【AutoStanding】顧客とインタラクティブな関係を作る

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アウディが全国のホテルでモーターショーを開催

アウディジャパンが全国の高級ホテルで展示会を開催する。展示車両は『A8』(車両本体価格858万円−1710万円)や『S6』(同1245万円−1271万円)、『S8』(同1460万円)、『Q7』(同945万円)等の高額車種で、地元のディーラーが顧客を招待するとのことである。

日本自動車輸入組合のデータではアウディの2005年販売台数が1万5420台で、その内『A3』が4768台、『A4』が6776台とA3とA4が全体の3分の2を占める。今回の展示車両にはA3やA4が含まれていないから、その目的は主力車種の販促ではないだろう。

また、展示する場所が通常の販売において活用されるディーラーのショールームではない。以下のような事情が考えられる。

<ディーラーの事情>

・店舗スペースの都合上、ショールームに全ての車種を配置することはできない。
・配置する車種を選ぶとすれば、やはり売れる車が中心だろう。
・A8やS6、S8、Q7といった高額車種は利益率は高いかもしれないが、そんなには売れない。
・高額車種をショールームに配置する余裕はない。

<インポーターの事情>

・A3やA4の拡販は当然であるが、あまり売れていない高額車種の販売も強化したい。
・06年はS6やS8を日本に本格展開し、新モデルQ7も導入した。商品が充実してきたので後は販売だ。
・新聞、テレビ等メディアを活用したプロモーションは行っている。
・アウディファン(既存顧客)は新規顧客よりは買替えてくれる可能性が高く、実車を見てもらいたい。
・ディーラーに展示車や試乗車として購入してもらうのが(インポーターにとって)効率的である。
・しかし、ショールームのスペースに限りがある中で、売れる車を配置するというディーラーの考え方も理解できるし、高額車種を配置するよう何らかの施策を実施してもディーラーの資金的・人的負担が高まるだろう。また、そもそもA3やA4が配置できなくなり主力車種の販売が落ちては意味がない。
・そうであれば自分で高額車種に絞った展示会を行なおう。

つまり、主力車種とショールームという言わば日常的な組み合わせではなく、高額車種とホテルという非日常的な組み合わせである。東京モーターショーは最新モデルやコンセプトカーと東京ビックサイトという組み合わせであることを考えると、今回の展示会は、車種や会場の組み合わせという点でモーターショーと捉えることができる。

◆モータショーの効果と課題

モーターショー等のイベントの目的は自社ブランドの認知を広げ購買意欲を高めることである。イベントの効果を測定する指標として、目標達成率(TRP=Targeted Ratings Points)がある。TRPはリーチ(標的顧客層の内どれくらいの割合に到達したか)とフリークエンシー(リーチした顧客層にどれくらい深く刺さったか)に分解される。

・リーチ:標的顧客層(ターゲット)は本来は高額車種を保有する層であるから例えばメルセデスやBMWの高額車種を保有する層も含まれるであろう。しかし、今回のターゲットはアウディ既存顧客に絞り込んでいる。既存顧客以上にターゲットを拡げようとしてないから、リーチを高めることを目標には置いていないと考えられる。

・フリークエンシー:リーチを目標にしていないならば、目標はフリークエンシーつまりリーチした顧客に対するエクスポージャを高めて認知させ購買意欲を高めることにあると考えられる。しかしながら、フリークエンシーを直訳どおり「頻度」と捉えるならば、モーターショーは全国では複数回行われるが、ターゲット別には一回限りのイベントであるのでエクスポージャは必ずしも高くない。

目的が認知を広げることまでであれば十分なエクスポージャと言えるのかもしれないが、今回のモーターショーの最終目的は、既存顧客をアウディファンにして買替を促すことであると考えられる。認知の段階から購買までのAIDMA(Attention→Interest→Desire→Memory→Action)プロセスを考えるならばエクスポージャを高める工夫が必要になってくるであろう。

そう考えると顧客当たりのエクスポージャの量をできるだけ増やすこと、そして例えば展示だけではなく試乗したり営業マンと商談をしたりといったようにエクスポージャの質も購買へ結びつくよう深めていくことが課題となるだろう。

◆エクスポージャの量を増やしと質を深めるための仕組み

この問題を考えていく上での制約条件を整理するため、今一度モーターショーを行うことになった理由に立ち返りたい。

・実車を使用したリアルなエクスポージャは通常ディーラーで行われる。
・しかし、ディーラーでは高額車種を展示することが出来ない。
→モノ(商品とショールームスペース)の限界
・しかし、ディーラーには高額車種を売る人がいない。
→ヒト(営業マン)の限界
・しかし、ディーラーでは投資に見合うだけのリターンが得られない。
→カネの限界

カネの制約はモノ、ヒトの制約の制約にもなるから、モノ、ヒトの制約に含めて考えていきたい。

<エクスポージャの量を増やす>

エクスポージャの量を増やすためには、そもそもモノが必要となるから、第一にはモノの限界を解決することだろう。

・解決策を上流(インポーター)に求める

例えばいくつかの商圏をカバーする地域単位で高額車種を展示するショールームを設立することが考えられる。実際にアウディジャパンも全ラインナップを展示する「アウディフォーラム東京」を表参道に開設する予定である。

しかし、今後「アウディフォーラム東京」のような展示場の設立が進んでいくとしても、地方はどのくらいの商圏を想定すればよいだろうか。アウディは全国に約100の拠点を持つが地方には1県1ディーラーのところも多い。県境を跨いでショールームを開設しても、カネに見合う効果が得られるかに疑問は残る。

・解決策を下流(顧客)に求める

異業種の例として骨髄バンクをあげたい。骨髄バンクは予め了承した個人がドナー(提供者)として登録すると、骨髄が必要な患者が発生した際にドナーが提供する仕組みである。

これを自動車に置き換えるとA8やS6、S8、Q7といった高額車種の顧客の中で、他者へ保有する車を見せたり試乗したりすることを了承する顧客(ドナー)を見つける。そして見込み客が現れた際にディーラーからドナーへ申し入れる仕組みである。

自動車の場合にはドナーへインセンティブが必要と思われるが以前に弊社大谷が述べているようなポイント制を導入し、自社で囲い込んでしまう方法も考えられる。(http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/otani/otani0124.html)

保有する資産を他者に提供・公開する仕組みは他にもある。旭化成ホームズの展開するへーベルハウスである。ヘーベルハウスでは見込客が実際に生活している住居を訪ね、住み心地や体験談など生の声が聞ける見学会を開催している。

見込客が使用者の生の声を聞くことは後述するエクスポージャの質を高めることにも繋がるだろう。加えてカネの負担もインポーターの解決策として提示した新たな展示場を設立するより軽いと考える。

<エクスポージャの質を高める>

モノが確保できた上で、エクスポージャの質を高めるにはヒトの制約を解決する必要がある。

・解決策を上流(インポーター)に求める

例えば直接的にヒトを増やす方法としてインポーターの中に高額車専門の販売部隊を設けてそこから営業マンを派遣することなども考えられる。

また先日トヨタから発表されたITツール「ネッツコンサルティングナビ」は間接的にヒトのリソースを補完する方法だろう。「ネッツコンサルティングナビ」は「自分にぴったりのクルマを探すステージ」、「クルマを知るステージ」など、4ステージに分かれておりパソコンの画面上でシミュレーションしながら商談を進めることができるそうである。

営業マンの派遣やITツールの活用はエクスポージャの質を高めることに繋がると思うが、人件費やシステム開発費といったカネの負担が想定される。

・解決策を下流(顧客)に求める

ここでの顧客とは見込客であり、見込客自身に知識をつけてもらうことである。

以前筆者は見込客が自由にパソコンから情報を引き出したり車に触れたり出来る無人ショールームが開設されたという記事から、営業マンの役割が売り手という販売員から、見込客自身が購買に至るプロセスを進んでいくことをサポートする購買代理人のような役割に変化してきていると述べた。(http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/horai/horai0098.html)

ディーラー自身は購買代理人に徹して、質の高い情報の提供や上記で述べたドナーとの出会いの場の提供等の購買サポート機能を高めて見込客自身がエクスポージャの質を高めていくことを促すのである。サポート役に回ることができれば営業マンの追加というカネの負担も避けることができるのではないだろうか。

◆まとめ

これまでアウディの例を取り上げて課題を抽出し解決策の例を提示してきた。今回筆者が伝えたかったことは以下である。

・課題の抽出や解決策を検討する際には、「量と質」、「上流と下流」、「ヒト・モノ・カネ」といった概念的な言葉を活用してみる
・「ヒト・モノ・カネ」といった制約が強い場合には、既存客を活用すること、見込客自身に購買までのプロセスを進んでもらうことが一つの方向性ではないか

顧客にドナー登録してもらうことや購買代理人としてサポート役に回ることは、これまで売り手から買い手へと一方通行であった関係を見直し、双方向のインタラクティブな関係を持つということである。

顧客とのインタラクティブな関係を構築して、それを活用することはアウディに限らず特に「ヒト・モノ・カネ」といった経営リソースの制約が強い新規参入者や小規模事業者にとっては有効なアプローチではないかと考える。

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