【神尾寿のアンプラグド特別編】クアルコムの「FLASH-OFDM」を見た

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【神尾寿のアンプラグド特別編】クアルコムの「FLASH-OFDM」を見た
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プローブカー/フローティングカーの実用化やデジタル地図の差分更新など、クルマ向けのブロードバンド、定額制の通信サービスは次第に現実的なニーズになり始めている。

しかし、第3世代携帯電話(3G)の通信インフラは“ケータイ向けサービスが優先”で整備されており、クルマ向けのパケット料金定額制は未だ用意されていないのが実情だ。通信速度も最新の通信技術「HSDPA」を用いても最大3.6Mbps止まりであり、地図の差分更新などを行うには心許ない。

そのような中で、今後の展開が期待されているのが、「モバイルブロードバンド」と呼ばれる新たなモバイル向け通信サービスの動向だ。これは高速データ通信に適したOFDMA方式をコア技術として使うもので、3G携帯電話が使用するCDMA方式よりも安価かつ高速なデータ通信サービスが実現できると見込まれている。

今日のアンプラグドは特別編として、米QUALCOMM(クアルコム)社が提唱するモバイルブロードバンド向け技術のひとつ「FLASH-OFDM」(Pre 802.20)の実証実験をレポートする。


◆モバイルブロードバンドの2つの潮流

現在、モバイルブロードバンド向けとされる通信技術は、大きくふたつの流れがある。

ひとつは「モバイルWiMAX」と呼ばれる技術で、これはインテルなどPC系通信機器メーカーが推進しており、モバイルブロードバンド分野では知名度が高い。日本でもKDDIやNTTグループ、アッカ・ネットワークス、イー・アクセスなどが導入を検討している。「モバイルブロードバンド=モバイルWiMAX」と認識している人は多いだろう。

もうひとつが、米QUALCOMM社の「FLASH-OFDM」と「IEEE 802.20」であり、日本ではクアルコム・ジャパンが中心となり推進しているものだ。FLASH-OFDMと802.20は技術的には共通項が多く、いわば従兄弟同士のような関係だ。QUALCOMMでは両方式をそれぞれに適した市場環境で商用化することを目指している。

今回、宮城県でお披露目されたFLASH-OFDMの実証実験は、クアルコムジャパンと東北大学、宮城県庁、ソフトバンクテレコム、伊藤忠テクノサイエンス(CTC)が共同で行っている。

モバイルWiMAXとFLASH-OFDM / 802.20はどちらもモバイル環境で高速データ通信を実現するための技術だが、遡ると出自やコンセプトに違いがある。

モバイルWiMAXは固定環境向けワイヤレス通信技術「WiMAX」をベースにモバイル(移動体環境)向けに拡張した技術だが、FLASH-OFDMと802.20はどちらも最初からモバイルでの利用を想定していた。そのためFLASH-OFDM / 802.20の方が電波利用効率や基地局切り替え(ハンドオーバー)、エリア構築のしやすさの点で優位性があるとされている。


◆狭帯域で使えるFLASH-OFDMと、広帯域向けの802.20

では、FLASH-OFDMと802.20の違いは何か。コア技術の点で両者は共通項が多いが、異なるのは想定される用途や市場である。クアルコムジャパン ワイヤレスブロードバンド推進室ディレクターの川端啓之氏は次のように語る。

「現在IEEEに提案している802.20とFLASH-OFDMはイコールではありません。どちらも基本技術にOFDMを使い、モバイル環境の利用を重視する点は共通ですから、類似の技術を使うことになります。しかし、商用化に向けた観点では、802.20は(FLASH-OFDM)よりワイドバンド(広帯域)への対応が前提になります」

「日本では2.5GHz帯の割り当て議論が注目されていますが、そこで見られるような10MHzから20MHz幅を使っての事業化に対応するのが802.20になる。一方、FLASH-OFDMはもっと狭い帯域で使うことを考えている。周波数幅は1.25MHzから対応しますので、少ない周波数幅しか持っていなくても導入できるのが特徴です」

携帯電話に限らず、あらゆるワイヤレス通信サービスを実現するには、電波周波数の割り当てが必要になる。802.20やモバイルWiMAXは、あるていどまとまった(広帯域)で、数十Mbpsといった高速通信を実現するための技術だ。一方、FLASH-OFDMは1.25MHz幅といった狭い周波数幅からサービスの実現が可能であり、利用可能帯域が400MHzから3.5GHzと幅広いのも特徴だ。

日本では現在、2.5GHz帯をモバイルブロードバンド向けの新たな周波数帯として割り当てる計画が総務省で進行中である。802.20やモバイルWiMAXが、日本での商用化で狙うのはまさにこの周波数であるが、どちらも10MHz以上のまとまった周波数が必要なので、参入できる通信事業者の数は限られる。しかし、FLASH-OFDMなら「2MHz幅くらいしか周波数を持っていない事業者でも、FLASH-OFDMならモバイルブロードバンドサービスが実現できる」(川端氏)という。


◆業務用無線や防災無線で「モバイルブロードバンド」!?

このようにクアルコムは、大規模な通信サービス向けの802.20と、小規模でも利用できるFLASH-OFDMという2つの通信技術をラインナップすることで、モバイルブロードバンドの裾野を広げようとしている。

川端氏は次のように語る。

「2.5GHz帯以外に目を向ければ、数限りない無線システムが今でも動いています。ただ、これらは特定のアプリケーションや帯域に特化した特殊な無線システムが使われている。さらに、これらの多くがすでに(技術・システム的に)『古くなっている』のです」

「では、これら特定かつ小規模な無線システムが今後どうなるのか。その多くはIPにならざるを得ないんです。今からIP以外の無線システムを導入することは、経済合理性の点からも考えにくい。このIPの無線化をする上で、ではそれぞれの帯域にあわせた独自の技術開発が行われるかというと、これも現実的ではありません。FLASH-OFDMはこういった小規模かつ特定の無線システムでの利用が可能であり、IPの汎用性があるテクノロジーとしてできあがっている」

特定目的用の無線システムとしては、タクシーや鉄道・バスなどの業務用無線、防災無線など国や自治体が所有するものもある。これらは周波数幅が狭く、「モバイルWiMAXなどは絶対に入らない」(川端氏)ものだ。しかし、FLASH-OFDMならば、これらの周波数を有効活用できる。携帯電話キャリアのように“マス・マーケット向け”の通信事業者に頼らずとも、IPベースのモバイルブロードバンド環境が構築できるのだ。


◆クルマなら余裕で使える性能

仙台で行われている実証実験では、宮城県仙台市に3つのFLASH-OFDM基地局が設置され、制止時や移動中のデータ通信が利用できるようになっている。

使用している帯域幅は上下1.25MHzずつ。セクターあたりの出力は最大14Wだ。理論上の通信速度はダウンリンクで最大3.2Mbps、アップリンクで900Kbps。平均的なADSLの速度とほぼ同じで、クルマ向けのテレマティクスはもちろん、パソコンからのインターネット接続でも充分なスピードだ。

まず東北大学構内で行われたデモンストレーションでは、基地局直下という悪環境にもかかわらず、gooスピードテストの結果は2.15Mbpsになった。このスピードならばメールやブラウザーの利用はもちろん、動画の閲覧もスムーズに行える。

次にクルマで仙台市内を移動しながらデータ通信を行うという実験が行われた。ここでも通信環境は安定しており、平均して1.5−2.5Mbpsをマーク。インターネット接続も安定しており、動画の閲覧やSkypeによるビデオチャットが問題なく利用できた。

ちなみにFLASH-OFDMはすでに欧州で実用化されており、独T-Mobileがドイツ鉄道(旧ドイツ国鉄)の高速鉄道ICEで提供している公衆無線LANサービスのバックホーン回線として使われている。ICEの速度は250km/hから300km/hなので、商用化さえされれば、日本の新幹線でも利用できることになる。クルマの走行速度ならば、まったく問題ないのは言うまでもない。


◆クルマ向けモバイルブロードバンドの登場にも期待

2.5GHz帯を使ったモバイルブロードバンドは、07年−08年の商用化を目指して、各通信事業者の実証実験や周波数獲得への取り組みが本格化している。

モバイルWiMAXと802.20のどちらが主流の技術になるかは不分明であるが、そこで“ケータイ以外へのデータ通信定額制”や“高速・大容量通信”が実現する可能性は高い。テレマティクスなどクルマ向けにも利用しやすいサービスになるか、期待が高まるところだ。

さらに今回、実証実験が公開されたFLASH-OFDMも、自動車業界として注目する価値がある。例えばタクシーやバスの業務用無線を使った商用車テレマティクス、または地方自治体が防災無線用周波数を「地域の交通安全サービス」向けにモバイルブロードサービスで開放する、といった様々な応用例が技術的には可能だからだ。

クルマ向け通信サービスだからといって、必ずしも全国均質で提供されなければならないわけではない。様々な形で、複数のクルマ向けブロードバンドを実現するというシナリオも、一考の価値があるのではないだろうか。
《神尾寿》

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