富士キメラ総研は、今年3月から5月にかけて、次世代自動車の走行性能向上とコスト削減を目指す主要な部材/材料49品目を選定し、世界の技術開発動向、現状の課題を調査し、結果を報告書「2011次世代自動車のキーマテリアル市場の将来展望」にまとめた。
調査対象の49品目は、次世代自動車用部品を構成する部材27品目と、自動車の注目材料で金属系6品目、レアメタル/レアアース2品目、樹脂10品目、その他4品目で構成する。
今回調査した、リチウムイオン二次電池、モータ、インバータ、高圧電線、燃料電池、充電器などの主要部材と、放熱/蓄熱部品・部材を合わせた27品目の2010年の世界市場は、前年比33.8%増の638億円となった。これが2020年には1兆7059億円と、2010年比26.7倍の市場に成長すると予測する。
この市場は、HV(ハイブリッドカー)やEV(電気自動車)など次世代自動車への需要の高まりに合わせ、今後前年比30~80%程度の大幅な伸びが期待される。特に次世代環境対応車の発売が相次ぐ見込みの2012~2013年以降は、リチウムイオン二次電池、モータ、インバータ、高圧電線などの主要部材が、前年比2倍以上の伸びを続ける見通し。
また、今回選んだ部材・材料22品目の2010年世界市場は、前年比15.7%増の9兆1472億円となった。2020年の世界市場は、19兆1704億円と推計する。軽量化材料であるアルミニウム合金やマグネシウム合金、PPやPCなどの樹脂は、従来、価格や強度などの物性面で鋼板など従来の素材に取って代わるには課題があった。また、従来の素材もそれぞれ機能化や軽量化が図られてきたため、新たな素材を採用する環境が整わなかった。
しかし、欧州の自動車メーカーを中心に、積極的に軽量化に新規材料を検討する動きが強まり、新素材への需要が今後拡大する見込み。特にHVやEVなど、従来のガソリン車やディーゼル車よりも高い燃費性能を訴求する車両は、重量を軽減するため、より軽い素材へのニーズを強めている。HVやEVの需要拡大に連動して調査対象材料の需要が拡大すると予測する。
主要部材では、プラグインハイブリッドカー(PHV)やEVに必要不可欠なリチウムイオン二次電池用部材は、2011年が前年の7倍の349億円まで市場が拡大し、その後も倍増を続け、2015年には4266億円、2020年には1兆2700億円超の市場を予測する。
正極材として使われるマンガン酸リチウムでコスト低減や安全性向上が図られ、大容量電力を必要とするEVの登場によりリチウムイオン二次電池市場が拡大、HVでも徐々に搭載され始めており、今後の急拡大が見込まれる。充放電容量の拡大を図るためさらに新しい材料を開発する企業が相次いでおり、2015年以降にまったく新しい材料が登場する可能性が考えられるとしている。
また、東日本大震災により、日立化成、古河電気工業などの部材製造や、樹脂・半導体などの工場が被災して車両生産が停止したため、国内の自動車向けリチウムイオン二次電池市場は穏やかな拡大にとどまる。長期的には市場拡大は確実だが、韓国を含む海外のメーカーが続々と参入しており、海外市場が中心になると予測される。
また、HV、EVの開発では、駆動用モータと発電用モータの高性能化が重要だが、モータ部材は震災による生産の大幅な遅れや調整は生じなかったものの、車両の生産がストップしたことから当初の計画から減少する見込み。
モータコアはモータの中核部材である固定子と回転子を指す。この部材の技術開発は小型・軽量・高効率を指向して進化しており、使用される電磁鋼板の薄板化やモータの構造改善技術が2015年以降に実用化される見通し。
磁石用レアアースのネオジムは90%を中国から輸入するため、中国の供給戦略、需給の逼迫により価格が高騰しているが、3年後には中国以外の鉱山が開山するため、価格は下落、安定すると見込まれる。ただ、ネオジム磁石の高温下保磁性能を確保するジスプロシウムは中国にのみ偏在しており、価格の上昇が止まらないと見られる。ジスプロシウムを削減しながら保磁力効率を保つ研究が進められ、2020年を目途にジスプロシウムフリーのネオジム磁石の大量生産が始まる見込み。
さらに、高圧電線自体の市場は2010年には1万300kg、475億円となった。HV向け需要が中心で、台当たりの使用量は10m前後。小型化により電線長は短くなるものの、EVの普及と大型HVの開発によって導体は太くなり、使用される高圧電線も長くなる見通し。今後、長さは伸びるが、アルミニウム導体を採用して軽量化を図る動きも進む。
EV、PHVを充電するインフラ設備のうち、給電用コネクタは、DC用と普通充電器と家庭コンセント向けのAC給電コネクタがあるが、2010年は車両への付属品、普及に向けた設置が相次いでAC給電用コネクタの需要が世界で2万5000個程度となった。これが2020年には600万個と予測する。ACコネクタはEV、PHVの普及に連動して普及することが見込まれる。ただ、筺体の軽量化のほか規格の統一による開発コストの低減が必要で、さらに操作性向上のためにケーブルの改善を図るメーカーが増加している。
放熱/蓄熱部品・部材(ヒートシンク、メタル基板、放熱塗料、放熱シート、排熱回収器)の世界市場は、前年比20.7%増の70億円となった。放熱部品を多用するHVの増加が要因で、ヒートシンクはHVのPCU(パワーコントロールユニット)に標準装備されており、駆動用モータ、LEDヘッドライト、バッテリでも用いられる。
メタル基板はLED照明やECU内の配線基板に、放熱シートは高熱を発する部品や高集積化された電装機器に利用される。排熱回収器は、HVでエンジン排熱を回収してヒーターやエンジンの暖気熱源に利用する。HVはEV走行やアイドリングストップ機能が付与されるため、運転中にエンジンが停止する時間が拡大した。このためエンジンの暖気やエアコンからの温風用電気/燃料が増大するという新たな課題への対処が求められている。
EV、HVの性能向上とともに発熱量は増加の一途をたどっている。このため放熱部品に対する要求が厳しさを増すものの、需要増が確実なため参入各社は技術開発を進めながら自動車メーカーに提案を進めている。