【MaaS体験記】未来の共助・共創コミュニティの推進…富山県朝日町・博報堂の社会実装の開始

デジタル田園都市国家構想の社会実装開始~朝日町と博報堂が構想するみんなで未来!な町づくり~。左から、博報堂執行役員の青木雅人氏、朝日町笹原靖直町長、デジタル庁統括官付参事官の吉田恭子氏
  • デジタル田園都市国家構想の社会実装開始~朝日町と博報堂が構想するみんなで未来!な町づくり~。左から、博報堂執行役員の青木雅人氏、朝日町笹原靖直町長、デジタル庁統括官付参事官の吉田恭子氏
  • こどもノッカルあさひまち実証運行開始セレモニー。左から、朝日町の笹原靖直町長、デジタル庁統括官付参事官の吉田恭子氏、博報堂執行役員の青木雅人氏、有限会社あさひふるさと創造社代表取締役の竹内文寿氏、国土交通省北陸信越運輸局の小椋康裕次長
  • 朝日町の次世代パブリック・マネジメント・アドバイザー、博報堂MDコンサルティング局の畠山洋平局長代理(中央)
  • 共教育を実践している「さみさと小学校」での授業風景
  • 社会人にオンラインで説明をしている小学生
  • 実際にプールに通っている小学生(左端と中央)
  • 「らくち~の」でのスイミングスクールの子供送迎風景
  • こどもノッカルの車両

今回の取材は、2022年春にも訪れた富山県朝日町と博報堂の取り組みだ。

国が推し進めるデジタル田園都市国家構想(デジ田構想)の主要事業として、両者が取り組む「デジタルを活用した、みんなで創る共助・共創サービス」の社会実装が開始する。地域交通・地域活性につづき、地域教育についての説明会ならびに「こどもノッカルあさひまち」の出発式に参加した。

◆朝日町と博報堂の取り組み

富山県朝日町と博報堂との取り組みは2019年頃から開始している。2020年にマイカー乗り合い公共交通サービス「ノッカルあさひまち」で連携し、翌2021年には本格運用を開始。同年、両者はDX協定を締結し、2022年4月には官民連携で新部署「みんなで未来!課」を設置した。

両者は、朝日町の重要な課題テーマである「地域交通」「地域活性」を中心に、DXによる地域コミュニティと自治体サービスの再構築に取り組み、このたび「地域教育」として子供から大人までが学び合う・助けあう共教育プログラム「みんまなび」や「こどもノッカルあさひまち」を開始する。

この両者の取り組み「デジタルを活用した、みんなで創る共助・共創サービスの実現」は、「令和3年度デジタル田園都市国家構想推進交付金事業」のデジタルを活用したサービスの早期の社会実装が期待される「Type3」として、全国6自治体のうちの1つに採択されている。

◆デジタル田園都市国家構想の社会実装を開始

朝日町役場での説明会は、報道関係者も多く会場の後ろの方には複数台のカメラが並んでいた。

はじめに、朝日町の笹原靖直町長から博報堂との取り組みと社会実装に至った経緯が紹介され、博報堂から常務執行役員の名倉健司氏と同社執行役員の青木雅人氏から博報堂グループとしての関わり方について話しがあった。また、デジタル庁統括官付参事官の吉田恭子氏は、デジタル田園都市国家構想に対して「誰一人取り残されないデジタル化」を掲げ「画一的なものではなく、人々の生活に根付いたデジタルで、より多くの地域に展開していきたい」と期待を寄せた。

具体的な取り組みについては、朝日町「みんなで未来!課」の住吉嘉人課長から説明があり、DX専門人材を外部から採用していることなどにも触れ、デジ田構想の取り組みに官民連携して取り組んでいると語った。内閣府の黒瀬敏文大臣官房審議官は「10年後も関心を持ってもらえるように」と話し、当日の盛況ぶりを今後も継続していくことの重要性を訴えた。

こどもノッカルあさひまち実証運行開始セレモニー。左から、朝日町の笹原靖直町長、デジタル庁統括官付参事官の吉田恭子氏、博報堂執行役員の青木雅人氏、有限会社あさひふるさと創造社代表取締役の竹内文寿氏、国土交通省北陸信越運輸局の小椋康裕次長こどもノッカルあさひまち実証運行開始セレモニー。左から、朝日町の笹原靖直町長、デジタル庁統括官付参事官の吉田恭子氏、博報堂執行役員の青木雅人氏、有限会社あさひふるさと創造社代表取締役の竹内文寿氏、国土交通省北陸信越運輸局の小椋康裕次長

◆地域交通・地域活性、そして地域教育

朝日町の次世代パブリック・マネジメント・アドバイザーであり博報堂MDコンサルティング局の畠山洋平局長代理からは、これまでの取り組みを背景にした「お互いさまの精神」で共助の先駆的な取り組みであることを強調し、「世界で一番みんなで未来」な町を推し進めていると話した。

社会実装の具体的なサービスについては、博報堂の堀内悠氏から、地元アセット(マイカーや人)を徹底活用することを前提にデジタルの仕組みを博報堂が担当していることを説明。地域コミュニティを核にした共助・共創型サービスとして、地域交通に「ノッカルあさひまち」、地域活性ではポイントプログラム「ポHUNT」を例に、現在取り組み始めた安全運転を支援するイベント「グッドラチャレンジ」を紹介し、参加者マイカーの移動データを分析して町内の安全運転を推進する。さらに、町内のお互いさま精神をもとに困りごとを相談できる「もちもたネット」や、大人と子供がお互いに学び合う地域教育プログラム「みんまなび」について紹介があった。

これらの取り組みは、朝日町の未来の取り組みとして紹介動画にまとめられている。

朝日町の次世代パブリック・マネジメント・アドバイザー、博報堂MDコンサルティング局の畠山洋平局長代理(中央)朝日町の次世代パブリック・マネジメント・アドバイザー、博報堂MDコンサルティング局の畠山洋平局長代理(中央)

◆朝日町型未来創造DXプロジェクトの現場

共教育を実践しているさみさと小学校を訪問した。一人一台ノートパソコンとヘッドフォンを準備した30名程度の小学生がアクティブ・ラーニング室で授業を受けていた。となり町の「あさひの小学校」ともオンラインでつながっている状態での授業だ。

授業の冒頭から「企画」「改善」「ブラッシュアップ」「プレゼン」とビジネスシーンでは聞き慣れた言葉が飛び交う説明に驚いた。5、6名でグループに分かれて、朝日町の困った人を考えどのようにしたらよくなるかまでを議論してきたと言う。この日は、オンラインで社会人(博報堂の社員)とディスカッションを行い、企画内容をブラッシュアップすると言う。

共教育を実践している「さみさと小学校」での授業風景共教育を実践している「さみさと小学校」での授業風景

校内別室で実施されていた朝日町総合教育会議では、博報堂の兎洞武揚氏が「朝日町型未来創造DXプロジェクト」の考え方を伝えるとともに、学校内での探究型総合学習に加え、学校外で社会人と学び合う「みんまなび」を紹介。「地方では不利と言われるデジタルの限界を超えていく」と力強く説明した。この考えのもと、この日の授業では社会人との対話を通じて、朝日町の困りごとを発見して解決する取り組みだと言う。

小学生たちは、どのような困りごとを見つけ、どのように解決していくのか。実際に見学したところ「おばあちゃん」や「病気に困っている人」、また「イオンがほしい人」などさまざまであった。ここから解決方法を議論していくわけだが、記入した付箋を見ると「ボランティアが必要」などがあり、具体的なサービスイメージまで描いている。そのうえで、社会人と対話した結果「近い人が会いに行く」といったような発表があった。

直線的に考えがちな小学生と社会人が対話することで、実像に近い部分で困っている人を思い浮かべ、すぐに取りかかれそうな方法を模索する姿は、ビジネスのそれと同じことをしているように感じた。この授業を通じて、探求型総合学習の実践を目の当たりすることができた。地元の小学生たちが考えた課題解決サービスが、社会実装される日がすぐそこまで来ているように感じた。

社会人にオンラインで説明をしている小学生社会人にオンラインで説明をしている小学生

◆習い事送迎「こどもノッカルあさひまち」の出発式

夕刻、地元のスイミングスクールがある「らくち~の」で出発式は行われた。

関係者でのテープカットが行われ、朝日町の笹原靖直町長、博報堂執行役員の青木雅人氏、あさひふるさと創造社代表取締役の竹内文寿氏、デジタル庁統括官付参事官の吉田恭子氏、国土交通省北陸信越運輸局の小椋康裕次長らが挨拶。次いで、実際にプールに通っている小学生らも取材に応じ「いつもはママと一緒だけど、お友達と一緒に行けてうれしい」と率直な感想を述べた。

実際にプールに通っている小学生(左端と中央)実際にプールに通っている小学生(左端と中央)

2021年10月から本格運用している「ノッカルあさひまち」は、これまで町内のべ2400人の利用があり、地域の公共交通として根付いている。今回その実績と共助・共創の考え方を背景に、地域の子育てや教育環境を充実する目的で、子供を対象にした習い事送迎に拡張する。

「こどもノッカルあさひまち」の取り組みは、国土交通省の共創モデル実証プロジェクトの地域交通を共に創り出す新たなモデル事業として採択され、朝日町MaaS実証実験推進協議会により実証実験を行うに至った。今回、共創パートナーである「らくち~の」のスイミングスクールにおいて、LINEを活用して「送迎してほしい人」と「送迎できる人」のマッチングを行い、共助送迎で解決しようとする取り組みだ。

「この実証実験を通して、若い世代にも公共交通への興味関心を持ってもらうと同時に、助け合いにより習い事送迎の有効性を検証していきたい」と笹原町長は意気込みを話した。

「らくち~の」でのスイミングスクールの子供送迎風景「らくち~の」でのスイミングスクールの子供送迎風景

◆未来の共助・共創コミュニティ

「共助」や「共創」という言葉を何度も耳にした今回の取材は、行政だけが言っているのではなく、博報堂をはじめ関係者みんなが口にしていたように思う。正直、行政だけが使う体の良い言葉として思っていただけに、ここまでみんな揃って言葉にしている状況に感心した。それほどまでに朝日町と博報堂は、本気で未来の地域コミュニティを構想している。

デジタル田園都市国家構想の事業では、6自治体のうちの1つとして採択されたと説明があったが、デジタル庁や内閣府、また国交省の方々の言葉の端々に本件への期待をにじませている。マイナンバーカードの取得一つとっても同じだ。朝日町では一軒一軒訪問し、役場に来なくてもいいように手続きを進めていると言う。

朝日町と博報堂が描くデジ田構想の取り組みは、朝日町に閉じるものではなく、ほかの地域にも展開していく予定があると言う。この記事を執筆中に、富山県高岡市中田地区にて、マイカー乗り合い公共交通サービス「ノッカル中田」の実証実験を11月8日より開始すると発表があった。来年、再来年とこの共助・共創コミュニティの輪がどんどん広がっていくことを期待する。

■3つ星評価
エリアの大きさ★☆☆
サービスの浸透★★☆
利用者の評価★★★
事業者の関わり★★★
将来性★★★


坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室室長
グラフィックデザイナー出身。

2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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