ボアを2.7mm広げる事で200cc増しの3.8リットルとされたフラット6の心臓は、相も変らぬ典型的な高回転型キャラクターの持ち主。4200rpmを超えたところでパチンと高回転側カムへと乗り移りパワーとサウンドが一気に炸裂する感覚は、かつてのホンダ「VTEC」同様にスポーツ派ドライバーの心をビンビンと刺激する。
かくして、ピークパワーを20psアップとしたのを筆頭に「日常走行において重要な中回転域のレスポンスも大幅に向上」という心臓を、従来型と全く変わらぬわずかに1395kgのボディに組み合わせたのだから、その加速能力の高さは推して知るべし。8500rpmとすこぶる高いレブリミットまで引っ張ると1速80km/h、2速で135km/h、そして3速ではすでに180km/hをオーバーと凄まじい勢いで速度は伸びて行く。
ちなみに、すでに「カレラ」シリーズで定評ある7速仕様のDCT「PDK」を用いなかったのは、このモデルが軽量化に腐心をした1台でもあるゆえ。「6速MT の方が30kg以上も軽い」というのがエンジニア氏の回答。
本拠地であるシュツットガルト郊外のカントリーロードを走り始めて最初に「何だか運転が下手になったように感じた」のは、ドライバー操作の一挙手一投足が余りにリニアにクルマの動きとして反映をされるゆえ。すなわち、いつものように(?)ちょっと手を抜いたステアリングさばきをすると、そうしたナマクラさは即座に挙動へと現れてどうも走行ラインがフラついてしまうのだ。
そこで改めてステアリングと真摯に向かい合うと、今度は狙ったラインをピシッと走ってくれる。そんな“彼”とのやりとりのコツを踏まえれば、もはやその走りは自由自在。これぞまさに「職人のための研ぎ澄まされた包丁」そのもの! GT3とはそんなプロフェッショナルのための道具なのだ。
空いたアウトバーン上ではオーバー250km/hの世界が訳なく訪れるが、そうした領域で実感させられたのが空力性能の改善。エアダム・スカートやリアウイングのデザイン改善で「得られるダウンフォースは従来型の2倍以上」というのが新型。
確かに、240km/h以上では思わずステアリングを手に力の入った従来型に比べると、新型の超高速安定感はハッキリと上。そのため、エアダム前端は従来型よりも30mm以上前方に突き出した“出っ歯型”となったが、それゆえ減少したアプローチアングルを改善すべくフロント部の車高を30mm上げる事の出来るエア式リフティング・システムがオプション設定となるのも新型でのニュースだ。
ハードなサーキット走行をも強く意識したモデルだけに、足回りのチューニングは当然それなりに硬い。が、それでも余り不快感を覚えないのは振動をたちまち減衰させてしまう強靭なボディと、速度がある程度高まるとしなやかさすらを演出する電子制御の可変減衰力ダンパー「PASM」の標準採用あっての賜物。ちなみにスタビリティ・コントロールシステム「PSM」はGT3としては今回初採用。日常ユースへの適応性も大きく増している。
■5つ星評価
パッケージ:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
河村康彦|モータージャーナリスト
1985年よりフリーランス活動を開始。自動車専門誌を中心に健筆を振るっているモータージャーナリスト。ワールド・カーオブザイヤー選考委員、インターナショナル・エンジンオブザイヤー選考委員。