生成AIの自動運転で東京・銀座を走る。2027年の市販化をめざす日産「次世代プロパイロット」のリアル

生成AIによる「次世代プロパイロット」の自動運転で東京・銀座を走った
  • 生成AIによる「次世代プロパイロット」の自動運転で東京・銀座を走った
  • 生成AIによる「次世代プロパイロット」の自動運転で東京・銀座を走った
  • 停止線が削れてしまい。道路の両端に辛うじて残っている状態。こんな状態でも次世代プロパイロットは、適切な位置にピタリと停止できる。
  • 右折車線に入ろうとするバスによって前が塞がれている。気の短いドライバーならちょっとイラっとするかもしれないが、次世代プロパイロットはバスが完全に車線変更するまで待って前進した。
  • 対向車で前方が見えず、奥の車線を直進してくるのも見えない。ちょっとストレスを感じる状況で右折待ちしていた。
  • 対向車がいなくなってクリアな状態で発進。人間が手を触れていないのにハンドルが大きく右に切られているところもご注目いただきたい。
  • この時点では、フロントガラスの前方に歩行者は見えていない。
  • しかし、2秒後には歩行者が横断歩道を渡りだしていた(判りやすいように、このカットは3秒くらい後のもの)。

日産自動車が2027年度の市販化を目指す「次世代プロパイロット」は、生成AIを基盤とした、これまで同社が積み重ねてきた自動運転技術とはまったく異なる未来的なものだ。9月24日、東京・銀座周辺で実施された試乗会で、その実力を目の当たりにした。

運転席に座るのは、日産自動車AD&ADAS先行技術開発部戦略企画グループ部長の飯島徹也氏。プロパイロットなど日産の先進運転支援システムの開発を先導してきた。BEV『アリア』をベースとした開発試作車(以下、アリア)は、飯島氏がステアリングやペダルにまったく触れることなく、アクシデントもありつつ複雑な市街地を約40分間走り切った。

この次世代プロパイロットは、英国Wayve社が開発した生成AI技術「Wayve AI Driver」をコアとしている。従来の自動運転システムが「認識」「予測」「計画」という段階的なプロセスを経るのに対し、Wayve AI DriverはカメラやLiDARの視覚情報を入力として生成AIが運転操作を直接出力するエンドツーエンド(E2E)システムだ。

◆自動運転の基準が完全に変わった

試乗は東京プリンスホテルのエントランス前からスタートした。飯島氏がナビゲーションに目的地を設定する。

飯島:ルートはナビに入力していますが、普通のナビです。今までは単純なシステムだったので地図を選んでいましたが、これはどんな地図でも人間と同じようにAIが直接読み込むシステムです

アリアはゆっくりと動き出す。

飯島:(自動運転は)もうすでに動いています。左方向、日比谷通りを進みます。

車両は自律的に左折し、市街地走行を開始した。

飯島:こういう停止位置がよくわからないような場所でも、周りの景色の中から「大体この辺だろう」という推測をして止まります。

東京プリンス前から大通りに出る道の出口は、停止線が削れていて微かにしか判別がつかない。しかし、アリアは交差点手前で自然な位置に停車する。白線や停止線といった特定の目印に依存するのではなく、周囲の状況全体から判断している。

停止線が削れてしまい。道路の両端に辛うじて残っている状態。こんな状態でも次世代プロパイロットは、適切な位置にピタリと停止できる。

以前、日産がお台場で行ったプロパイロットのデモ走行では、工事中で白線が見えないために認識できず、うまく動かないことがあった。

飯島:当時は白線だけを見て動いていたので、白線に問題があると、パーセプション(認識)が崩れて、その後のアクション(行動)が全部崩れる脆弱なシステムでした。この新システムは全ての画像を処理して、その中で自分がどう動くか判断をしているので、何かある情報が欠落しても、いきなり挙動が乱れることは極めて起こりにくいのです。

今回の新システムで自動運転に関わる仕事のスタイルが大きく変わったという。

飯島:(お台場の)当時は、ほとんどの時間を「(できない)言い訳を考える」ことに使っていました。今日は、「できる理由をどうやって説明すれば皆さんに分かっていただけるか」にほとんどのエネルギーを使っています。時代が変わりました。

◆人間と同じように複雑な市街地状況へ対応

飯島:例えば前から紙が飛んできた時、人間だったら、なんとなくこうやって(身をよじって)避けて行くじゃないですか。人間と同じように、このシステムのAIは与えられた情報の中で、最善の策を取るという能力を持っています。

このとき、前方を右折しようとするバスで2車線分が塞がれた。

飯島:これは私も初めて見るシチュエーションですが、ちょっと左に避けていくのではないかと思います。

しかし、アリアは避けずにバスが右車線に入りきるのを待ってから直進した。アリアの行動はパターン化されている訳ではなく、複雑な状況の中で、そのとき最善と自分が思う行動を取る。ここでは飯島氏にも完全には予測できなかったわけだが、全体的に見ると、かなり丁寧で慎重な運転が続いた。

右折車線に入ろうとするバスによって前が塞がれている。気の短いドライバーならちょっとイラっとするかもしれないが、次世代プロパイロットはバスが完全に車線変更するまで待って前進した。

右折待ちでの歩行者・対向車認識

西新橋2丁目の交差点では右折のシーンが待っていた。矢印信号のない交差点で、対向車と横断歩道の歩行者によって状況は複雑に変化する。

飯島:対向車の動きと、行った先の横断歩道の状況を見ながら判断します

アリアは自らウインカーを出し、対向車の切れ目を待って右折を開始した。曲がった直後、歩行者との距離を取るようにわずかにステアリングを切る動きが見られた。

対向車で前方が見えず、奥の車線を直進してくるのも見えない。ちょっとストレスを感じる状況で右折待ちしていた。
対向車がいなくなってクリアな状態で発進。人間が手を触れていないのにハンドルが大きく右に切られているところもご注目いただきたい。

飯島:今、歩行者とちょっと距離を取るようにハンドルを切ったと思います

人間のドライバーが無意識に行う微妙なステアリングの調整を、AIが自然に再現するのだ。

横断しそうな人も観察している

右折した先は、新橋の烏森通り。3車線程度の幅があるが、一方通行で左右に路上駐車が続き、道を渡る歩行者も多い。

飯島:こういうところで飛び出してくる人の行動は連続して読んでいますが、横断歩道を渡ろうとしている人には、さらに高いレベルで優先行動に出ますね。離れたところで、「もう来る」と思ったら待ちます。

横断歩道の前でアリアがすっと止まり、横断歩道を渡る人を待つ。後で録画を見なおしたが、3秒前までフロントガラスから見える前方に渡りそうな人影はなかった。横方向のカメラで周囲の動きを観察して先読みしているからできる動作なのだろうか。

この時点では、フロントガラスの前方に歩行者は見えていない。
しかし、2秒後には歩行者が横断歩道を渡りだしていた(このカットは3秒後)。

その後も、混んだ道路を前方の軽バンに合わせて少しづつ進んでいく。

レスポンス:完全に前の車に追従しているわけですか。

飯島:従来のアルゴリズムだと、前の車との距離だけでしたが、このシステムは全ての景色の中で、パス(経路)を決めています。

周囲のクルマだけでなく、人の動きもアリアは見ている。

飯島:こういう道路だと、路上で作業している人とか、いろいろランダムに入ってくる人の動きも見ますし、横断歩道の近くにいる人のアクションも、来るか来ないかの判断をする。急に道路を渡ってくる人に対しても、危なくないように対応する。あまり過度に反応すると周りもビックリしちゃうので。


《根岸智幸》

メディアビジネスコンサルタント、ソフトウェアエンジニア、編集者、ライター 根岸智幸

メインフレームのOSエンジニアを皮切りに、アスキーで月刊アスキーなど15誌でリブート、リニューアル、創刊を手がける。クチコミグルメサイトの皮切りとなった「東京グルメ」を開発し、ライブドアに営業譲渡し社員に。独立後、献本付き書評コミュニティ「本が好き!」の企画開発、KADOKAWA/ブックウォーカーで同人誌の電子書籍化プロジェクトなど。マガジンハウス/ananWebなどWebメディアを多数手がけ、現在は自動車とゲーム、XRとメディアビジネスそのものが主領域。 ・インターネットアスキー編集長(1997-1999) ・アスキーPC Explorer編集長(2002-2004) ・東京グルメ/ライブドアグルメ企画開発運営(2000-2008) ・本が好き!企画開発運営(2008-2013) ・BWインディーズ企画運営(2015-2017) ・Webメディア運営&グロース(2017-) 【著書】 ・Twitter使いこなし術(2010) ・facebook使いこなし術(2011) ・ほんの1秒もムダなく片づく情報整理術の教科書(2015) など

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