SDVは何をもたらすのか? 日産が描く“クラウド×クルマ”の価値[インタビュー]

SDVは何をもたらすのか? 日産が描く“クラウド×クルマ”の価値[インタビュー]
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来たる12月12日、無料のオンラインセミナー「SDVとAIが変えるクルマとクルマ作り~欧州vs日本のクルマの今と未来~」が開催される。そのひとつ目の講演「SDVとその価値創造」に、日産自動車株式会社 ソフトウェアデファインドビークル開発本部 コネクティドカーオフボード開発&オペレーション部 エキスパートリーダー 兼 担当部長の村松寿郎氏が登壇する予定だ。

村松氏の講演は以下のテーマで進められる。

1.SDV概要とアーキテクチャ
2.オフボードが果たす役割
3.SDVで提供される価値
4.今後の方向

SDVは、どのような価値をメーカーと消費者に提供するのか。そして、日産が目指すSDVとはどのような姿なのか。この変革の中枢を担う、日産自動車株式会社 ソフトウェアデファインドビークル開発本部 コネクティドカーオフボード開発&オペレーション部 エキスパートリーダー 兼 担当部長の村松寿郎氏に、日産が考えるSDVと、それがもたらす価値について聞いた。

なぜSDVが必要なのか

SDVの導入は消費者にどのような価値をもたらすのか。村松氏はまず、ソフトウェアのアップデートによる機能の更新・追加を挙げる。

「ハードウェア自体は経年劣化しますが、ソフトウェアは常に最新の状態にアップデートすることができます。また機能が更新・追加されれば、いわゆる残存価値(リセールバリュー)を適切に高めることができます。こういった点がお客様側のベネフィットにもつながると考えています」

一方でメーカー側の視点に立つと、開発のスピードを上げたい という動機があるという。

「従来の分散したECUアーキテクチャ構造では、一つの機能を追加しようとすると、様々なECUに手を入れなければなりません。しかし統合ECUであれば、その特定の部分だけをアップデートすればよいのです。我々にとって開発スピードの向上は大きな動機のひとつです」

これまでの車は、機能ごとに最適化されたECUを搭載する「分散型」が主流だった。この構造は、開発済みのコンポーネントを流用できるメリットはあったが、一つの新機能を実現するために、複数のECUのソフトウェアを改変し、そのすべてを検証する必要があり、開発の足かせとなっていた。

日産が目指すのは、この分散型から脱却し、「ドメインごと(走行系、情報系など)にまとめ、さらには中央のハイパフォーマンスコンピューター(HPC)を中心としたアーキテクチャに持っていく」 という、いわゆるゾーンアーキテクチャだ。

だが、この移行は自動車メーカーにとって容易ではないという。村松氏はこの変革の困難さを「パラダイムシフト」という言葉で表現する。

「今までの車両とは構造がまったく異なります。(漸進的な)進化の過程というよりも、むしろパラダイムシフトといえるものです。従って、そこへ移行する=ジャンプアップする部分は、やはり非常に困難ですね」

SDV化とは、単なる部品の置き換えではなく、車の設計思想、開発プロセス、さらにはサプライヤーとの関係性をも大きく変える変革なのだ。

オフボードの役割が大きく変化する

このパラダイムシフトにおいて、村松氏が専門とする「クラウド(オフボード)」側の役割も大きく変化する。

従来、自動車メーカーにおけるクラウドの役割は、主にテレマティクスサービスのような領域であり、ソフトウェア開発環境とは別のものとして存在していた。

「これまで、コネクティビティという仕組みとソフトウェア開発環境とは、それぞれ別に存在していました。SDVの取り組みで新しいのは、コネクテッドカーと開発環境が直結するようになる点です」。

日産が目指すSDVとは、このサイクルをシームレスに回すことだ。

「統合ECUを搭載した車から(利用状況などの)データをクラウドに上げる。そのデータを活用しながらクラウド上でソフトウェアを開発し、新しいソフトウェアをリモート(OTA)で車側を更新する。この一連の流れが組み合わさることで、SDVの完成形に近づくと考えています」

クラウドとエッジの最適解を追求する

SDVの時代になると、ハードウェアの設計思想そのものも変革を迫られる。将来のアップデートという「余白」を、あらかじめ織り込んでおく必要があるからだ。

「過去の自動車開発はコスト重視であり、SOP(生産開始)のタイミングで、搭載するCPUやメモリーをほぼ100%使い切る設計によってコストを低減させてきました。しかし、これからはその先のアップデートを考慮しなければなりません。そのため、SOPの段階でCPUもメモリーも一定の余裕を持たせる。そうした考え方で、近年の車は作り始めています」

だが、どれだけ余裕を持たせても車載側の処理能力には限界がある。特にAIのような、今後の進化が予測しづらく、かつ高負荷な処理をどう扱うかは、SDVのアーキテクチャ設計における重要なテーマだ。

この問いに対し、村松氏は車両側(エッジ)とクラウドの役割分担に言及する。

「例えば、自動運転の処理の一部をクラウド側で実行しているとします。走行中に突然通信が途切れたら何が起こるか。想像したくない事態になりかねません。こうしたミッションクリティカルな部分は、車(エッジ)の中で処理を完結させる必要があります。一方で、例えば近くのレストランを探すといった処理は、通信が瞬断しても大きな問題にはなりにくいです」

その好例が対話型AIだ。「ラージランゲージモデル(LLM)のような巨大なモデルを、現在の処理能力で車載器にすべて持つことはできません。であるならば、LLMはクラウド側のリソースを使い、処理した結果だけを車に返す、といった役割分担が考えられます」

「安全性と機能性を両立させるため、機能の特性に応じてクラウドとエッジの処理を最適に配分する。このハイブリッドなアーキテクチャこそが、現実的なSDVの姿だと考えています」

「走る・曲がる・止まる」のAPIは解放されるのか?

SDVのもう一つの側面は、スマートフォンにおける「アプリ」のような、サードパーティーによる価値創造の可能性だ。日産はGoogleビルトインを採用しており、IVI系のアプリは、Google を通じてすでに提供されている。

だが、サードパーティーが「制御系」のアプリ、例えば、プロパイロットの挙動をカスタマイズしたり、パワートレインの特性を変更したりするようなアプリを自由に開発できる未来は来るのだろうか。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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