その程度のキャッシュが欲しいなら「終わり」
米GM(ゼネラルモーターズ)から株売却の申し入れを受けた時、鈴木修会長にしてみれば「あと数年頑張ってくれれば……」という思いだったろう。スズキは昨年度から着手した中期5カ年計画で、「自立」し得る3兆円企業を目指しているからだ。
この計画は社長就任以来、30年近くに及ぶ鈴木会長の経営者としての集大成にもなる。もっとも、原価低減の成果をコツコツと蓄積してきた内部留保は厚く、膨大な投資が伴う中期計画への影響は回避できそう。6日夕刻に緊急会見した鈴木会長には自信と余裕すらうかがわれた。
GMが保有した20%のうち17%を換金した対価は約2300億円。昨年10月、GMによる富士重工業株の売却が表面化した時、「ウチの株を売って、その程度のキャッシュが欲しいということなら、もう(GMは)終わりじゃないの」と、報道陣を煙に巻いていた鈴木会長だが、さまざまな筋書きをシミュレーションしてきたはずだ。
◆「保障料」をポンと支払える内部留保
業務提携でスズキが継続必須とこだわる案件は2点に絞られる。事実上の再進出を図っている米国市場攻略に欠かせないカナダ工場(CAMI)の合弁の維持と、燃料電池車など先端技術の共同開発だ。将来はともかく、現時点では2つとも単独でやるには資金面の荷が重い。これらの継続が担保されたことで、2300億円の「キャッシュバック」は止むを得ないということになった。
スズキの利益剰余金は5400億円(2005年9月期)と、売上高2兆円余の企業としては手厚い。その半分近くの取り崩しは痛いが、ポンと出すことができたのは、「平時に乱を忘れず」で蓄えた経営陣の力量だ。GMが出資比率を20%に引き上げた2000年は世界的な自動車再編が渦巻いていた。20%はGM傘下で買収の脅威に身をさらすことなく業務に専念する「保障料」だったと見ることもできる。
◆買い入れ株に自社株消却の選択肢も
今回スズキが買い入れた自社株は、1年間そのまま金庫株として保管され、GMに買戻しの意向があれば応じる。ただ、相手の経営状態からその可能性は極めて薄い。新たな提携相手探しは「喪が明けてから」と冗談交じりの鈴木会長だが、中期計画が順調に遂行されれば、資本提携にこだわる必然性も薄れる。
つまり、その間に蓄積した内部留保を投じる「自社株消却」という、自立に向けた選択肢も出てくる。スズキの浮動株は半数強で、7割前後に及ぶトヨタ自動車やホンダよりは低く、敵対的買収への構えも取っている。中期計画の達成と「自立」への道筋は、08年で社長・会長の在任が30年となる鈴木会長が自ら敷く花道となろう。