軽EVの価値が注目され、ホンダが商用車軽EVの市場投入を発表した。48V系のマイルドハイブリッドは過去のものになりつつあるが、低電圧ソリューションがなくなるわけではない。グローバルサプライヤーであるヴァレオは、電動化シフトに低電圧ソリューションも展開する企業だ。
◆48Vソリューションは次世代モビリティに有効

ヴァレオは「MOVE UP」戦略のもとCASE車両のハード、ソフトともにビジネスを強化している企業だ。いち早くLiDARを市販車(メルセデス、ホンダ)に展開し、同社の高電圧e-Axle「eDrive」は、メルセデス『EQS』の前後軸のパワートレインに採用されている。ステランティスのDS 「E-TENSE」フォルクスワーゲンの『ID3』『ID4』にはバッテリークーラーやヒートポンプ、高電圧のインバーター(ID3、ID4)といった電動車のコアコンポーネントのソリューションにも強い。
数年前の欧州では、48Vマイルドハイブリッドが環境車のソリューションとして注目されたが、環境規制が強化される方向ではCO2排出規定のクリアが困難とされている。国内では軽自動車を中心に少ないコストと既存コンポーネントの流用がしやすいマイルドハイブリッドが注目されたが、バッテリー技術の向上とともに軽EVの実用性や経済性が認められるようになった。ストロングハイブリッドがサイズ的に困難な軽自動車を電動化するならBEVが素直である。
このような状況にも拘わらず、ヴァレオが低電圧ソリューションにも注力するのは理由がある。一般的な乗用車や日本の軽自動車を含む商用車に低電圧ソリューションはあまり合理的な選択肢ではないが、マイクロモビリティや電動バイク、電動アシスト自転車、ラストマイルのデリバリーロボット、AGV、特殊用途の小型EV(ドロイドEV)にとっては、48Vソリューションは有効だからだ。
日本でも超小型モビリティや電動キックボードなど、マイクロモビリティやパーソナルモビリティの法整備が進み、市場が動き始めている。欧州でも超小型モビリティー規格の「L6」「L7」という小型モビリティが都市部のラストマイル輸送、デリバリー、シティコミューターとして注目されている。また、欧州ではオランダとドイツ都市部を中心に自転車の利用が増えている。その多くが電動アシスト付きだ。子供を3人乗せられるカーゴ付きの電動アシスト自転車や貨物用電動アシスト自転車などバリエーションも豊富にある。
◆低電圧技術を搭載した48VライトeシティカーとEV軽トラックを用意

先日、ヴァレオジャパンは一部のメディア向けに2つの低電圧技術を公開した。ひとつは48Vのスターターモーターを駆動用モーターと回生用のジェネレーターに利用した48VeAccessを搭載したもの。このモジュールには減速機やインバーター、12VのためのDC/DCコンバーターなどがオールインワンで組み込まれている。デモカーにはこのシステムを組み込んだシトロエン『アミ』が『48Vライトeシティカー』として用意された。
アミは本国ではL6に分類される小型モビリティで最高速度は45km/hに制限されているが、デモカーは90km/hまで加速することができる。モーター出力は6kWから10.5kWまで出せるように制御を変えた。速度を高速側に振るため、ギアの減速比を15.6から11.4に変更している。バッテリーは48Vのリチウムイオンバッテリー。オリジナルのアミが5.36kWhの容量のところ、48Vライトeシティカーでは8.64kWhに増えている。
もう1台は群馬大学CRANTSと共同開発したスズキ『キャリィ』をベースとしたEV軽トラックだ。こちらは48VeAccessとは別の48VeAxleのユニットを前後に2つ搭載した4WDになっている。モーターは最大出力15kWのジェネレーターをそのまま使う。これにヴァレオのeDriveシステムを合体させている。
◆高低差のあるコースでも安定感のある走り

2台ともカート用のサーキットで試乗する機会を得た。アミベースの48Vライトeシティカーは小さいながら非常にトルクフルな走りだ。高低差のあるコースだが、上り坂でアクセルの反応がもたつくことはない。上りにもかかわらず40~50km/hまでリニアに加速するし、アクセルオフで回生ブレーキが程よく効くので安心感もある。試乗コースならおそらくブレーキ操作は必要ない。
EV軽トラはボディサイズが大きくなるため、より安定感がある。市販されている軽EVと比較してしまうと、もっとパワーがあってもよいと思ったが、配達や工場内の足など用途が限定されていれば問題ないだろう。ただし、こちらは回生ブレーキの制御がアクセルオフではなく、フットブレーキの操作が必要だ。アクセルからブレーキの踏みかえの瞬間の空走感は知っていないとちょっと気になるかもしれない。
2台とも遮音対策が十分ではないので、走行音はそれなりに気になる。インバーターの音やギアの音がかなり車内に入ってくる。しかし、走行している車両を外からみていると、それほど騒音が気にならない。人が乗らなければ遮音の優先度は下げても問題なさそうだ。なお、EV軽トラックはベースが市販車両のため、内装は市販車レベルといってよい。ヴァレオカラーの白と緑でコーディネートされたインパネ、コンソールの作りこみはプロトタイプカーではなく、Tier1サプライヤーのデモカーである。
48V系のソリューションは、配線やジャンクションボックス、ブレーカーシステムなど高圧系のモジュール、コンポーネントが必要ない。この手軽さ低コストが魅力のひとつだ。たとえば、48Vライトeシティカーの充電はボディから直接ACプラグがでている。まさに家電感覚で家庭用の100Vコンセントにつないで充電できる。ヴァレオは今後の車両ビジネスの主力は高電圧系ソリューションだとしながらも、用途に合わせた低電圧系ソリューションを提供していく方針だ。