株価対策へ強い決意
トヨタ自動車は3月末に金庫株として保有している自社株のうち、ほぼ3分の1に相当する1億6200万株を消却する。最近の時価を当てはめると1兆円近い巨額の消却となる。
思わず「もったいない」と言いたくなるが、資本効率の向上を通じた株価対策への強い決意を示すものとなる。もっとも市場の反応は今ひとつで、もう一方の対策だった自社株買いが終わった今月20日を過ぎると、株価はさえない展開が続いている。
今月5日の取締役会で、トヨタは大胆な株主還元策を決め、同日発表した第3四半期決算とともに公表した。2007年6月の株主総会で決議した授権枠を超える株式数まで自社株買いを行うとともに、3月末の自社株(金庫株)消却の実施だ。
昨年2月には上場来高値の8350円をつけていた株価は、今年1月下旬には4880円と4割余りも下落、経営陣としても放置できない状況となっていた。そこで、「株主還元策」として自社株の追加取得と消却をセットで打ち出したのだ。
◆950万株を追加取得
昨年の株主総会で決議した授権枠は株数で3000万株、金額で2500億円だった。これらはすべて消化する必要はなく、実際キャッシュフローに自信のない企業は上限まで行かずに止めてしまうこともある。
今回のトヨタの場合、株価が低迷していたため、金額の上限に達する前に株数が上限の3000万株に達するのが確実となっていた。従来はいずれかが上限に達すると打ち止めとなっていたが、「授権金額いっぱいまで使える会社法の規定を適用することにした」(幹部)という。
結局、2月20日まで新たに約1950万株を取得、すでに昨年末までに取得していた2000万株と合わせ約3950万株を買い上げた。授権枠を950万株上回ったわけだ。
◆1兆円分の株券をシュレッダーにかける
トヨタが決算書に掲載する1株当たり純利益(EPS)は、発行済み株式総数から同社が保有する自社株(金庫株)を除外して算出する。つまり、自社株買いが増えればEPS算出の分母が小さくなるので、同じ純利益を確保した場合でもEPSは大きくなる。結果、資本効率が上がるわけだ。
2月の買い上げ後、金庫株の総数は約4億6000万株に達した。発行済み株式の12.4%を占め、トヨタ自身がトヨタの「最大の株主」でもある。金庫株は株式交換による企業買収などに使え、「経営のフレキシビリティ確保」(鈴木武専務)につながる。ただし、再び市場に放出される可能性があるため、株主からは心配な存在でもある。
このためトヨタは、3月末にはほぼ3分の1をシュレッダーにかけることにした。見方を変えれば1兆円規模の企業買収資金を放棄してまで、株主還元を優先するということだ。今期の業績も過去最高を更新、連結配当性向3割を目指す方針から期末の増配も確実。それでも低迷する株価に、経営陣からは「なぜ?」というため息が聞こえてきそうだ。