【ダイハツ ムーヴキャンバス】変わらないとやり過ぎのはざまで…デザイナー[インタビュー]

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2代目となったダイハツムーヴキャンバス』。そのデザインは先代のキーとなる3つを踏襲したものだ。ではそれは何か。また、そもそもどういうコンセプトなのかをデザイナーに話を聞いた。

◆先代ヒットで開発に勢い

「先代はその当時のダイハツ車の良いところを使いながら、可能な限りお求めやすいクルマにしたいという思いで作りました」と振り返るのは、ダイハツデザイン部第1デザインクリエイト室課長の芝垣登志男さんだ。

ただし、「やりきれなかったところともあったんです」というが、「幸いお客様に評価していただいて台数がしっかり出たことで、できなかったことに踏み込めました」と語る。さらにプラットフォームが刷新しDNGAを採用したこともあり、「骨格から磨いていこうと最初から思っていました」と話す。

ダイハツデザイン部第1デザインクリエイト室課長の芝垣登志男さんダイハツデザイン部第1デザインクリエイト室課長の芝垣登志男さん

しかし企画サイドからは「ツートーンが好評だということも含めて(ムーヴキャンバスのイメージを)変えないでほしいというニーズがありました。そうはいってもせっかくプラットフォームが刷新されるのであれば、デザインでも(そのプラットフォームの)良いところを伝えたいと骨格を磨きつつ、様々な絵を描いていったのですが、最終的には先代を踏まえ時代進化分を織り込んだものを作りました」とのことだった。

まずデザイン開発にあたりデザイン調査が行われた。そのターゲットは女性だ。「ダイハツの場合、女性ユーザーが多いのです。ただ、我々は男性なので女性のことを実は知らないんですね。ですからこれまでも女性の気持ち(価値観)を想像して作ってきたのですが、そこをもっと掘り下げるべきではないかと、コロナ禍のため社内で調査しました。101人に聞きましたではないですが相当な数です」。

そこで気付いた点について芝垣さんは、「女性にとってクルマは、自分が扱いきれることでかつ、特に身の丈サイズが1番重要、背伸びしなくていいことでした。つまり私でも運転できそうという感覚がすごく大事だったのです」。同時に困ることとしては、「運転が苦手で、視界がすごくひらけていないと怖いという意見があり、運転に対しての安心感も大事だと気づきました。さらに、自分の手の届く範囲にいろんなものを置きたいというニーズがあることもわかりました」。これがインテリアを大幅に変更した大きな理由のひとつだった。

◆スッキリ洗練

今回価値観を掘り下げることも大きな目的として調査が行われたが、先代の発売から6年が経過していることから、そのターゲットも“ゆとり世代”から“さとり世代”に変化していた。しかし、芝垣さんたちは何が違うのかよくわからなかったそうだ。そこでこの調査を通じてその差異や意識をしっかりと見据えたうえで行きついたのが、「ぶりぶりの可愛いというのではなく、ちょっとスッキリとスポーティーな感じ、“スッキリ洗練”に行き着いたんです。いまは、女性も男性も垣根のない、中性的なデザインが求められてることが分かりましたので、そこからデザインをスタートさせました」と述べる。

さて、ターゲットユーザーが好きなクルマを探す場合、「多くは街中で見てと思っていました。しかし皆さんSNSなどで探すそうで、これまで考えていたのとは全くアプローチが違いました。そこで印象に残るアイコンを持っていないと、これはダメだなと」。

また、「ムーヴキャンバスのツートーンが映えるというのは聞いていたのですが、それを含めてムーヴキャンバスのポイントはどこだろうと検討し見つけたのが次の3つです。まず前後に抜けた長く見えるキャビン。ちょっとニコッとした幸せそうな顔。いわゆるアルカイックスマイル、ちょっと幸せそうに笑っているような顔ですね。そして特徴的なツートーンの塗り分け。この3つが不可欠だということで、これだけは守ろう。そしてそれ以外はもう全部変えようと進めました」と開発当初の気持ちを語る。

そしていくつかの案が浮かび上がってきた。「初期はこのぐらい大きく変えてもいいんじゃないかという可愛い案からウキウキ案までたくさんあったんです。ツートーンや、ちょっと笑っているというイメージを入れながら、その結果としてスッキリに落ち着きました」という。「もともと先代が可愛すぎるといわれたのをブラッシュアップしていくので、可愛い方向ではなく、また過激(ウキウキ方向)ではない。そこからもう少し要素を減らしていくことで好感が持てるだろうという話になりました」。

ここからダイハツでエクステリアデザインを確定に向けていくつかのステップを踏んでいくのだが、ムーヴキャンバスのデザイン案は何度も落ちてしまったという。「女性に聞いたらダメだっていわれました」と芝垣さん。まず初めは、「全然変わらない、どこが違うのか」。

そこから、「時代進化分を再度取り込み、スッキリ洗練を極め、さらに表情も少し可愛すぎるのを補正するために、ちょっとだけ眉毛がついたような意匠にしたら、顔が怖いといわれてしまったのです。我々は可愛いと思って提案したのですが、怖すぎてもういらない、これキャンバスじゃないといわれるくらい拒否されてしまいました」。そこで、ディーラーにもヒヤリングしたという。「可愛いというイメージを持つ市場唯一のクルマなのに、それがなくなってしまったといわれ、ここからいくつかの試行錯誤を繰り返しながら最終案を作り上げました。ドア断面もスッキリさせて余分なもの取りました。そして提案できたのがスッキリ洗練された可愛さのストライプと、上質な質感と大人の落ち着きのあるセオリーです」と説明。

なぜこの2つのバリエーションができたのか。芝垣さんは、「先代もモノトーンは選べたのですが、廉価版のように見られており、しっかりと個性を提供できていなかったんです。そこでしっかりとモノトーン生かした装備があるのではないかと、内装の変化も踏まえてデザインしたのがセオリーなのです」と述べた。

ダイハツ・ムーヴキャンバス・セオリーダイハツ・ムーヴキャンバス・セオリー

◆ダッシュのトレイに工夫

ムーヴキャンバスのインテリアは、「スッキリ優しく、お気に入りの部屋にいるようなくつろげる場所にしたいと考えました。開発時にコロナ禍になってしまい、車内で過ごすことがかなり珍重されるようになってきたこともあり、そこに応えられるような特別な機能があるのではないかとずっと考えていました。そのひとつが先程の意見にもありました通り、運転席周りにモノを置けるようにしようということです。そういったことも踏まえながら最終的に3つ提案しました」。

デザインスケッチを見る限り、「ほぼ僅差で、外観に合わせてちょっとずつ調整されています」と芝垣さん。ただ共通しているのは、「トレイ、テーブルみたいなものがあることで、、すごく使い勝手が良いのではないかとインパネ周りにレイアウトしました。実はダイハツはこれまでインパネ周りにテーブルのようなものを置いたことなかったんです。しかし今回は、止まっている時にしっかり使ってもらえるようにトライしようと会社を説得して配置することができました」と述べ、同時にこのトレイが苦労したことのひとつだとも。

「(トレイが)小さいものですとやはり使い勝手が悪いので、実際に物を置いて検証しました。我々が想定したのはファーストフードの少し大きなハンバーガーやMサイズくらいのカップはしっかり置けるように場所取りをしています。またインパネの前後方向(奥行)もいままでにないくらいです。骨格まで手を入れるなど苦労しながらこのトレイを実現しました」と語る。

ダイハツ・ムーヴキャンバス新型ダイハツ・ムーヴキャンバス新型

もうひとつのこだわりは2種類のシートだ。「(ストライプスは)木感のあるシートソファーと呼んでいますが、ざっくりとした印象のものが女性に好まれるという結果もありまして、今回採用しています。落ち着きしっとりのセオリーでは、トーンオントーンで上質な、微妙な差異なんですけれど、そこが大人びて見えるように、しっかりと色付きで採用しています」とし、差別化を図ることでユーザー層を明確に分けたいという思いを語った。

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《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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