ブレーキチューニング(ブレーキチューン)はスポーツチューニングにおいて重要な要素。乗り心地を良くしたり、車高を下げて見た目を変えたりといったチューニングであれば、とくにブレーキチューンは必要ないが、パワーアップとは密接な関係にある。
エンジンパワーを引き出してスピードが出やすくなれば、それだけしっかりと止まれるブレーキが必要になる。サーキット走行では、しっかりと止まれる安心感があるからこそ、アクセルを踏んで加速できる。
◆ パワーアップと制動力は“セット”
ブレーキの基本戦略
ブレーキチューンとなるとまずはパッド交換が挙げられる。ブレーキパッドの摩材を純正品とは異なるものにする。
純正パッドはダストが少なく、鳴きも抑えられていて、扱いやすい。しかしサーキットやワインディングで温度が上がると効きが弱くなる“フェード現象”が起きてしまう。このフェード現象はパッドの素材の温度が高くなるときに、素材に含まれる樹脂が煙となってしまう。その煙がパッドとローターの間に入って浮かせてしまうのだ。
そこでスポーツパッドは樹脂を減らして、代わりに高温に強い金属成分が含まれている。鉄など様々な金属が使われ、高温に強くなるがダストが増えたり、ローターが減りやすくなったりする。快適性とはトレードオフの関係にあるが、サーキットを連続走行しようと思ったらスポーツパッドは必須のアイテムである。
一方で技術の進歩は著しく、普段乗りも快適なスポーツパッドが多数発売されている。純正パッドよりもダストが多いが、普段乗りで鳴くこともなく扱いやすい。それでもサーキットでもある程度の連続走行が可能なモデルも多い。
◆ 大径ローターの効果、熱容量・放熱・安定性
そういったパッドを使ってもサーキットでは厳しい場合、次に選択肢に挙がるのはローター交換だ。パッドと摩擦しているローターはその熱容量が大きいほど激しい走りに耐えられる。ローター径が大きくなれば体積も大きくなり、同じようにブレーキをかけた場合、ローターの温度は小さなローターよりも上がりにくくなる。温度が上がっても表面積も大きいので熱を放出しやすい。
◆ キャリパー交換の狙い、剛性とコントロール性、そして総合容量
ブレーキチューンといえばキャリパー交換がある。キャリパー自体を交換し、多くの場合は純正の片押し2ポットなどから、対向4ポットや6ポットにする。それによって強力な効きが得られそうだが、実はそれよりもローターが大きくなる恩恵の方が大きい。
キャリパーを交換してピストン数が増えると、パッドを均一に押せるため、パッドの面積のすべてを効率よく使うことができ、制動力もアップするが、必ずしも劇的な効果ではない。むしろ、多くの場合キャリパーキットを付けるとローター径も大きくなることが多く、それによりローターの熱容量が増し、効きも良くなり、連続周回にも耐えられる。
キャリパーを変えてもローターサイズとパッドのサイズが純正と同じであれば、同条件で走行した際のローター温度はほぼ同じになり、摩擦材によってはフェード現象が起こることもある。それよりもキャリパー交換のメリットは、高剛性なキャリパーになることによるペダルタッチの変化にある。ペダルのストローク量は減り、ペダルが硬くなる。ガッチリとしたペダルは扱いにくそうだが、実はコントロールしやすい。踏み込むほどに効きは強くなり、弱めるときも微妙な調整が可能なのだ。
車種によっては、純正キャリパーをオフセットするステーや大径ローターが売られていることがある。とりあえず、ブレーキ容量をアップさせてサーキットで連続走行をしたり、ワインディングでの安心感アップを狙うのであればそれも選択肢のひとつ。キャリパー交換に比べればかなりコストを抑えてブレーキのキャパシティを上げることができる。
同時にペダルタッチも良くしたいのであればキャリパーキット装着となる。現実問題としてはキャリパーキットは多くの車種にラインアップされているが、前述の大径ローターとキャリパーオフセットステーは一部車種しかないのでなかなかマッチしないかもしれない。
そういう意味では、効きもコントロール性能も向上するキャリパーキットはやはり魅力的な存在だ。しかも、ローター温度が高くなりすぎず、サーキット走行でもパッドの摩耗を抑えられる。そういう意味では、早めに投入したほうがランニングコストの抑制につながり、結果としてコストパフォーマンスも良くなるのだ。