前世紀の悪しき風習である「大きい=偉い」を覆すべく登場した『iQ』。心意気は気高かったが、日本では人々の意識だけでなく、税制や利用環境の壁にも阻まれ、やはり苦戦している。そのような中、投入された「iQ 130G」は、ベーシックグレードの弱点であった3気筒・1リットルエンジンを変更し、4気筒・1.3リットルエンジンに改めたもの。その他、細かな仕様変更も施され、iQをさらに洗練させたものだ。さて、その乗り心地はというと、正直かなりよい。1気筒・300ccの追加だが、それによって静粛性が増し、高速巡航時にゆとりが生まれた。iQのシャーシ自体は「都市間移動もこなせるポテンシャル」を持っていたが、130Gのエンジン追加によって、それが現実的なものになったといえる。実際、筆者は都市間高速を60kmほど試乗したが、非力さを感じることなく流れに乗って巡航できた。これなら高速道路料金1000円化の恩恵を受けて、ロングドライブも十分に楽しめそうだ。持ち前の小回りのよさ、軽量ボディによる軽快感、超ミニサイズながらワイドボディの安定感などの魅力も健在。パーソナルムーバーとしての完成度は高く、その先進的なコンセプトは高く評価できると思う。しかし、iQの完成度が上がるほどに残念なのが、このクルマが日本市場にマッチしてないことだ。日本にはいびつな税制優遇や規制で守られた軽自動車カテゴリーがあり、一方で、駐車場料金や道路環境など利用時にコンパクトカーが有利になる局面が少ない。とりわけ駐車場の高い都市部では、"普通車と同じ(高額な)維持費でiQを所有する"という志の高いユーザーは、まだまだ少数派。iQが持つ小さなクルマの底力を最大限に発揮できる環境がないのだ。トヨタはもっとクルマの利用環境のカイゼンに目を向けて、自動車メーカーの枠組みから一歩踏みだすビジネスに取り組んでほしい。そう切に思うのである。■5つ星評価パッケージング:★★★★★インテリア/居住性:★★★パワーソース:★★★★フットワーク:★★★オススメ度:★★★神尾寿|通信・ITSジャーナリストIT専門誌契約ライター、大手携帯電話会社へのデータ通信ビジネスのコンサルタントなどを経て、1999年にジャーナリストとして独立。著書は「自動車ITS革命」など。専門は通信とITSビジネス。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。