【放談会2002 Vol. 11】仮想大敵中国の戦力

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三浦 昨年末に中国がWTO加盟を果たし、にわかに生産工場としての中国がクローズアップされてきました。

安田 中国は共産主義国家ではあるが、部分的にはそうではなくなっています。今後、中国の経済政策は確実に自由化、規制緩和へ向かうはずです。一度、自由主義経済を経験すると、後戻りはできなくなる。それに、政府の思惑だけでは市場が動かなくなってきた。中国進出すること、イコール中国政府の思惑に乗ること、ではないんです。

牧野 去年12月のWTO加盟と同時に開催された上海モーターショーは、それこそ「クルマがどんどん身近になる」ことを肌で感じ取った庶民でにぎわいました。購買意欲がどんどん高まっている。さらに政府は、将来の関税目標を発表し、登録にかかる費用も見直しますよ、とにおわせた。WTO加盟の1週間後には、国産車の値段が下がりました。これから輸入車がどんどん入ってくる。競争が激しくなる。国産車はコストダウンの努力をしますよ、というメッセージが値下げだったのです。すでにそこには市場経済のメカニズムが働いている。

安田 中国の政治家はしたたかで柔軟です。むしろ日本のほうが政治も官僚も硬直化している。ネギだとか畳表だとかでセーフガードだなどど言う日本政府のほうが頭が悪い。

三浦 しかし、そこには日本の産業が空洞化するという危機感もあると思います。衣類のように国内生産が脅かされる、と。

牧野 日本の空洞化、中国への生産移転を心配する声もありますが、それは仕方のないことです。だからこそ、日本でなければできない高度な加工や、最新鋭設備による高付加価値生産という部分を創造して行かなければならないんです。革新が止まったら終わりですよ、日本は。まだ中国にはノウハウはないんです。

安田 日本がここまで高コスト体質になってしまったのだから、簡単に生産移転できるような製造技術や製品なら、中国にそっくり移転してしまうのも無理のない話しだ。簡単にキャッチアップされるような部分は、もう手放さざるを得ない。

牧野 過去にも、世界中で生産移転があったのです。造船も鉄工もそうだった。日本もそういう産業下克上のようなことをしてきた。タオル業者の方には悪いけれど、タオルで日本が緊急輸入制限をするなどという選択は時代遅れです。自動車生産が中国に移転されるのは、ある程度仕方のないことです。しかし、たとえばセルシオの生産は簡単には中国に移せない。マクラーレンF1の生産もそうです。そこまでの自前の技術はない。しかし、一生懸命にキャッチアップしてくるでしょう。先に繁栄を経験した国は、その先の繁栄も自ら生み出さなければならないのです。

三浦 それはもう、製造業としての選択ですね。何を作るのか。中国で作れるものを日本でも作るのか。

安田 現状では、中国の自動車産業は外資の助けを借りなければ成り立たないのだから、そこにどうかかわるか、ですね。

牧野 その点では、中国進出が早かったVW(フォルクスワーゲン)が現状では抜きんでています。ずっと水を開けられてシトロエン、GM、クライスラーが続く。乗用車の半数はVWグループの合弁工場で作られている。日本のメーカーではスズキ、ダイハツ、が上位にいますが、プジョーが逃げていった広州を受け継いだホンダがアコードで伸びています。商用車ではいすゞが早かった。これから先は、ダイハツの天津汽車で主導権を握ったトヨタと、いよいよ本格進出する日産、欧米勢ではフォード、フィアットが出て来る。ものすごい競争ですよ。

安田 果たして市場の伸びが生産増に付いてくるかどうか。現地生産しても売れない、という状況だって考えられます。

牧野 国連貿易開発会議では、2005年までに中国の自動車生産が11%落ち込むという予測を発表しています。輸入車の価格が下がり、逆に国産車は低い生産性と品質に悩まされえるという予測です。WTO加盟によって関税は撤廃へ向かい、国内産業保護のための補助金も認められないとなると、たしかに国産車は厳しい状況に追い込まれるかもしれない。だから、その中でトヨタ、日産、ホンダといった日本メーカーは、きちんと生き残れる道をめざさなければならないのです。同時に中国政府のメンツも立て、現地の合弁相手企業をしっかり育成する。

安田 元来、メンタリティは近いはずだからね。現地に根ざしてともに繁栄するという方向は、日本企業が過去に東南アジアで歩んできた道ですよ。

牧野 中国という国の存在を考えると、とにかく日本は技術立国でなければならないとつくづく思う。中国で最近脚光を浴びている某家電メーカーでは「設計図など金さえ払えば買って来れる」と豪語していますが、そういう発想なら恐れるに足らず、です。かつて、経営破綻する前の韓国・大宇自動車でも「必要な技術やユニットは、金を払って世界中から買い集める」と話していた。結果は、パテント料の支払いで経営が圧迫されました。中国が、安い労働力を盾に“借り物の技術”で勝負してくるのなら、日本にとってはしめたものです。逆に、日本の自動車メーカーは『中国市場に出遅れるな!』という理由だけで中国に入れ込んではいけない。将来、中国をどのように位置づけ、中国で何をするのか、自社の経営戦略のなかでどれくらいのウェイトを占める予定なのか、じっくり判断してからでも遅くはないんです。

安田 出るならば、部品メーカーもひっくるめて進出して中国に根付くとか、将来は日本への部品輸出も視野に入れるとか、明確なビジョンが求められます。したたかな政府を持つ国を相手にするのだから、なおさらですよ。

《レスポンス編集部》

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