【AutoStanding】潜在的な市場の需要をどう顕在化させるか

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【AutoStanding】潜在的な市場の需要をどう顕在化させるか
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米国でハイブリッド専門レンタカー会社が急成長

米国でトヨタの『プリウス』や『カムリ』などのハイブリッド仕様を専門にレンタルしているEVレンタル・カーズ社(以下EV社)が急成長しているとのことである。

各種報道による情報を列挙すると以下のとおりである。
・昨年の売上高は400万ドルで今年は500万〜600万ドルを達成する見込み
・保有台数は452台(引き合いに出されていた総保有台数65万台の大手レン
タカー会社のハイブリッド車保有台数は50台程度。大手各社はハイブリッド
車の供給台数が少ないと不満を漏らしている)
・ハイブリッド車には政府の補助金が付く
・月間平均稼動率は業界で良好とされる80%〜85%を上回る90%
・店舗は西海岸に8カ所

米国でのハイブリッド車の人気は高く、ウェイティング・リストが出来るほどだが、EV社は政府の補助金も原資に組み入れて仕入先であるディーラーから高値で買い付けることで保有台数を確保している。

また、人気の高さが高い稼働率を生んでおり、高い稼働率ゆえに競争力あるレンタル料の維持が可能になり、それがまた高い稼働率を生むという好循環が生まれていると考えられる。

レンタカー事業は、つまるところ保有台数×稼働率のビジネスだから、その両者を高める仕組みが出来ていることが強みである。

保有台数あたりの売上高は約90万円と、日米の大手レンタカー会社の半分程度しかない。だが、ビジネスモデルの違い(例えばニッポンレンタカーはフランチャイズ=FC制を取っており、主な収益源はFC店に対する車両リース料とFCロイヤルティ収入になっている)もあり、一概には比較できない。

だが、米最大手のハーツの売上高成長率が7%にとどまる中、EV社の今期成長予測が40%に達するというのであれば、急成長といえるのは間違いない。

◆納得感の見える化による潜在需要の顕在化

EV社が目を付けたハイブリッド車のレンタルという事業がこれまでのところ好調に推移しているのは、クルマに関わる事業者が特定の価値観や行動特性を持つ消費者の潜在的な需要を、自社のビジネスシステムを使って顕在化することに成功したから、と考えることができるのではないだろうか。

つまり、既存の商品(自動車)やそれとの関わり方に不満を持つ消費者層を独自の尺度で認識・特定したうえで、同時にそうした消費者層の不満を効果的・効率的に解消するための仕組みを準備したことで、需要を顕在化させ、ビジネスとして成立したのではないかと思われる。

潜在的な需要を認識・特定することと、その潜在的需要にリーチ、ミートする仕組みを作りだすこととは、どちらかが欠けてもいけないし、ビジネスモデルの革新を目指す事業者にとっては両者の順番が入れ替わっても具合が悪いだろう。後者からスタートすると、既存のビジネスシステムを前提にまだリーチできていない既存需要にどうやって到達するかというプロモーションのあり方の話、つまりビジネスモデルの改善レベルにとどまってしまうからである。

例えば、「納得感の見える化」に成功した買取チェーンや中古用品ビジネスは、仕組み作りの上手さが取り上げられることが多いが、その仕組みを作り出す以前に、不透明な買取価格や車検価格に対して「納得感の見える化」を求める顧客の存在を認識・特定したことがより重要である。

「納得感の見える化」の詳細は弊社寺澤執筆の以下コラムをご参照頂きたい。
http://www.sc-abeam.com/mailmagazine/tera/tera0100.html

◆市場細分化の限界

潜在的な需要を認識・特定するためには、市場を細分化してターゲットを絞ることが重要になる。市場を細分化する際に伝統的に使用される基準として以下のようなものがある。

(1)気候や地理といったジオグラフィック基準
(2)性別、年齢、世帯、宗教といったデモグラフィック基準
(3)価値観、ライフスタイルといったサイコグラフィック基準
(4)使用率、ロイヤルティ、ベネフィットといった行動変数基準

以前のコラムでも触れたことがあるが、かつては主流であった(1)や(2)のような定量的な市場細分化基準は流行らなくなってきている。都会と田舎、若者と中高年といった区別が曖昧になってきていることに加えて、都会の中でも消費者の価値観や商品に対する態度は多様化してきているからだ。

そこで、最近では(3)や(4)のような定性的な基準を採用するべきといった風潮にある。定量的な基準で市場や顧客を分類するのではなく、消費者の価値観や商品に対する態度で分類する方が成熟した社会の市場実態をより反映しているという考え方がその背景にある。

しかし(3)や(4)のような定性的な市場細分化基準には根本的な欠点がある。概念が拡散しすぎて、ビジネスとして成立するために必要な効率が犠牲になりがちだという弱点である。

例えば、サイコグラフィック基準に基づいて個性重視という価値観を持つ顧客をターゲットに置いたとしたら、極論すれば一つとして同じ商品を並べるわけにはいかないが、それではビジネス効率が上がらない。かといって多店舗展開やマスメディアを通じたプロモーションを行なったのでは標的顧客に逃げられてしまい、やはりビジネスとして成立しない。一時期、業績を低下させたユニクロは、市場細分化の結果から来るビジネス効率のジレンマに陥っていたと見ることができる。

◆ハイブリッド・レンタカーのインプリケーション

今回ハイブリッド・レンタカーを取り上げたのは、現代の市場実態から見てより実際的と考えるサイコグラフィック基準や行動変数基準で市場を細分化しながら、同時にビジネスの効率を上げ、ビジネスとして成立させる方法論がないか、という課題に対するヒントが隠されているのではないかと考えるからである。

最終的にハイブリッド・レンタカーという顕在需要に行き着いた潜在的な需要はどんなものだったか、定性的な基準を用いた例を以下にあげてみる。

・サイコグラフィック基準---社会的責任に関心があると見える車が欲しい、最近流行りの車に乗りたい、先進性を感じさせる車に乗りたい、など。

・行動変数基準---車は週末の家族レジャー専用、たまにはいつもと違う車に乗りたい、街中での安上がりな買い物の足、など。

もし、サイコグラフィック基準だけで潜在需要を認識・特定したとすると、用意するべき商品は拡散してしまう。歩行者の衝突安全性の高いセダン、米国での人気が高まっているクロスオーバー、マグネシウム合金をエンジンブロックに使用した輸入車、いずれも該当する。環境性能だけを考えても、CO2の少ないディーゼル車、NOx性能の高いガソリン車、リサイクル性が高くVOCの少ない天然素材の内装など様々である。

行動変数基準で考えても、ミニバン、中古車、セカンドカーとしてのオープンカー、オリックスの「いまのり君」のような超短期リース、軽自動車、電動自転車などバラバラである。

ところが、両者を組み合わせてその交点を探してみると、多様であった潜在需要がある程度絞り込まれてくる。エコロジーとエコノミーの両立というイメージである。

そしてそれを実現するにあたって、参入障壁の低さ、商品とサービスの差別化とバックオフィスでの標準化の可能性、収益性の高さ、撤退損失の低さなど、ビジネス効率を加味していった結果、ハイブリッド車のレンタルというモデルに行き着く可能性が高まってくる。

つまり、拡散しがちな定性的な市場細分化基準をマトリクス的に複数組み合わせることで、商品やサービスの輪郭がある程度明確になり、効率的なビジネスとして成立する可能性が高まったということができる。

同じような事例としてオーガニック食材を小口・単品で取り揃えているナチュラルローソンを挙げることができる。

健康志向というサイコグラフィック基準だけで市場を細分化していたら、健康食品や健康器具を大物から小物もまで顧客ニーズに合わせて品揃えしなければならなくなり、ビジネス効率は上がらないし、ドラッグストアとの差別化もできなくなる。買い物は近所で済ませたいという利便性の行動変数基準を組み合わせることで、商品や売り方の効率的な絞込みと差別化が可能になり、健康食材のコンビニエンスストアというビジネスシステムが成立したのである。

◆定性的な市場の声をどう取り込むか

ここまで定性的な市場細分化基準を複数用いることで、潜在需要の絞り込みによるビジネス効率の追求が可能になる、と述べてきたが、そもそも市場の定性的な声を取り込むこと自体が難しいのではないかという反論があると思う。

実際、自動車メーカーが市場の声と認識しているのは、既納ユーザーからのサーベイ結果やクレームが中心で、自社の製品を買ってくれない・どこの製品も買わないユーザーの声を掘り起こす術を持っていないといっても過言ではない。

また、方法を持っていたとしても(商品企画時点でのターゲット・グループ・インタビュー等)、実際にはそれを市場の声として正面から受け止め、時間・費用を掛け、リスクを取って開発の進んだ商品を変更する決断はなかなかやり難いものである。

第一に市場の声の代表性の問題である。結局はサンプル数の少ない回答を拠り所にしているから、それが本当に市場の声を代表しているのか不安になる。

第二に市場の声の不確実性の問題である。消費者が使う言葉は曖昧で必ずしも明確ではなく、しかも用語・用法が消費者ごとに異なる。

第三に市場の声の持続性の問題である。ある時期に統計的に有意なサンプルから確実な需要が引き出せたとしても、市場の声は常に変化していく。情報収集の仕組みを維持管理していくことは容易ではない。

こうした問題を解消する方法として活用の可能性があるのは、昨今各種の媒体で取り上げられているブログである。ブログは自社ユーザーに限定されない幅広い消費者の声が集積している。

そこに集積された消費者の声は曖昧で不確実だが、個別の単語にとらわれず文脈全体の意味合いから消費者の真意を検索・解析する技術も出始めている。そして消費者の声は不断に変化するが、その変化をトレースし続けることも技術的に可能とされる。

ブログの評価を自動車の商品開発の参考情報として活かすことも始まっているようであるし、こうした技術を持つ事業者や意味あいを持たせ市場の声を商品やサービス、テクノロジーに翻訳したり定量化できる事業者が今後活躍するかもしれない。

自動車に関してもっと言えば、消費者の声を意味合いで集約するだけでなく、分解することも必要になってくるだろう。

例えば、あいまいでバラバラな消費者の声を統計的に有意なレベルで集約して「高級感のある走り」が市場の声だと解析したとしたら、それをエンジンの出力特性に置き換えるとどういうイメージか、サスペンションの硬さ・収縮速度に翻訳するとどうなるか、マフラーから聞こえてくる排気音の大きさや周波数で表現するとどうなのか、といった部品のレベルにまでブレークダウンする世界が出現するとすごいことになる。

◆まとめ

現代の成熟市場にマッチしているはずの定性的な市場細分化基準には、二つの問題があった。

一つは、ビジネスの拡散を招き、効率的なビジネスの構築を難しくするという欠点であり、もう一つは定性的な情報の収集維持管理が難しいという技術的な問題である。

だが、前者の問題は複数の市場細分化基準を用いることで絞り込み・効率化の方向性が見えてくる可能性があり、後者の問題は昨今の場の整備と技術進歩により克服の見通しが立ってきた。

革新的なビジネスモデル構築を目指す事業者にとって重要なことは以下のとおりであろう。

・より効果的な市場細分化基準や市場情報収集ツールを活用して潜在的な市場の声を認識・特定すること。
・自社の商品やサービスを検証して効率的なビジネスシステムを設定すること。
・その両方をセットで準備することで「納得感の見える化」を行い、潜在需要を顕在化させること。

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