大矢アキオの『ヴェローチェ!』…ベルトーネのコレクションが芸術遺産に

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アルファロメオ・モントリオール(1970年)
  • アルファロメオ・モントリオール(1970年)
  • アルファロメオ・スプリント・スペチアーレ(1959年)
  • フィアットX1/9 (1972年)
  • ボルボ780クーペ(1985年)
  • ジャガーB99GTとリッリ・ベルトーネ会長(2011年ジュネーブモーターショー)

■■ 経営難から復活 ■■■■■■

イタリアのカーデザイン会社・ベルトーネの歴代車両コレクションが2011年11月2日、イタリア文化財・文化活動省によって芸術遺産に指定された。

同コレクションは生産モデル、コンセプトカー、ワンオフ・モデルなど全78台で構成されており、現在トリノ郊外カプリエにあるベルトーネ本社の一角に納められている。

創業家2代目ヌッチオ・ベルトーネの未亡人で、現在同社の会長を務めるリッリ・ベルトーネは芸術遺産指定に際し、「ベルトーネはイタリアで今日唯一の独立系カーデザイン会社。来年2012年には創業100周年を祝う。私たちは、この国家的認証を喜びと満足をもって受け取る」とコメントした。

これを機会にベルトーネはコレクションを2012年にミュージアムとして一般公開するため、220万ユーロ(約2億3500万円)を投じる。イタリアに本拠を置くカーデザイン会社としてのイメージ向上に役立てる考えだ。それに先立ち、2011年11月13日には事前に車両を無料公開する。

ベルトーネは北京とミュンヘンにすでに新オフィスを構えたのに加え、本社ではデザイナー60名を新規に採用する計画を立てている。

以前ベルトーネ・グループで自動車生産を担当していた『カロッツェリア・ベルトーネ』は2008年、相次ぐ受託生産車種打ち切りの波を被って倒産した。現在のベルトーネは、生産部門が消えた後も残ったデザインおよびエンジニアリング企業。身軽になったところで“攻めの姿勢”に転じたことを窺わせる。

ただし1963年シボレー『テステュード』、1967年ランボルギーニ『マルツァル』、1970年ランチア『ストラトス・ゼロ』など“お宝中のお宝”といえる6台のコンセプトカーは、ベルトーネがコレクション全車両を一時期管理下に置いていたトリノ破産裁判所から買い戻せなかったため、2011年5月にオークションで売却された。

自動車関係の文化財系指定といえば、2011年2月にはミラノ郊外アレーゼにあるアルファロメオ博物館も、イタリア文化財・文化活動省から文化史跡に指定された。こうした法律によって、コレクションの四散や海外流出には一定の歯止めがかけられる。ただし同時に、一部車両を売却した利益で運営費をまかなうことが難しくなるのも事実だ。ちなみにアルファ・ロメオ博物館は2011年10月末現在休館中で、関係者に確認したところ再開の目途は立っていない。

たとえ民間の所有物が文化財指定・保護されても、管轄省庁から必要充分な支援が受けられないという、イタリアの問題が背景にある。会社復活の“のろし”でもあるベルトーネ・コレクションの未来はこれからだが、文化財となった自動車の行方を占ううえで格好の事例となるだろう。

筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)■■■ コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。

《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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