疑問と実態:マツダの電動化戦略…なぜマルチソリューションを選ぶのか

MX-30 REV
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  • CX-60 PHEV
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2023年末、マツダが『MX-30REV』、『CX-60 PHEV』の説明会を開催した。車両の試乗もある説明会だったが、狙いは同社電動化戦略とグローバルEV発売までのロードマップの説明でもあった。


■マツダが掲げるマルチソリューションとは

マツダはモビリティ革命、カーボンニュートラルに対して独自のマルチソリューションを掲げている。トヨタの全方位・マルチパスウェイに準ずるもので、EVのみに注力するのではなくHVからFCV、合成燃料まであらゆる選択肢を模索する考え方だ。

きわめて合理的な戦略だが、見方によっては特定の戦略に絞らずリスクを分散させているだけで、市場ではけっしてイニシアティブをとらない。動きに対して防御のみ行う戦略ともいえる。無戦略を対応力でカバーするという考え方だ。マツダの毛籠社長は産経新聞のインタビューで「意思のあるフォロワー」と明言しており、とくにEVでは市場のリーダーや覇者を目指すのではなく、戦略的なポジションを優先している。

ちなみにマーケティング戦略としても「フォロワー」「ニッチ戦略」はあえて市場リーダーにならないやり方として確立されたものだ。マツダは市場の2%しかない規模の会社だ。これも考え方によっては、2%のシェアがあればビジネスが成り立つ。マツダのあえてトップを目指さない戦略は、マツダならでのものといえる。

だが、それでも素朴な疑問が湧く。マルチソリューションは、トヨタのようにリソースに余裕がある企業には有効だが、失礼ながらマツダ規模の会社にとっては、投資および兵站の分散であり、全体としてどれも失敗するリスクがある。フォロワー戦略、ニッチ戦略では戦術の絞り込みが不可欠であり、全方位やマルチソリューションとの整合性が高くない。

■マツダが複数パワートレインに投資する理由

この疑問への回答は、「カーボンニュートラルへの取り組みとして既存の資産を生かすための結果であり、単に手広くやっているわけではない」(マツダ執行役員中井英二氏)だった。

マツダにはビルディングブロック構想という技術を商品化する開発コンセプトがある。SKAYACTIVテクノロジーのエンジンやパワートレイン技術をベースとした、スモール群、ラージ群と呼ばれるアーキテクチャを完成させる。EV、PHEVもその延長として展開していくプランだ。

通常、HVやエンジン車のプラットフォームとEVのプラットフォームは、別物として設計する方が効率がいい。共用できればそれに越したことはないが、エンジンとバッテリーという心臓部の配置や構造の折衷案となり、パッケージングや基本性能が中途半端となり利益も出にくくなるからだ。

マツダはエンジン、モーター、バッテリー、シャーシ、足回りなどのコンポーネントやシステムのモジュール設計を徹底することで、モジュールやコンポーネント資産をサイズや車両アーキテクチャを問わず活用している(スケーラブルアーキテクチャ)。これを工場レベルで実現するのが、フレキシブル生産ラインだ。原理的にはエンジン車からEVまで同じラインで流すことができる。

つまり、マツダは、既存コンポーネントや各システムの再利用、リソースの有効活用に長けた開発体制、生産技術を持った自動車メーカーといえる。マルチソリューションとはいえ、よく見ると注力しているパワートレインはハイブリッド、EV、合成燃料エンジンであり、FCVは含んでいない。合成燃料については、水素燃焼ロータリーエンジンの草分けであるマツダは、水素や混合燃焼について20年以上の蓄積がある。

新技術にやみくもに投資しているわけではない。持っている技術で対応可能な領域に適用しているだけである。

■2030年までの製品ロードマップ

マツダの電動化戦略は、マルチソリューションの中でも中核を成すものだ。電動化の中には当面HV(ストロング、マイルド)も含まれているが、今後の主力はPHEVとEVと見ている。ラインナップは、CX-90 PHEV、CX-60 PHEV、MX-30 EV、MX-30 REV(ロータリーエンジン搭載のシリーズプラグインハイブリッド)だ。ピュアEVは1車種のみでPHEVに偏っているが、マツダは2028年から30年にかけて新しいEVプラットフォームによるEV展開を予定している。

マツダは、電動化シフトを2030年までの間を2年ごとに3フェーズと分けて考えている。フェーズ1が2022年から24年で現在この段階にある。電動化シフトに向けた開発強化期間として、当面利益の確保できるラージPHEVを中心に体力をつける。25年から27年に軸足をEVに移せるように開発を進める。

EV専用の新プラットフォームについて明言は避けているが、ラインナップ展開をするにはMX-30 EVのプラットフォームでは不安が残る。事実、地元広島の協力会社やサプライヤーとともに新型eアクスルの開発を進めている。スケーラブルアーキテクチャの利点を生かし、MX-30 EVのプラットフォームをうまく進化させてくると思われる。

中国勢のスピード感に比して遅さが指摘される日本製造業だが、シェア2%戦略が適用できるマツダにとっては合理性のある時間軸といえるだろう。

■マルチソリューションの死角は?

マツダにとって十分に練られた戦略ではあるが、市場全体でみたときに懸念や課題がないわけではない。

まず上記の全体像では、北米、日本での市場戦略として有効と思われるが、中国やアジアなど今後EV含めた成長市場への展開が見えない。もともとマツダ車が強い市場ではないので無視するという選択肢もなくはない。だが営利企業としては拡大市場にどう対応するかは常に考えておくべき事項だろう。

関連して欧州市場も気になる。マツダの足は欧州市場でも評価が高く現地にファンも多い。ディーゼルやHVを含む内燃機関禁止を崩していない欧州市場に、HV、PHEVを足掛かりにEV化を進めるマツダにとって、戦略が適合しない市場だ。欧米ではEVシフトの過渡期としてPHEVの動きがいい。マツダの米国ディーラーではCX-90 PHEVがヒット商品になっているそうだ。

マクロ経済の視点では、為替と貿易の課題がある。これはマツダに限った話ではなくなるが、経済安全保障問題やロシア、イスラエル(場合によっては中国も)を筆頭とする各国の戦争・紛争による経済への影響、エネルギー危機は、各国に保護貿易政策をとらせている。バッテリーや車両など自国工場や生産、調達比率への規制圧力が高まっている。

現状、欧米、アジアともに輸出に大きな障壁はないので円安メリットを享受しているが、地産地消政策が進むにつれて現地工場や現地拠点の存在が重要となる。マツダは国内地場産業を重視して、工場の海外展開は他のOEMに比べて消極的だった。現在トヨタ合弁の北米工場で備えているが、状況によっては広島の協力企業を含めた、現地拠点展開、現地工場を考える必要がでてくるかもしれない。

マツダはコンパクトカー市場からも撤退しようとしている。『マツダ2』欧州仕様はトヨタのOEM供給を受けるようになった。もともと小型車は数は見込めるが利益がでにくいものとして、MINIやスマートのように多くの欧州OEMが、コンパクトカー製造部門を切り離したり、中国企業への生産委託に切り替えている。

電動化シフトのためCセグメント以下を捨てるという戦略はありだが、欧米でプレミアムクラスで勝負するには、品質を維持したうえで価格か、個性的な性能など、マツダならではのポイントが必要となる。ロータリーエンジンのPHEVはそのひとつの解だが、EVでマツダらしさをどう出してくるか。課題ではあるが、楽しみでもある。

《中尾真二》

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