大矢アキオの『ヴェローチェ!』…バスク発「折り畳めるEV」は127万円

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空港におけるイリコ想像図
  • 空港におけるイリコ想像図
  • イリコ
  • バスク州ビルバオ・グッゲンハイム美術館前におけるイリコ想像図
  • バスク州ビルバオ・グッゲンハイム美術館前におけるイリコ想像図
  • イリコ
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 デザイン学生諸君、溜飲を下げたまえ 

折り畳める都市型電気自動車『イリコ』が2012年1月24日、ベルギーのブリュッセルで公開された。

イリコは2シーターの電気自動車。4輪駆動・4輪操舵を備え、駐車時は全長を収縮することにより省スペース化を実現する。乗り降りは収縮すると自動的に跳ね上がるフロントガラスから行なう。最高速は60km/hで、一充電あたりの走行距離は120kmである。

企画開発を行なったのは、スペイン自動車産業モータースポーツ振興普及協会(AFYPAIDA)、バスク起業・新ビジネス振興センター(Denokinn)そしてマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究機関など7団体によるコンソーシアムである。

2010年のプロジェクト発足当初はシティカーのコンセプト車両企画だったが、その後バスク地方の産業振興を視野に入れた量産プロジェクトに発展した。過去にも作業の進展を示す試作モデルが公開されてきたが、今回ブリュッセルの欧州連合本部ではバローゾ欧州委員会委員長臨席のもと、最新プロトタイプが公開された。

生産化責任者は、旧ダイムラークライスラーのブラジル法人の副社長を務めたアルマンド・ガスパルがあたっている。参考までにHirikoとは、バスク語で「都市の」「市民の」を表す言葉である。今後は2012年7月までに型式認証を取得。欧州連合の産業振興資金を活用して従業員800人規模の工場をバスク州に設立し、2013年中の生産開始を予定している。

このイリコ、まずは100台をブリュッセルに一括納入し、続いて香港、サンフランシスコ、ロンドン、パリへの納入を目指すとしている。このことから、当初の需要は自治体主導のカーシェアリングと見込んでいるとみられる。予定価格はバッテリー別で、1万2500ユーロ(約127万円)だ。

車体を尺取り虫状に伸縮し、フロントから乗り降りするアイデアといえば、トヨタが2003年東京モーターショーで公開した『PM』に始まる一連のパーソナルモビリティを思い出す。それらは1人乗りで、ボディ伸縮の目的は乗降/市街地走行/高速走行に対応するための車高調整であった。いっぽうイリコの場合は2人乗りで、全長の縮小は駐車スペース節約を目的としているが相違点といえる。

ちなみにボディが伸縮する自動車というのは、過去に多くのカーデザイン専攻学生からもコンペなどで提案されてきた。ただしその大半は、教官や評者から「メカニズムの裏づけがなく、実現性が少ない」などとして、あまり高く評価されなかったのが実情だ。

学生たちの無念を晴らすためにも、イリコは量産まで漕ぎ着けたら天晴れなプロジェクトだと思うのである。

筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)■■■コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。

《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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