トヨタの新型FRスポーツ『86』は造形面にもこだわった。そのために、チーフエンジニアの製品企画本部・多田哲哉氏が行ったのは、まずデザイン決定までのプロセスを一新したことだった。
「クルマにとってデザインは大事なので、役員が全員集まってチェックする会議が何度もあって、それを乗り越えていくにつれて、しだいに普通の形になってしまうのです。このクルマの場合も、1回目の会議でいろいろ言われたので、これではダメだと思って、『私が勝手に決めていいか』を審議してもらったんです。でもひとりで決めるのは不安だということで、社長と2人で決めるならいいという許しをもらいました」
デザインを進めるうえでは、名前を受け継いだ「AE86」や、コンセプトを受け継いだヨタハチ(『スポーツ800』)のリメイクにしようという気持ちはまったくなかったそうだが、『2000GT』については参考にしたという。
「トヨタのスポーツカーのデザインでいちばんの傑作はやっぱり2000GTですから。どこかを真似するということではなく、何十年経ってもいいと思える形を作ろうと。そのために、日本でいちばん程度のいい2000GTを探してきて、クレイモデルを作っているときに、横に置いたんです。モデラーには、10分に1回は振り返って、オーラを感じながら削っていってくれと言っていました」
具体的には、サイドウインドーのデザインは2000GTをイメージしたそうだが、それ以外はオリジナリティの高い造形と言えるだろう。ちなみにデザインテーマは「ネオ・ファンクショナリズム」で、空力にはF1で培った技術を投入しているという。