トヨタが紙カタログを廃止する理由とは…トヨタ・コニック・アルファ 松平信人氏[インタビュー]

トヨタが紙カタログを廃止する理由とは…トヨタ・コニック・アルファ 松平信人氏[インタビュー]
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トヨタが紙カタログを廃止し、スマートカタログに置き換えるのは、環境問題やSDGsにとどまらず、動画やデータを活用し、お客様に最高の購入体験をお届けするためだという。スマートカタログの導入を進めるトヨタ・コニック・アルファ株式会社 DX事業開発部部長の松平信人氏に聞いた。

松平氏は、6月24日に開催予定の無料オンラインセミナー 「自動車ディーラーのデジタル活用~トヨタ系販売店の事例最前線~」に登壇しこの内容について詳説する予定だ。

紙のカタログをそのままPDFにしたのではない

---:カタログをデジタル化するということで、ディーラーと言えば紙のカタログというイメージがありますが、反対意見はなかったのでしょうか。

松平信人氏(以下敬称略):はじめは、私自身もスマートカタログがお客様に受け入れられるか半信半疑でした。例えば安全機能の詳細が知りたいならば、紙のカタログにも、小さい文字ではありますが詳細に説明が書かれていますし、QRコードがついていて、それを読み取れば動画が流れるような仕組みになっています。それと何が違うのだろうと思っていました。

ですがスマートカタログを実際に使っていただくと、お客様からは「動画の説明がとても分かりやすい」、シニアの方からは「小さい文字をピンチアウトして大きくできるので見やすい」、「タッチペンで書き込んで説明してくれるのでどこが大事かわかりやすい」、「LINEやAirDropで資料を共有してくれるのが便利」といった声が多く聞かれました。スマートカタログは、写真やイラストの中にYouTubeのようなマークが埋め込まれているのですが、それをタップするだけで、1クリックで動画が動き出すのでとても簡単なのです。今思えば、こういう体験こそがUXなのだろうと思いました。

---:紙をそのままPDFにしただけではないのですね。

松平:そうですね。スマートカタログのコンセプトは、販売店のスタッフが持っている商談のサポートツールでもあり、お客様にとっては、いつでも・どこでも見られるツール、この2つを両立することです。そういう意味では「スマートカタログとは、紙カタログを始めとした制約のある環境から、デバイス環境に捉われず、お客様が欲しい情報を、欲しいタイミングに、欲しいだけ提供する、クルマの選定から購入・納車までの総合サポートツール」だと思っております。

おクルマをご用命のお客様は、まずはご自宅で、車両・用品情報をWEBで見てこられるのですが、そこではご自身のクルマ生活が豊かになりそう、こんなクルマに乗りたいと、と思っていただけるような情報などを出していきたいと思っております。

そしておクルマのイメージが固まってくると、もっと知りたいことが出てくるでしょうから、事前に質問を店頭に送信いただくなどして、ご来店時にはスマートカタログをプレゼンサポートツールとして活用し、お客様の興味に沿ってクルマのご紹介をしたり、動画やカメラを活用してより詳しく説明したりすることができます。

クルマは安い買い物ではありませんから、その場で即決できるとは限りません。メールやLINE、SNSなど、お客様の好きな方法で、ご説明した内容を送付させていただいて、ご自宅でもう一度考えていただく。そいうやり取りを通じて、クルマって楽しいな、早く乗りたいなと思っていただくことが狙いです。

---:スマートフォンで、欲しい情報をいつでも見られるのは便利ですね。

現場のニーズに合わせてカタログを変えていく

松平:これまでは、メーカー側でクルマの訴求要素を決めて最初に紙カタログを作っていました。その内容をWEBに載せたり、現場ツールに反映するという流れでした。ですが必ずしも、作り手の想いとお客様の知りたいことが同じとは限りません。それであれば、現場で望まれていることをコンテンツ化し、それを発信したいと思うようになりました。

例えば、エンジンのスペックが気になっている人よりも、「私のゴルフバッグは大きいけれど、このトランクに入るのかな」ということを気にしている人がいます。それならば、それもコンテンツにした方がいい、ということです。

トヨタの昔からの考え方に「鳥そぼろ弁当」の事例があります。例えば、11時に幕の内弁当が7つ、鳥そぼろ弁当が3つありました。12時にまず鳥そぼろ弁当がなくなり、13時には全部売り切れました。販売実績では7対3で幕の内弁当が売れた、ということですが、果たしてお客様が本当に欲しかったのは幕ノ内弁当なのでしょうか。もしかしたら、鳥そぼろ弁当だったのかもしれない。その例え話のように、リアルな商談の場でニーズを捉え、コンテンツ制作に活かしていく、言い換えれば、コンテンツの開発場所をデスクからリアルな場所に移すことを考えました。

---:なるほど。言われてみれば確かにその通りですね。

松平:一方で、店頭のタブレットのコンテンツは、テレビ画面やサイネージのような大画面にも投影できますし、カメラも付いていますので、ZOOMなどに流しながら遠隔のお客様と一緒に話すこともできます。また将来的には、トランクの広さをAR技術を活用して説明できるようにもなると思います。

それと並行して、コンテンツ制作のDXも進めています。基本素材をCG化し、その素材を管理するデータアセットマネジメントシステム、いろいろな媒体に配信できるコンテンツマネジメントシステムを開発・整備することで、スタッフのタブレットに最適なコンテンツを出していくことができます。将来的には、お客様のスマートフォンにも直接投影できるようにしていきます。

まずは店頭のスタッフから始めるのですが、お客様が望まれれば、新車の商談時にはおクルマの情報を、保有時には、例えば梅雨の時期には撥水コートがいいですよ、というご提案をすることもできるような仕組みになっています。

さらに、例えば安全機能のコンテンツが長い時間見られている、というデータがあれば、コンテンツをよりリッチにしたり、あるいは、カタログの中での訴求面積や順序を変えていくことができるようになります。まさに、カタログ制作自体が、ゴールからスタートに変わるのです。

買った後の納車コンテンツとは

---:なるほど。ではスマートカタログにはどのような機能が具体的にはあるのでしょうか。

松平:スマートカタログは、お客様の期待を超える購入体験を実現することが最大の狙いですが、同時に、販売店スタッフの皆さまにとっても、DXへの第一歩、データドリブンな活動へ踏み出すことへと繋がります。

まずカタログ内の車両情報が自動更新されます。ですので、紙カタログの差替えや廃棄といった手間がなくなります。

次に、目次リンク機能がありますので、説明したいページに簡単に飛ぶこともできます。例えば、安全機能が知りたい方には、そこからご説明することができます。

そして動画をフル活用した説明ができます。動画ボタンを押すと、これまで口頭だけでは説明しづらかった安全機能などをとても分かりやすく説明することができます。さらに、重点的にお伝えしたいことは、ペンシルで強調したり、ポイントを書き込むこともできます。

また、納車コンテンツも追加開発しております。例えばプリクラッシュセーフティの機能について、「どうやって使うの?」「どのボタンを押すの?」という声に対し、分厚い取扱説明書を調べなくても、使い方を映像にしたり、イラストにしたりしております。納車時の説明だけでなく、事前にお送りすることで、納車までの間を楽しんでいただくこともできます。

---:クルマも機能がどんどん増えてますから、乗り始める前に映像で予習できるのは良いですね。

松平:迷われている場合は、比較したいおクルマ2車種をわかりやすく並べる機能や、おクルマのグレード・オプションを選ぶと価格がシミュレーションできる機能もあります。

これまでの見積り機能は、車種、グレードの順に決めていかないとオプションが選べなかったのですが、お客様によって何を大事にされるかは異なります。例えば、本革シートが欲しいけど、Gグレードは高いからもう一つ下のグレードにして本革シートを選びたい。そういうご要望にも対応しやすい機能にしております。

---:それはすごくよく分かります!まず先にどのオプションをつけるかを考えますよね。グレードを先に決めるのではなく。

スマートカタログを起点にDXを実現する

---:カタログをデジタル化する、という一言では済まされない、奥が深い話ですね。

松平:そうですね。スマートカタログは、購入体験をサポートするツールとして提供していきますが、実際は、ここからスタートして、OMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)を推進するDXビジネスプラットフォームに繋げていきたいと思っています。

スマートカタログという媒体を通じて、クルマの購入のみならず、メンテナンスサービスや充電サービスなどについてもお客様の声をいただいて、それをベースに現状のサービスを改善したり、新たなサービス開発をしたり、コンテンツを作り替えたりしながら、お客様の購入・保有体験をサポートしていきたいと思っています。

また、店頭での体験をより豊かにするためにも、今後2年程度で次世代ネットワークの整備を進めたり、その時々に最適なスマートデバイスを提供していくことも検討しております。こういうDXのその先に、地域のコミュニティの活性化にも繋げられればと思っています。

---:スマートカタログから始まって、クルマの販売や、お客様との関係構築のところまで、幅広くDX化する壮大な構想だったのですね。

松平:そうですね。DXの全体像を見据えながら開発を進めております。トヨタコニックは「データで、ありがとうをつくる仕事」をミッションとしている会社です。まずはこの夏にスマートカタログをサービススタートさせますが、今後もスコープを拡大しながら進化を遂げていきたいと思います。

無料のオンラインセミナー「自動車ディーラーのデジタル活用~トヨタ系販売店の事例最前線~」は6月24日開催予定。詳細は こちらから。
《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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