日産自動車はクロスオーバーSUVの『ムラーノ』をフルモデルチェンジ、9月29日に日本市場で発表した。そのムラーノや「NISSAN Premium Factory」のTVCMに出演中の同社クレイモデラー・木村誠氏に、デザインにまつわる話を伺った。
──まず、放映中のCM展開について、狙いと感想を。
「日産が“どれだけ品質に対して人の感性を含めて丁寧に作り込んでいるか”を訴求するためのひとつの試み。クレイモデラーが世の中に広く知られて、その職業を目指す学生が増え、そしてデザイナーやクレイモデラーたちのモチベーションがあがってくれればうれしい。世の中に認知されるという点で非常にいいきっかけとなった」
──クレイモデラーの仕事について教えてください。
「デザイナーが発想したスケッチ段階から、デザイナーといっしょに立体化の仕事に取り組む。ムラーノについては1年以上かけてつくりあげた。今はCAD(コンピューター支援デザイン)を使いながら効率的により早く世の中にアウトプットしていくという流れの中にあるが、クレイモデラーはCADと人とのキャッチボールを重ねながら、デザインのクオリティをより高いところへと導いていく。ある期間は、CADを止めて人の手でデザインしたり、逆にデータにしたりと」
──CADが普及しても人の手による作業は必要ですか。
「CADデザイン上でいくら3Dで映されていても、画面自体は2次元だ。立体の持っている“たたずまい”や、面の“重さ”であったり、“立体感”であったりは、それを立体に置き換えてはじめて感じられてくるもの。自然光や周りの風景ととけ込ませて、そこから受ける印象は、画面とはぜんぜん違う」
「実際に立体に起こして、そこで求められている形をしっかりとつくりあげていくことが大事になる。どうしてもCADの世界では表現しきれない、立体になったときの“味”を研ぎ澄ます。そして立体の中で変化させて確認するという繰り返し作業がどうしても必要だ」
木村誠 --- 日産自動車デザイン本部デザインリアライゼーション部主担。1973年入社。学生時代に読んだ「デザイン入門」でクレイモデラーの仕事を知り、以来35年間クレイモデラーひと筋に生きる。卓越した技術者に贈られる厚生労働省「現代の名工」(2004年)に選出される。日本カーモデラー協会会長も務める。