2022年の新車販売台数で日本を抜いて世界3位となったインド。高速道路網の規模はアメリカに次ぐ世界2位。人口の面でも今年半ばに中国を抜いて世界1位になるとされている。
急速に発展するインドの自動車や交通インフラの事情を伝えてきた連載「ベンガルール通信」も「インド・新自動車大国の素顔」にリニューアル。インドと自動車ビジネスに詳しい大和倫之氏がインド市場の最新情報をお届けする。
◆強化された排ガス規制「BS6」の実態
日本と同じく4月から新年度が始まるインド。桜が咲き風も温む心地よい季節に新たなスタートとなる日本と異なり、インドはこの時期、概ねどこも最も暑い季節となる。
新年度を機に、欧州のユーロ6と同等のインド排ガス規制である「BS6(Bharat Stage 6)」 が更に一段と強化された。
2020年6月にユーロ4相当のBS4から一段飛ばしでBS6が導入された際には、対策済み車両の価格上昇に伴って自動車市場全体が大きく冷え込んだ。OEM各社は、小型ディーゼルエンジンの廃止、CNG(圧縮天然ガス)エンジンモデルの追加などを含めて排出総量規制への対応を迫られた。
その一方で、新興OEMが主導するEVにとっては返って大きな後押しとなった。当地でEVシフトが始まる契機となり、結果として2021年が「インドEV元年」となった。
今回4月に強化・導入された “Bharat Stage 6 Phase 2” でアップデートされた主なポイントは “RDE” の導入にある。Real Driving Emission、すなわち、より実際の運転環境に近い基準での計測が求められることになり、ユーロ6をベースとしたBS6(Phase 1) に比べ、よりインドの実態に即した基準となる。
全車種に求められるこの新基準に対応するには、現行のエンジンや排ガス処理装置のもう一段のアップグレードに加えて、運転者の動作や交通状況の変化などをリアルタイムで監視するオンボード自己診断装置の取り付けが求められるという。
◆根強い人気のディーゼルエンジン車はどうなる
この新基準により規制対象となるディーゼルエンジンについては、既に欧州や日本でも一般的なAdBlue(※1)対応化がひとつの解決策となるが、ユーザーに追加の手間やコストを強いる分、市場に受け入れられるには一定の時間を要するに違いない。
特にタクシー用途として燃費の良さやランニングコストの安さが支持され根強い人気があったディーゼルエンジン搭載の小型乗用車も、今回のPhase 2適用下ではモデル廃止を免れない。長距離タクシーや駐在員家族にも御用達のトヨタの売れ筋ミニバンは、ガソリン・ハイブリッドエンジン搭載の新型にフルモデルチェンジされる傍ら、旧型モデルもディーゼルエンジン、5速マニュアルトランスミッション仕様に限ってE20(エタノール配合燃料)対応化を図った上で当面の販売を継続するという。