「EVを新エネルギーソリューションに」…三菱グループの思惑

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三菱岡崎工場で行なわれたV2Xプロジェクトの発表会
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愛知県岡崎市にある三菱自動車技術センターで4月に竣工した新エネルギーソリューションの実証試験設備『M-tech Labo(エムテックラボ)』。

設備そのものは、一般家屋の設備4軒分ほどに相当する出力20kWのソーラーパネルと出力3kWの小型風力発電機、EV5台が駐車できる充放電ブース、EVの中古バッテリー5台分の定置型蓄電装置という、スマートグリッドとしてはミニマムな規模。

が、技術面では三菱自動車、三菱商事、三菱電機の3社が政府系開発プラットホームのNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同で推進している「V2Xプロジェクト」実用化という重要なミッションを受け持つ装置だ。

V2Xで電力需要のピークカット・ピークシフト

V2Xとは「Vehicle to X」の略。いったんEVに蓄えた電力を走行ではなく、別の用途に使うために放出する技術のことだ。V2H(EV-家屋)、V2B(EV-ビル)、V2F(EV-工場)、またアメリカが早期実現を目指すV2G(EV-電力網)などがある。V2Xプロジェクトは最終的にはそれらの包括技術の確立を目指すという遠大な計画である。

そのV2Xを看板に掲げるこの設備は、単にソーラーパネルで得られた電力をクルマに溜め込むだけではない。隣接する事務棟・生産本館と双方向で電力供給を行う機能を持ち、事業所で使うエネルギーのグリーン化や電力需要のピークカット、ピークシフトの実現も狙っている。

EVをエネルギー問題に対応する新たなモビリティに

「太陽光などの自然エネルギーによる発電システムは天気など環境に影響されることが多く、非常に不安定な電力。エムテックラボはその不安定な再生可能エネルギーの電力を中古EVなどから回収した蓄電池に溜め込み、ソーラーパネルと合わせて最大50kWの電力供給を行う能力を持つ。これにより生産本館(技術センター事務棟の一つ)の電力需要変動を大幅に抑制できる見通しだ。EVがエネルギー問題に対応する新たなモビリティとして進化する可能性を示したい」三菱自動車の益子修社長は新エネルギーソリューションへのEVの活用について、こう期待感を示した。

三菱自動車の資料によれば、生産本館の電力需要のピークは昼食時を挟んだ午前と午後の2回あり、それぞれ約240kWh。エムテックラボのソーラーパネルの発電や定置型蓄電池、EVに蓄えた電力を利用することで、そのピークを200kW弱にまで引き下げられるという。

電機、商事もビジネスチャンスとみる

このプロジェクトに意欲を燃やしているのは三菱自動車だけではない。電力システム大手でありながら、世界でいまひとつ存在感を示しきれていない三菱電機も然りだ。

EV充放電スタンドや生産本館側のエネルギーマネジメントシステムなどの開発に関わった三菱電機のエンジニアは「このシステムが再生可能エネルギー活用に有効だと証明できれば、海外にも積極提案できるようになる。海外展開の後れを挽回するチャンスにしたい」と語る。

三菱商事にとっても、V2Xはビジネスチャンスだ。EV普及の最大の障害となっているのは、現状でエンジン車のパワートレインの数10倍ともいわれるバッテリー価格の高さ。「量産が進めばコストが下がるというものではない課題もある」(大手電池メーカー関係者)ということもあり、価格を下げるには使用済みバッテリーの再利用によるコスト分散は絶対条件だ。

すでにいくつもの企業が廃バッテリー利用ビジネスに手を上げているが、「自動車メーカー、インフラメーカー、家電メーカー、商社、行政など、関係者それぞれに思惑があり、やり方の方向性がまとまらない。自工会ですら一枚岩になれない状況」(前出の電池メーカー関係者)というのが実情だ。

実証試験を通じて中古バッテリーはこういう用途に使えるという具体的な形を示すことができれば、三菱商事がEVのビジネスモデル作りで世界の主導権を取れる可能性も高まる。

再生可能エネルギーの有効活用、EVと“X”の電力相互供給、EV普及の絶対的前提といわれる中古バッテリー再利用など、スマートグリッド実現の課題技術を1つの小さな設備に目一杯詰め込んだエムテックラボ。目論見どおりの果実を手にすることができるか。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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