3 | 日本のディーラーがうらやむ事業構造 |
ディーラー経営ではインドの交通事情ならではの恩恵もある。傷ついた車体の板金修理など整備部門の収益だ。リングロードホンダの場合、車両のセールス担当76人に対して、板金を含む整備担当は163人に及ぶ。日本のディーラーでは板金は専門工場へ外注するため、セールス要員と整備要員の比率はこの逆だ。
ニューデリーのラッシュ時は、乗用車や2輪車、バスだけでなくオート3輪のタクシーである「オートリクシャ」などがひしめく。英国の植民地であったため、十字路は信号ではなく円形の植え込みによって車両の流れをつくる「ランナバウト」方式であり、慣れない日本人には接触が怖くて走れそうもない。
クラクションは、至るところでけたたましく鳴り響く。だが、車の存在を周囲に知らせるためという了解ができているため、日本のように喧嘩になることはない。後部視界の悪いトラックは、荷台後部に「ホーン・プリーズ」と大書している。近づいた車はクラクションで「知らせてね」というわけだ。
とはいえ、接触は相当あるようで、板金修理需要はディーラーの貴重な収益源となっている。リングロードホンダの本店の場合、板金だけで1日平均15台の入庫があるという。整備がもたらす収益は車両販売部門とほぼ均衡するそうで、日本のディーラーにとっては、うらやましい事業構造となっている。
もっとも、「車は常にきれいにしておきたい」という富裕層顧客ならではのニーズが背景にある。その意味からもプレミアムとしてのブランド維持は、今後、ホンダがインド事業を拡大するうえで欠かせない要件となる。