軽分野ならではの提携スタイル
日産自動車と三菱自動車工業の折半出資による軽自動車の商品企画会社NMKV(東京都港区)が35人の陣容で事業を開始した。資本のつながりがない企業が、共同で開発から生産まで取り組むという日本では前例のないプロジェクトとなる。成熟化した国内市場で一定の規模が期待できる軽自動車分野ならではの提携だ。
ただ、それぞれ異なる企業カラーで育ってきた人材が協力し合うのは、そう容易ではない。権限や責任の範囲を明確にする一方で、双方の技術やノウハウをオープンにしなければ、事業の成功はおぼつかない。両社本体のトップには不退転の覚悟も必要だ。
NMKVの企画による最初の車両は、『eKワゴン』(三菱)と、同車の日産向けOEM供給版である『オッティ』の次期モデルで、2013年度前半に投入する。プラットフォーム(車台)とエンジンは新開発するので、このモデルのできばえが2車種目以降のプロジェクトの成否にもつながる。
◆開発初期段階からアイデンティティを
車両組立やエンジン生産は三菱が担当するものの、設計や部品調達などの領域でも「両社の“いいとこ取り”をして競争力のある商品を市場投入したい」(遠藤淳一社長兼CEO=日産出身)という。三菱とスズキから軽自動車を調達している日産にとっては、OEMビジネスから一歩踏み出すことができる。
遠藤社長は「開発の初期段階から日産のアイデンティティを入れることができる」と、OEMよりも、より日産らしい商品づくりに期待を込める。両社の2010年度の軽自動車シェア(全軽自協統計)は日産が8.7%、三菱が6.4%。全量OEMであるものの販売網の充実した日産が三菱を上回っている。
三菱としては商品力を高めようにも現状の販売量では投資負担が大きく、日産との提携を負のスパイラルから脱する切り札としたいところだ。両社は現状で計15%のシェアを将来は20%に高め、ダイハツ工業(10年度シェア34.9%)、スズキ(同32.0%)とともに「軽自動車3強グループの一角」(遠藤社長)を目指す。
◆海外市場投入やEV開発へ発展も
日産と三菱による軽自動車づくりは、トヨタ自動車とダイハツによる両社ブランドのコンパクトカーやトヨタが今年秋に投入する軽自動車での事業協力に似ている。トヨタ、ダイハツによる商品企画のプロジェクトチームが、日産と三菱ではNMKVということになる。
しかし、親子関係にあり開発や生産システム、調達などで双方を知り尽くしたトヨタとダイハツのような関係は一朝一夕にはできない。いざ、一緒に仕事を始めると驚きや失望も少なくないだろう。
NMKVの経営陣は同社と出身母体との間で板挟みになる局面も予想される。だが、将来は共同開発車の海外市場投入や電気自動車(EV)の商品化など、夢も広がる。苦労はあっても、前例のないチャレンジしがいのあるプロジェクトなのである。