「僕たちが提供しているのは自由の翼」ヤマハ発動機が初の東京オートサロン出展で見せたものとは

ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォーム「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」(東京オートサロン2024)
  • ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォーム「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」(東京オートサロン2024)
  • ヤマハ発動機(東京オートサロン2024)
  • ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォーム「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」(東京オートサロン2024)
  • ヤマハ発動機の小型低速EVにはホンダの交換式バッテリーを採用する。
  • ヤマハ Concept 580とホンダの交換式バッテリーステーション
  • ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォーム「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」(東京オートサロン2024)
  • ヤマハ Concept 682(東京オートサロン2024)
  • ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォームを使ったプロトモデル(東京オートサロン2024)

バイクメーカーのヤマハ発動機が、12日に開幕したカスタムカーの祭典「東京オートサロン2024」に初出展し話題となっている。「クルマのショー」であるオートサロンにヤマハが出展した理由とは。オートサロン来場者に向け、何をアピールするのか。

◆「一個一個の部品がヤマハである必要はない」

ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォーム「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」(東京オートサロン2024)ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォーム「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」(東京オートサロン2024)

今回ヤマハが展示したのは、2023年3月に発表した小型低速EVの汎用プラットフォーム「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」を活用した、低速パーソナルモビリティの提案だ。この汎用プラットフォームはヤマハ製の電動モーターと、ホンダの着脱式可搬バッテリー「ホンダモバイルパワーパック e:」を搭載するもので、このプラットフォームをベースに、多様な低速モビリティへの展開を想定している。

家電メーカーのソニーをはじめとした様々な企業とのコラボレーションによる7機種のプロトモデルをブースに並べ、新たな低速パーソナルモビリティの姿を世に問う。

とはいえ、オートサロンには異色ともいえる出展だが、当然ねらいがある。汎用プラットフォームを活用した低速モビリティの企画に携わるヤマハの大東淳氏は、「オートサロンのお客さんは意外と、バイクを趣味にしている人が多いというデータがあるんです。ということはヤマハファンもいるだろうなというのがひとつ。そこで興味を持ってくれた人たちに向けて、この汎用プラットフォームを使った低速モビリティをどう思うかというのを聞いてみたい。そして、最近ではカスタムカーの世界でもコンプリートカー(メーカーがカスタムした完成車)が流行っていますが、我々のプラットフォームを使ってコンプリートカーを作ってみたいというお話が出てくるかもしれない。そこにチャンスがあるのではないか」とそのねらいを語る。

だからこそ、7機種のプロトモデルが見せるコンセプトも多種多様だ。

ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォーム「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」(東京オートサロン2024)ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォーム「YAMAHA MOTOR PLATFORM CONCEPT」(東京オートサロン2024)

マリンレジャー用途に特化した「Concept 310」、多様な路面環境での敏捷な移動性を提供する「Concept 580」、自由な魅力を纏ったミニマムサイズの1人乗りオフロード電動モビリティ「Concept 160」、農地/中山間地での簡単な作業をより軽快で楽しくする「Concept 451」、リゾート向け1人乗り電動モビリティ「Concept 350」、自分好みのアレンジやカスタムにも応えるホースライド型の4輪駆動電動モビリティ「Concept 682」、近未来的都市型3輪パーソナル電動モビリティ「Concept 294」と、汎用プラットフォームとはいえ、サイズもホイールの数もバラバラ。だが、この低速モビリティにおいては「バラバラであること」も重要だという。

大東氏は、「低速モビリティは地域単位で考えていかなければいけない。様々な地域や企業とのコラボレーションがあった方がいいと思うんです。今後、都市部もゾーン30になってきてクルマも30km/hしか出せなくなった時に、パーソナルモビリティも共存していかなければいけない。ただビジネスとしてみればパーソナルモビリティは収益性が低く、ヤマハだけで実現するのは難しい。だからこそコラボ先と一緒に考えて、地域の課題にも寄り添いつつ、たとえばファッション性を高めたり、楽しさを追求したり、様々なコンセプトがあって良いんじゃないか。そういう発想なんです」と説明する。

また、「一個一個の部品がヤマハである必要はない」としながらも、ヤマハらしい強みを発揮するのが「制御技術」だという。ヤマハは主力事業であるバイクや電動アシスト自転車においてもその強みは制御にある、と常にアピールしている。「安心安全の部分はヤマハが作って、そこだけはヤマハがしっかり担保します。あとは自由にやりましょう、というのが理想です。免許が必要のない世界であっても、安心して乗って楽しめる。それがヤマハでしょ、と思うんです。それがブランドになっていけば」と大東氏は語る。

◆「僕たちが提供しているのは自由の翼です」

ヤマハ発動機(東京オートサロン2024)ヤマハ発動機(東京オートサロン2024)

そもそもバイクメーカーであるヤマハが、なぜ2輪ではない小型低速EVを開発するのか。ひとつのきっかけとなったのが「特定小型原付」のレギュレーションだ。ヤマハは2021年に1人乗りの低速パーソナルモビリティ「NeEMO(ニーモ)」を発表し実証実験を開始しているが、これを活用し、「自転車以上、バイク未満の領域」の可能性を探ってきたという。様々な地域、用途向けにニーモを貸し出し、それらのフィードバックから小型低速EVのカタチを模索してきた。それぞれで得た知見が今回の7機種のプロトモデルにつながっている。

また、「低速」であることにこだわるのも理由がある。それが少子高齢化時代の移動手段の課題に対する提案だ。ヤマハとしては地方のラストワンマイルに向けた自動運転カート(グリーンスローモビリティ)の展開などもおこなっているが、「高齢者の方であっても、もっとパーソナルに、自分が移動したいと思った時に、好きなところへ行ける。“自分で”運転して移動する、というところによりヤマハらしさがあると思うんです」と語るのは同社新領域開拓グループの千賀善明さんだ。

「自分で運転することで認知機能や体力の衰えのスピードを抑えることができるだろうと。ヤマハは自分で動きたいんだと言う人たちをなんとかしたい。我々は社内でよく言うんです。『僕たちが提供しているのは自由の翼です』と。行きたいように行ける、それを提供するのがヤマハだと考えています」

実際に65歳以上の団塊世代に向けて、低速パーソナルモビリティについて調査をしてみると意外な反応があったと千賀さんは語る。

ヤマハは制御にらしさがある、と話す(東京オートサロン2024)ヤマハは制御にらしさがある、と話す(東京オートサロン2024)

「いわゆる電動車いすだとか電動カートみたいなものには乗りたくない、もっとカッコいいものに乗りたいという声が多かったんです。2輪は不安定だし、スピードを出すのは怖いけど、だからと言ってカッコ悪いものは嫌だと。どうせなら自慢できるような、「若いね」って言われるような、そんなものが欲しいと。それはその通りですよね、団塊世代の方々はクルマにしろバイクにしろ、ファッションにしろカッコいいものに触れてきた世代ですから。そういう人たちの心をくすぐるモノでなければいけないなと今は考えています」

また現在は日本向けの提案だが、今回のプロトモデルをカタチにしていくことで世界にも通用するものにしたいと千賀さんは話す。

「日本は高齢化がどんどん進んでいる。これから世界でもそうなっていくときに、電動でやっておけば将来世界に広がるものになると思っています。日本でやっておけばあとで通用する。色々やってみてどうなるかを繰り返しながら成長していけば良いかなと思っています」

初のオートサロン出展でヤマハが見せたのは、同社にとっても未踏の領域でありながら、実に「ヤマハらしさ」を突き詰めた未来への提案だと言えるだろう。「東京オートサロン2024」は1月14日まで、幕張メッセで開催される。

ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォームを使ったプロトモデル(東京オートサロン2024)ヤマハ発動機の小型低速EVの汎用プラットフォームを使ったプロトモデル(東京オートサロン2024)
《宮崎壮人》

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