大矢アキオ『喰いすぎ注意』…そのバターケースはフェラーリを超えた?

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家にあったVWビートルと
  • 家にあったVWビートルと
  • スーパーアメリカ。こちらは家の……、ではなく広報写真
  • ボーラ
  • 下まで切れない
  • ロト社のバターケース
  • カバーを持って持ち上げ可能
  • 爪を押すことで、カバーが外れる
  • ナイフも下まで達する
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タイアでウォッシャー、クルっとルーフ

筆者が子供の頃、我が家にフォルクスワーゲン『ビートル』があった。1972年型の「1300」というモデルだった。

座るとお尻が冷たいビニールシートで、当時のドイツ車すべてにいえたことだが内装材の臭さは頭が痛くなるほどだった。

しかし、以前の家族車だった中古の英国車モーリス『マイナー』が、踏切の真ん中で急に停まったり、毎日やかんで水を補給する必要があったりと、とんでもない代物だったから、ビートルは限りなく近代兵器に映ったものだ。

同時に「頭いいなあ」と思ったのは、そのウィンドーウォッシャーだった。タイアからヘソの緒のようにチューブが伸びていた。ウォッシャー液に圧力を加えるのに、モーターではなくフロントに積まれたスペアタイアの空気圧が使われていたのだ。

もちろんこの方式は、頻繁にウォッシャー液を使うユーザーはマメにスペアの空気圧に気を配る必要があるのも事実だ。だがその賢さに、子供ながら感心したものだ。

いっぽう最近、ボクが「頭いいなあ」と思ったのは、2005年のデトロイトモーターショーで登場したフェラーリ『スーパーアメリカ』である。

フェラリスタなら知っているだろうが説明すると、そのルーフはBピラーを軸にして後方にパタンと開くようになっている。ピニンファリーナ在職時代に『デイトナ』に代表される数々のフェラーリを手がけたことで有名なレオナルド・フィオラバンティが考案したものだ。

別名“フィオラバンティ・ルーフ”と呼ばれるこの方式を初めて搭載したのは、彼の自身の会社が2001年ジュネーブモーターショーで公開したコンセプトカー『ボーラ』だった。

構造が簡単かつ、ラゲッジスペースの犠牲も少ない。スーパーアメリカの場合、実際の作動にはモーターを介しているものの、動作時間は10秒だ。フィオラバンティはこのルーフに関して特許も取得している。

ビートルのウォッシャーといい、フィオラバンティ・ルーフといい、構造が簡単かつ誰もが考えそうでできなかったアイディアである。


2
頭いいッ!

そんな筆者が昨年、それらを超越するくらい「頭いいなあ」と感じて思わず購入してしまったのは、スイスを旅したときに見つけたバターケースである。ロト(Rotho)というプラスチック製品メーカーによるものだ。

同社のサイトによると、創業は遠く1890年である。今日多くの欧州企業が東欧やアジアに生産拠点を移転するなか、逆に「スイス製」をセールスポイントにしている。高級腕時計ならいざ知らず、こうした利益率が低く、価格競争が激しいジャンルで、労働コストの高いスイス生産を貫くのは、なかなか勇気あるではないか。

おっと、そのバターケースの何が偉いかを説明しよう。一般的なバターケースは、バターが載った台座の上に透明カバーがかぶさっているだけだ。だから冷蔵庫から取り出すとき、台座から手にとる必要がある。同時にユーザーは、透明カバーがズレて落下しないかと、テーブルに着地させるまで自然と気を遣ってしまう。

それに対して、ロトのバターケースは、プラスチック製台座の両端に爪が付いていて、透明カバーを噛んで押さえている。したがって冷蔵庫から取り出すとき、透明カバーをつかんでも、台座までついてくるのである。カバーと台座の分離は、爪を押してプラスチックをたわませるだけだ。

バターを切る段階でも、違いが現れる。従来品の台座は、バターが収まる底部よりも縁が高い凹スタイルのため、写真のように縁とナイフが干渉して、バター下部までうまく切れない。ところがこのスイス製品は、縁が低い凸断面なので、バター全体にスッとナイフが通る。

毎朝使うものゆえ、感じるありがたさといったら、週のうち何回かしか乗らないクルマよりも大きい。そのうえ、価格はたった5.9フラン(約480円)である。なお姉妹品として、同様のアイディアを使ったチーズケースもある。

日頃は女房の実家に何かを貢ぐことなどまったく頭にない筆者であるが、思わず「あんたたちも替えなきゃ」と、みのもんた口調になって彼らのぶんも購入し、日本に送った。彼らが長年使っていた重く、危なっかしいガラス製バターケースは捨てられたに違いない。

ロト製バターケースの、たわむ爪部分の耐久性は、もうしばらく観察する必要があろう。だが複雑な構造や部品一切なしで、こんなに従来より使いやすいモノをつくるとは。これを工業デザインといわずして、何を工業デザインといおうか。

日本のデザイナーの皆さんも、この何気ないスイスのバターケースに勝てるような、アッといわせるものを考えてほしいものだ。

喰いすぎ注意
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。
《大矢アキオ》

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