クラリオンの主力AV一体型ナビゲーション『スムーナビ』がこの夏、大変身を遂げて再登場した。プローブやGoogle マップ連携などに対応した通信機能や、エコドライブ機能に加えてUIを大幅に刷新した意欲作だ。モニターはLEDバックライトにワイドVGA液晶ディスプレイを採用するとともに、メディアはSDHCカードを採用している。
設立70周年の節目に登場した新型機開発の狙いを、AV/NAVI商品企画グループの清水健良氏、商品開発室の野口岳則氏、デザイン部の八尋隆生氏、3名の開発者に話を聞いた。
◆旧ザナヴィの開発陣とともに作り上げた
----:今回のスムーナビは、低価格機ながらGoogle マップ ローカル検索対応、エコ運転アドバイスや省エネルート探索、そして新採用したSDHCカードのストレージ利用と、クラリオンの最先端を惜しげもなくつぎ込んだ印象を受けます。
清水:確かにナビ機能を見れば、HDDの上位機以上の中身です。今回のスムーナビは、ナビ市場の主戦場となりつつあるお求め安い価格帯の中でキーになる機能を盛り込む、という狙いが当初からありました。HDDとの差を敢えて上げるとすれば、オーディオの部分で若干機能を絞ることで差別化しています。
----:今回はザナヴィとの合併後、旧両社の開発スタッフが初めて本格的に共同で取り組んだ商品と聞きました。仕上がりの満足度はいかがですか。
清水:ラインオプションを中心に取り組んできた旧ザナヴィと、ディーラーオプションや市販向けの商品を展開してきた旧クラリオンとでは、開発姿勢というか文化という点でかなり違いがありました。今回の開発にあたっては、チームのなかに旧ザナヴィのメンバーも入ってお互いの主張をぶつけ合いました。結果としては力を合わせていいものができたのかなあ、という手応えはありますよ。
野口:もともと旧ザナヴィが持っているライン純正の信頼性の高さ、そして旧クラリオンが持っていた市販の面白さや発想の自由さを旨くミックスして商品に具現化するというのが目標でした。
清水:ただ、まだまだお互いのポテンシャルはこんなものではないと確認できた期間でもありました。今後に向けて非常に楽しみな部分です。
◆ VGA採用は必然の選択
----:トップのメニューも大幅に変わりましたね。
八尋:新スムーナビのコンセプトは“つながるナビ”です。つながる・広がるというイメージをモチーフとしてデザインに取り込んでいこう、と考えていました。今まではタテ・ヨコに区切ってカッチリと配置していましたが、“もっと自由にレイアウトしてみよう”ということで、ボタンの大小にメリハリをつけて、形状も円にしています。
----:VGAになったことで、メニューの表現力も豊かですね。
八尋:この円を使ったデザインはVGAだからこそ採用できたデザインです。QVGAだったらシャギーが気になってしまいますから。半透過処理なども使って品質感を出しています。
----:クラリオンはもともと普及価格帯のHDDナビでもいち早くVGA液晶を投入した過去がありますが、メモリーナビのスムーナビでも今回いち早くVGAを採用して、このクラスのナビに品質感をもたらしました。このクラスのハードウエアはコスト的にも制約があると思いますが、VGAの採用に踏み切った理由は。
清水:たとえ当社が採用しなくても世の中の流れとして、そう遠くないうちにメモリーナビにもVGAが搭載されることは確実です。また、VGAパネルとQVGAパネルとの部品の価格差は確実に縮まってきていますので、採用するなら今回のモデルが最適と判断しました。
野口:ただ、コスト重視のモデルということで、搭載できるメモリ量に制約がありますから、キャッシュメモリの使い方ひとつにしても、調整は苦労しました。開発を始めたばかりのころは、反応が遅すぎて使い物にならなかったくらいですから。
清水:とは言ってもVGAの搭載を諦めることはありませんでした。地図や案内画面の描画での見やすさ、そしてフルセグの地デジをきれいに見ていただくためにもVGAは必須と考え開発に取り組みました。
野口:とくにフルセグによる地デジ放送の美しさは、VGAパネルとビデオ回路の見直しにより、HDDモデル含めたすべてのクラリオン製品のトップクラスです。ぜひ店頭で確認していただきたい部分です。
◆ゲームニクスの発想はエコ運転の習熟に最適
----:「エコ運転アドバイス」では、ゲーム作りの知識やノウハウを体系化した「ゲームニクス」の考え方を取り入れたことが話題になっています。ゲームニクス導入の経緯を教えてください。
八尋:ゲームニクスの第一人者である、サイトウ・アキヒロ教授とお話しする機会があったのがきっかけです。お話しを伺ったところ、この考え方をナビゲーション開発に活かせないか、ということになりました。ただ、ゲームニクスをナビ全体に取り入れると、全体の開発ボリュームが膨大になるため、今回はエコ機能に導入しました。エコは時代の要請に合っているテーマですし、環境に優しい運転を継続していただくという点で、ゲームニクスとは親和性の高い機能だと思います。
----:ゲームニクスには「使いやすさ」「操作を迷わない仕組み」「熱中させる工夫」「現実とリンクさせることでリアルに感じさせる」といったポイントがあるそうですが、エコ運転アドバイスにこれらはどのように活かされていますか。
八尋:使いやすさ・操作のしやすさについては、やはり直感的なUIデザインですね。言葉による説明よりも、親しみやすい絵柄やアニメーションを使ったり、エコ機能の立ち上げ時に博士によるアドバイスがあったりと、マニュアルを読まなくても機能が活用できるよう心がけました。また、エコに関するクイズに答えたりエコ運転を続けているうちに、木が成長していったり、葉っぱポイントが増えたりと“数値の増大”ではない表現で運転に対する意識を高めてもらうような工夫をしています。
----:イメージキャラ的な「ナビック」や指導役の「博士」、ちょっと悪者っぽい「ブラックシーオーツー」など人格化されたキャラクターを立てているところはユニークですね。
八尋:これもゲームニクスの考え方です。とくに女性やお子様の場合、キャラクターがいるということが、興味をもってもらえるきっかけになります。それぞれのキャラクターは声優さんに声を当てていただいたのですが、アテレコの際も、声優さんにストーリーとキャラの立ち位置をきっちり説明していただいた上で収録に臨んでいただきました。
清水:“エコ”というと、ともすれば我慢しなくてはいけないとか、努力しなくてはいけないと考える向きも多いのですが、そうではなくナビ上でエコ運転をゲームにしながら、現実の世界でも環境に優しい運転を実践してもらうというのがそもそもの狙いです。
◆独自のデータを加味して燃料消費の少ないルートを案内
----:また、「エコ運転アドバイス」と共に新たに搭載された「省エネルート探索」も実用的な機能ですね。
清水:省エネルート探索は旧ザナヴィが持っていた技術です。道路ネットワークデータに加えて標高データやオンライン交通情報探索による渋滞情報も加味しながら燃料消費が少ないと推測されるルートを出すというものです。先行開発部署と量産部署がうまく協力できたので、開発は比較的スムーズにいきました。
----:今回、地図会社を変えていますが、新しい地図には標高データも含まれていたのでしょうか。
清水:標高データは国土地理院のデータを基に当社が作成したものですので、オリジナルとなります。
----:省エネルート探索では、通常のルートを選んだ場合と比べてどれくらいの燃費改善が図れるのでしょうか。
清水:道路環境や距離にもよりますが、条件さえ揃えば10%程度の燃費改善は期待できると思います。
◆“つながるナビ”がキーワード
----:市販ナビとしては初のGoogle マップ ローカル検索対応も新スムーナビのトピックですね。
清水:PCでもケータイでもWebがここまで浸透すると、フリーワードによる検索は当たり前のものになっています。Google 検索は、地点の情報だけでなく「お祭り」とか「おいしい」といったキーワードでも対応していますし、鮮度の高い情報が探せますから、とくに旅先などでは役に立つのではと思います。
また観光情報については今回、昭文社さんの「マップルガイド」のデータを導入しました。全体で8万件の質のいいガイド付き情報を収録し、ピクチャービューではその中の写真つきの情報を3万6000件ほど使っています。VGAを採用しましたので、当社独自の「ピクチャービュー」を使った写真による目的地検索も楽しくなるはずです。
◆音楽データはSDカードに
----:今回はストレージがSSDからSDHCカードに変更され、地図やPOIのデータベースが入ったSDHCカードを入れるスロットとは別に、音楽などコンテンツ用のSDHCカードスロットを持つ“ダブルスロット”になりました。これによって大容量のHDDナビに対してメモリーナビが不利だった音楽データの取り扱いに広がりが生まれました。
野口: SDミュージックキャッチャーでSD/SDHCカードへのリッピングが可能になっています。SDへのリッピング中にエンジンON/OFFした場合などに録音データが破壊されてしまう、SDカードが使えなくなってしまうなどの障害を克服することができたので採用に踏み切ることができたのです。そして、PCからSD/SDHCカードに音楽データを移したものも、スムーナビ上で再生ができます。ファイル形式はMP3およびWMAに対応しています。
----:同じくオーディオ面ではドルビーボリュームが新たに採用になりました。これはどのような機能なのでしょう。
清水:ソース間で異なる音量レベルを補正する「レベラー機能」と、再生ボリュームに応じて周波数バランスを最適化して、小音量時でもハッキリ・クッキリした音で再生する「モデラー機能」の2つがあります。
野口:テレビから録画した映画作品ですとコマーシャルと本編の音量差が大きかったりするのです。ドルビーボリュームがあればそういう場面でも、レベラー機能によりボリュームをいじることなく最適な音量バランスを得られます。また、モデラー機能は小音量でも思った以上に音像がハッキリ聞こえますので、車速連動ボリュームと組み合わせて使えば、ユーザーはボリュームを触る必要性がなくなるほど効果があると思います。
----:ダウンロードボイスにも対応しました。
清水:今までは、バラエティスクリーンなど画面系のカスタムは実現できていましたが、音声のカスタマイズについてもダウンロードコンテンツをやってみようとことで取り組みました。声のバリエーションは増やしていく予定です。
----:皆様の話を聞いていると、このNX710はスムーナビが切り開いたメモリーナビカテゴリーを、一気に主流にするぞという気概に満ちた商品だと感じます。
清水:今回のスムーナビのテーマは“つながるナビ”でした。BluetoothあるいはSDカードを使って、ナビが情報につながります。今後は、地図更新についても「つながるナビ」の一環として考えていきたいと思います。おかげさまで発売から販売状況は好調でして、店頭では品薄状態が続いているそうで、増産を急いでいるところです。新世代スムーナビの“つながる”機能は使い込むほど、便利さを実感できまですので、ぜひ多くの方にご利用いただきたいと思います。
《聞き手 三浦和也》