【神尾寿のアンプラグド特別編】ETC、QUICPay、新分野を取り込むトヨタファイナンス 前編

3月16日、トヨタファイナンスがクレジットカード有効会員数が600万人を突破したと発表した。さらに非接触IC「FeliCa」を使ったクレジットサービス「QUICPay」対応の有効会員も100万人を突破したという。トヨタファイナンス執行役員総合企画部長の後藤清文氏にインタビュー。

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3月16日、トヨタファイナンスがクレジットカード有効会員数が600万人を突破したと発表した。さらに非接触IC「FeliCa」を使ったクレジットサービス「QUICPay」対応の有効会員も100万人を突破したという。

トヨタファイナンスは1988年にトヨタ自動車の金融財務部門から分離独立。その後、トヨタグループ金融部門の純粋持ち株会社トヨタファイナンスサービスの完全子会社として誕生したクレジットカード発行会社(イシュア)だ。イシュアとしては後発であり、同社の看板商品であるコンシューマー向けのクレジットカードサービス「TS CUBIC CARD 」(ティーエスキュービック)が投入されたのは2001年4月である。

TS CUBIC CARDはサービス開始後めざましい成長を遂げる。同カードはトヨタ自動車のハウスカードであり、トヨタ車オーナーを中心に普及。さらにトヨタファイナンスはダイハツ向けの「DAIHATSU TS CUBIC CARD」や、石油元売りであるジャパンエナジー向け提携カード「JOMOカード」も発行し、会員数を急激に伸ばした。古参のクレジットカード会社からも「トヨタファイナンスの成長は驚異的」(大手カード会社幹部)との声が上がるほどだ。

今回のアンプラグドは特別編として、トヨタファイナンス執行役員総合企画部長の後藤清文氏にインタビュー。トヨタファイナンスのクレジットカード戦略、ETCやQUICPayなど新分野に積極的な狙いなどを聞いた。


◆QUICPayの大半がトヨタファイナンス

最近の決済ビジネスにおいて、注目のキーワードが「非接触」だ。クルマの世界ではETCの普及が進んでおり、一方、人が持ち歩くカードの世界ではソニーの非接触IC「FeliCa」を使った決済サービスが脚光を浴びている。

SuicaやPASMOなどの公共交通系電子マネー、西日本高速道路や中日本高速道路などが導入した電子マネーEdy、さらにエネオスのセルフ式ガソリンスタンドで導入が決まっているVISA TOUCHなどは、すべて基本技術にFeliCaを使った決済サービスだ。

このFeliCa決済の分野において、トヨタファイナンスは「QUICPay」という方式を採用している。QUICPayはJCBが中心となって推進し、「モバイル決済推進協議会」(MOPPA)の共通インフラとして多くのクレジットカード会社が採用している。しかし、今やQUICPayユーザーの総数115万人のうち100万人が、トヨタファイナンス会員という内訳になっている。本家JCBを軽く追い抜き、トヨタファイナンスがQUICPayを牽引しているのだ。

「トヨタファイナンスでは2006年10月から新規・既存のクレジットカード会員に対して、QUICPay機能を内蔵した一体型カードを発行しています。これにより急速に会員数を増やすことができました」(後藤氏)

一体型カードはクレジットカード本体に従来方式の磁気ストライプ、国際的なICカード標準規格の「EMV」、さらにQUICPayなどFeliCa機能を搭載したものだ。すべての機能が1枚のカードに収まっているので利便性がよく、子カード方式のように追加発行手続きの面倒もない。ユーザーは送られてきたクレジットカードをQUICPay対応店舗で“かざす”だけで、キャッシュレスですばやい支払いができる。

このような一体型カードの取り組みは、トヨタファイナンスだけでなく、QUICPayとは別のFeliCaクレジット方式「iD」を推進する三井住友カードも行っている。

だが、三井住友カードが新規契約の会員を中心に一体型カードを発行するのに対して、トヨタファイナンスは契約更新時の既存会員にも一体型カードを発行している。これにより他社より早いペースでQUICPay対応の会員を増やしているのだ。

「QUICPayユーザーを増やす一方で、加盟店開拓も積極的に行っています。ここでは加盟店ニーズに応えるために、QUICPay以外のFeliCa決済にも対応した『共用端末』の導入も進めています。特に名古屋ではビットワレットの電子マネー、Edyの利用も盛んですので、まずはQUICPay/Edyの決済端末を置いています。また、ドコモ/三井住友カードのiDとの共用端末は2月末に量産体制に入り、名古屋マリオットアソシアホテルに最初のQUICPay/iD共用端末を設置しました」(後藤氏)

トヨタファイナンス自身はQUICPayを採用し、その普及を図っているが、加盟店側のニーズとしては他方式のFeliCa決済にも対応し、少しでも多くの利用者を獲得したいというものがある。そのため同社としては「加盟店には、基本的にQUICPayと他方式の共用型決済端末を置いていく」(後藤氏)というスタンスだ。


◆トヨタビジネスの中のトヨタファイナンス

トヨタファイナンスは設立から5年で急速に会員数を伸ばし、ETCカードの発行枚数は業界トップの225万枚である。さらに新分野であるFeliCa決済でも、QUICPayを推進。iDを推すドコモと並んで、この分野の注目企業になっている。

トヨタファイナンスはなぜ、ここまでクレジットカードビジネスに積極的なのだろうか。それを知る上での鍵は、TS CUBIC CARD会員の獲得場所にある。

「トヨタファイナンスのクレジットカード会員のほとんどは、トヨタディーラーでクルマを購入する時に申し込んでいただいた方です。トヨタ車を買う時にTS CUBIC CARDとETCカードに加入していただき、ディーラーでETCユニット購入・取り付けていただく。結果として、トヨタファイナンスのクレジットカード会員は、90%以上がイシュアが直接発行するプロパーになっています」(後藤氏)

クレジットカード業界全体で見ると、各カード会社が最も苦労するのは「会員獲得」の部分で、消費者との接点をどれだけ持っているかが会員増加の重要なポイントになる。信販系を中心に多くのクレジットカード会社が流通小売りをはじめ様々な業種・業態のブランドで「提携カード」を発行するのは、自社グループ内に会員獲得の場所とスキームを充分に構築するのが難しいからだ。

しかし、トヨタファイナンスの場合は、トヨタやダイハツのディーラー網を会員獲得の場所として使える。さらにETCのカードと車載器とをセットで販売してもらうことで、クルマを中心としたライフスタイルの"メーンカード"の座を狙えるのだ。これは非常に有利な部分である。

さらにトヨタ車ディーラーとトヨタファイナンスの関係は、単なる「クレジットカード会員獲得」のみに留まらない。TS CUBIC CARDの会員を獲得したあとは、トヨタ車ディーラーおよびトヨタ車の国内販売ビジネスにもメリットがフィードバックするような仕組みになっている。

「TS CUBIC CARDの特徴として、クレジットカードを使うと貯まるポイントの付与率が高いことがあります。通常は利用額の1%ですが、トヨタ車ディーラーや様々な提携加盟店ではポイント倍増のキャンペーンをしている。特にJOMOやENEOSなどガソリンスタンドではポイント付与率を高く設定しています。

こうして貯めたポイントを、今度はトヨタのクルマを買う時に使うと、1.5倍の金額でキャッシュバックとして使えます。1万ポイントがあれば、1万5000円として使えます。例えばクルマ購入後5年で乗り換える場合には、皆さん相当なポイントが貯まっているのですね」(後藤氏)

ポイントの獲得はクレジットカードの利用額に応じるので個人差がでるが、例えば筆者がトヨタファイナンスのカードを、ガソリンなどクルマ関連中心の消費で試した時には年間2万ポイント強を獲得した。TS CUBIC CARDのポイント有効期限は60カ月(5年間)なので、クルマ購入後から5年後の乗り換えまでポイントを貯めて、それをトヨタ車購入で使えば10万ポイントの1.5倍である15万円分として使える計算になる。

後藤氏によるとTS CUBIC CARDを生活全般の消費で上手に使えば、年間5万ポイント程度を貯めることも可能だという。これを5年間のクルマ買い換えサイクルに当てはめると、蓄積した25万ポイントをトヨタ車購入時に37万5000円分のキャッシュバックとして使える計算になる。

「5年というサイクルで考えれば、クルマの買い換えごとに数万ポイントは貯まっているわけですから、それをもとにクルマが安く買えるリテンション効果はかなり高いと思います。

我々はクレジットカード事業をはじめて今年6年目に入るのですが、ちょうど最初期に加入していただいたお客様の多くが今年クルマの買い換え時期を迎えることになります。すでにポイントの効果は見え始めています」(後藤氏)

この場合、もうひとつ重要になるのが、TS CUBIC CARDのポイントがトヨタ車購入時に使われれば、ポイントがトヨタグループ内の循環で終わるという事だろう。長い目で見れば自家消費なので、他社へのポイント交換や単なるキャッシュバックのように、ポイント原資が流出するわけではない。ポイントビジネスとしては理想的な状況になる。

さらにTS CUBIC CARDのトヨタ車販売との関わりは、ポイントの蓄積・利用スキームだけに留まらない。マーケティングでも活用されていくという。

「我々はお客様ごとに蓄積しているポイントがわかります。それに対してトヨタ車販売会社と共同で、クルマの買い換えセールスやプロモーションがかけられます。

我々にとって最初の5年間はTS CUBIC CARDの会員を増やすフェイズでした。それがいよいよ、自動車ビジネスの本業に対して効果を生む段階に入ってきています」(後藤氏)

冒頭でも触れたが、トヨタファイナンスのクレジットカード会員数は600万人を超えて、まだ伸び続けている。その多くがトヨタ車オーナーであるが、彼らに対する「ポイントでの囲い込み」は、他社に乗り換えられないための強力な防壁になる。

さらに蓄積ポイントが多ければ、それによるキャッシュバックは買い換え促進のツールにもなるだろう。TS CUBIC CARDのポイント利用期限が60カ月(5年間)と一般的なポイント制度より長めに設定されているのも、クルマの買い換えサイクルを考えれば納得できる。

日本の景気は上向いているが、国内の自動車販売市場は成熟しており、ユーザーのクルマを見る眼差しにもかつての熱狂はない。クルマが単なる移動手段のひとつになった今だからこそ、クレジットカードビジネスとポイント制度を巧みに自動車ビジネスに織り込んだ、トヨタとトヨタファイナンスの関係は重要になってくるだろう。
《神尾寿》

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