【池原照雄の単眼複眼】ルノー・日産とダイムラー、シナジー効果は未知数

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ゴーン社長(向かって左)とツェッチェ会長
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  • トゥインゴ
  • スマート

個別提携ではなく「戦略的パートナーシップ」

仏ルノー・日産自動車連合と独ダイムラーがコンパクトカーの共同開発やエンジンの相互供給などで協業を進めることになった。「お互いの義務を確認するため」(カルロス・ゴーン日産社長)少量だが株式も持ち合い、長期かつ幅広い事業補完を狙う新しい提携スタイルを模索する。

ゴーン社長とディーター・ツェッチェ会長による共同会見では、さまざまな協業案件が発表された。ただし、従来の個別案件での提携を超えた「戦略的パートナーシップ」(ゴーン社長)と力説する割には、合意済みプロジェクトの中身はまだ薄く、シナジー効果は未知数な部分が大きい。

両陣営が合意した具体的な協業案件は、「コンパクトカー」「エンジン」「商用車」の3本柱となる。このうち「コンパクトカー」は、ダイムラー『スマート』とルノー『トゥインゴ』の次期モデルを共同開発して一部車種の共同生産も行い、2013年以降に市場投入する。

ゴーン社長によると今回の提携は、「1年前にダイムラーから、スマートを刷新するので協力の可能性はあるか」と、投げかけられたのが発端という。交渉の結果、この2モデルを共通の「設計思想」により開発することで合意した。

◆CO2規制への対応が急務なダイムラーの事情

高級車主体のダイムラーは、欧州で2012年に強化されるCO2(二酸化炭素)規制への対応に苦慮しており、小型車のテコ入れが急務となっている。売れ行きが芳しくないスマートだが、規制対策のためには切り捨てるわけにもいかず、ルノーとの協業で開発投資の縮減を図ることとした。

2番目の「エンジン」は、ルノー・日産側がメルセデスベンツの小型車向けにガソリンおよびディーゼルエンジン(3・4気筒)を販売。一方でダイムラーは日産のインフィニティ用にガソリンおよびディーゼルエンジン(4・6気筒)を販売するという相互供給体制を築く。

エンジンについては部品の共通化を図るため、将来は共同開発にも取り組む方針だ。さらに3番目の「商用車」は、エントリークラスのルノーのバンをダイムラーにOEM(相手先ブランド生産)供給するなどとなっている。

◆共同開発のコンパクトカーに将来がかかる

こうして見ると、エンジンの相互供給や商用車の協業は数量が限定的になる案件だということが分かる。また、ルノー・日産からメルセデスベンツ向けに供給する小型車用のエンジンは「ルノー製になる見込み」(日産関係者)といい、日産が今回の提携全般に関与する範囲も少ない。

「戦略的パートナーシップ」に幅をもたせるため、当初の「2社提携」から急きょ、日産を加えた「3社提携」としたゴーン社長の苦心の跡がうかがえる。もっとも、同社長は今後、日産とダイムラーの米国工場での「相互生産」などの可能性を指摘しており、日産の関与拡大にも取り組む意向だ。

ルノー日産とダイムラーによる協業が将来、豊かに実るかどうかは、当面の中核的な案件であるコンパクトカーの共同開発の成否にかかる。「お互いの企業文化を尊重」(ゴーン社長)しながら融和を進め、どれだけ魅力的なクルマを造り得るかだ。ここでこけるようだと「5年間で20億ユーロ(約2500億円)以上」(同)と目論むルノー日産側のシナジー効果もおぼつかない。

《池原照雄》

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