日野自動車は、2004年から実証実験車として非接触給電方式のハイブリッドバス「IPTハイブリッドバス」を走らせており、第一世代は羽田空港内のシャトルバスとして、第二世代は都営バスの路線区間に使われた。第二世代の特長は、第一世代でボディ下部に搭載されていた非接触給電システムの二次コイルをボディの左側面に移設したことだ。路線バスの場合は前述の小型トラック以上に頻繁な停車をバス停の度に繰り返すとともに、路線バスであればルートも限定される。将来的には従来の一次コイルを路面に埋め込む方式からバス停に移設することで設置コストの大幅な削減を目指すほか、乗客が乗り降りするわずかな時間のなかで非接触給電を行う新たな方式も検討がなされている。
これまで見たきたように乗用車カテゴリーのPHV/EVは、内燃機関のみをパワートレーンとする乗用車と遜色ない実用性を持っていることが市販化を通じて証明された。さらに、商用車/パーソナルモビリティへの発展性を導き出してくれた存在意義も非常に大きい。
10年、20年後のPHV/EV
その上で10年後を考えてみると、PHVの長所がさらに際立ってくるだろう。初代『プリウス』が技術革新とともに燃費性能を向上させ国内のベストセラーカーに登りつめたように、PHVの技術革新が進めば追い風となる。プリウスPHVにしてもそうだ。台数増と技術革新の両面から普及が後押しされるだろうし、『アクア』や『アルファード』のPHVといった波及モデルも考えられるだろう。20年後にはHVは少数派でPHVが多勢になっているかもしれない。
10年後のEVは、『リーフ』や『i-MiEV』のようなクルマ単体としての完成度だけが受け入れられるというよりも、スマートホームにおける家産家消という概念のほか、蓄電池としての機能が認められ、より存在意義を強めていくのではないかと推察できる。さらに、体積/重量両面でエネルギー密度の高い次世代バッテリーやキャパシター技術との併用によって、バッテリー重量と航続距離の相克課題にも決着が見えてくるはずだ。
20年後のEV、正直この予想が一番難しい。新興国での需要が高まり、それに伴う生産性の向上や低価格化は見えてくるが、乗り物としての形態はパーソナルモビリティの要素が強くなるのではないか。つまり、内燃機関車両の代替路線ではなく、質素で軽量なボディ(カーボン複合素材を多用)での躍進となるだろう。
これはPHV/EVの両方に言えることながら、もうひとつの鍵はバッテリーの価格とリサイクル性だ。1kWhあたり4万円を切るようになった今、パーソナルモビリティの電動パワートレーン化が現実のものとなっている。補助金に頼らなくとも説得力のある購入価格を実現するには、まずはここがポイント。さらに車載用として寿命を終えたバッテリーの回収と後処理システムの構築も課題だ。すでに二次利用を行う会社が自動車メーカーやサプライヤーとの合弁で立ちあがっているが、そこまでのコストをどう織り込んで車両開発を進めていけるだろうか。