「移動の常識を疑う」 格差解消へ向けたインスピレーションとは…ジオテクノロジーズとウィラーの代表が語る

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ジオテクノロジーズ 杉原博茂 代表取締役社長 CEO(右)とウィラー 村瀬茂高 代表取締役(左)
  • ジオテクノロジーズ 杉原博茂 代表取締役社長 CEO(右)とウィラー 村瀬茂高 代表取締役(左)
  • ジオテクノロジーズ 杉原博茂 代表取締役社長 CEO
  • ウィラー 村瀬茂高 代表取締役
  • ジオテクノロジーズ 杉原博茂 代表取締役社長 CEO
  • ウィラー 村瀬茂高 代表取締役

MaaS(Mobilty as a Service)を一言で言い表すなら「移動に関する機能や価値を、テクノロジーによって拡張・強化すること」。ここで重要なのは、拡張・強化された移動がサービスとして現実世界に再現されなければならないことだ。

言うまでもなく、MaaSにおいて現実世界とテクノロジー(サイバー空間)をつないでいる存在は位置情報と移動情報だ。これらの情報と地図データは、MaaSやサイバーフィジカルシステムにおける重要な情報インフラとなっている。

MapFanをはじめとするマルチメディア・ソフトウェアの開発からはじまり、デジタル地図事業の大手に成長し、今は位置情報ビジネスやメタバース事業の拡大を目指すジオテクノロジーズ 杉原博茂 代表取締役社長 CEO(元日本オラクル会長・社長 CEO)との対談シリーズ。今回はゲストに高速バス運行大手のウィラー 村瀬茂高 代表取締役を招き、ITがつなぐ移動のあり方について語り合った。

(1)きっかけは「飛行機・新幹線の移動ギャップを埋める」こと
(2)MaaSとは移動の格差をどう埋めるのかを考えること
(3)「駅まで自力で移動する」という常識を疑う
(4)利用されていなかった情報と地図を結びつけることで生まれた価値
(5)メタな移動をつなぐことでモビリティ・ディバイドを解消する

(1)きっかけは「飛行機・新幹線の移動ギャップを埋める」こと

ジオテクノロジーズ 杉原博茂 代表取締役社長 CEO(以下敬称略):シンガポールから帰国したばかりだそうですね。お疲れのところお時間いただきありがとうございます。私も過去シンガポールにオフィスがあり、よく行きましたが、そこで「mobi」というシェア交通のサービスを展開しているそうですね。

ウィラー 村瀬茂高 代表取締役(以下敬称略):ウィラーというと高速バスの交通事業者のイメージが強いかもしれませんが、もともとやりたかったのは、「世界中のみんながどこにでも行ける移動サービス」でした。これまでも、これからの事業も、その想いは変わりません。起業当時、まず日本から着手し、当時課題があると考えたのが都市間移動です。長距離移動には、新幹線や飛行機などの手段はありましたが、若い人でも気軽に移動できる安価な手段がなかった。また、東京・大阪などと空港や新幹線の駅がない地域との移動に課題があると感じました。これが高速バスの事業につながったのです。

杉原:私は1979年、アメリカの西海岸の大学からオクラホマの大学に編入したのですが、グレイハウンドバスを利用したのを思い出しました。映画『真夜中のカウボーイ』の世界そのままだったのですが、飛行機に乗れない若者がたくさん利用していたのを思い出します。

北米では1993年からのクリントン政権のときアル・ゴア副大統領が進めた情報スーパーハイウェイ構想やウェブ(World Wide Web)が広がりました。インターネットやウェブなどネットワークインフラを整備することで、だれでも利用できる情報の通り道を作ろうとさまざまなプロジェクトが動きました。村瀬さんの移動のギャップを埋める、というのと同じ発想だったと思います。「情報ハイウェイ」という名前も、アメリカがかつて全土に整備した州間高速道路網の整備にあやかったものです。

村瀬:私が事業を始めたのが1994年ですから、ちょうどその構想のころですね。そう考えると不思議な縁かもしれません。

(2)MaaSとは移動の格差をどう埋めるのかを考えること

ジオテクノロジーズ 杉原博茂 代表取締役社長 CEOジオテクノロジーズ 杉原博茂 代表取締役社長 CEO

杉原:私は主に日米アジアのIT業界で40年、企業インフラ開発やデータセンター事業、AI開発などを手掛けてきましたが、昨年、緯度・経度の情報を扱い“デジタル伊能忠敬”とでも言えるような、リアルな地図をデジタル化している面白い会社を見つけてこの世界に飛び込みました。地図データにはいろいろな可能性があるのですが、MaaSはその筆頭とも言える領域です。

村瀬:MaaSとは何か、ということをよく聞かれます。テクノロジーでなにをするのか、そして持続可能な社会を創るために、さまざまな課題がありますが、私は環境問題や移動の格差をなくすことが重要だと思っています。公共交通が発達した日本ではあまり感じないかもしれませんが、移動にストレスを感じる人や地域は確実に存在します。車や免許の有無、年齢、地域など不便や格差の理由はさまざまですが、その足りない部分は何か、どう埋めるのかを考えることがMaaSだと思っています。

ソリューションは地域ごと、個人ごとに考える必要があります。したがって、MaaSは既存交通や手段を一元化することではないことがわかります。MaaSというとプラットフォームづくりの議論になりがちですが、問題はプラットフォームを統一することではなく、足りない交通を創ったり、利用者の観点からその人にあったサービスに最適化し、行動変容が起きることだと考えています。よって、地域ごとに最適化してそれが繋がっていくのがよいと思っています。

杉原:それはよくわかります。インターネットも同じです。極端に言うと、インターネットは、もともと大学や研究室の小さいネットワーク、LANといいますが、このLAN同士をつなげるためのネットワーク技術です。インターネットの世界ではインターオペラビリティ(相互接続性)がとても重要です。特定のハードやOS、ベンダーやネットワーク方式に依存しないオープンな環境だから成功したのです。

他にも、ウーバーが成功したのはクルマ社会のアメリカで、働きたい人と空いている車を、インターネット、ウェブ技術によってそれを、タクシーとして機能させたからです。お互いが自然につながる、ニーズが自然にサービスを生み出す世界なのです。

(3)「駅まで自力で移動する」という常識を疑う

村瀬:ウィラーでも都市同士を結ぶ移動ニーズには応えられていると思います。しかし、MaaSで本当に重要なのは、これまで公共交通や大量輸送ではカバーできなかった個々の利用者のニーズやデータです。ですので、次は地域ごとの社会課題でもあるラストワンマイルの移動にチャレンジしたいと思っています。

日本の公共交通は高品質で信頼性も高いのですが、それらを繋ぐ部分や乗り換えの最適化ができていません。自宅とバス停や駅までの移動がいい例です。みなさん駅までは自力で移動するのが当たり前になっていますよね。この部分に個別課題がたくさん残っています。

杉原:ラストワンマイル輸送はアメリカでも課題になっていますね。先進国として、やはり高齢化という問題もありますし、通販に由来するECの発達がラストワンマイル輸送のビジネスを活気づけていますね。MaaSについても日本より進んでいる印象があります。

村瀬:フィリピンやベトナムなどは日本と比較しても、より進んでいる部分を感じることがあります。これらの国では、日本より車の所有率が低いこともあり、ジプニー(乗合タクシー)やトライシクル(3輪バイク)のような足としての移動手段が発達していますし、グラブのようなライドシェアリングサービスでは、家まで迎えがくるのが普通です。バス会社もそのようなサービスを展開しています。

(4)利用されていなかった情報と地図を結びつけることで生まれた価値

ウィラー 村瀬茂高 代表取締役ウィラー 村瀬茂高 代表取締役

村瀬:これらの地域のもうひとつの特徴は、ITに依存していなくてもこれらの移動サービスが機能している点です。フィリピンでは交差点ごとに「トライシクル」がいて、バス停が中途半端な場所でも移動に困ることはありません。島や川が多くてもフェリーや渡し舟があります。リキシャ(=オートリキシャ。庶民の足となっている小型の3輪タクシー)、バス、フェリーなどを活用した移動体ネットワークがITを使わずして自然にできているのです。こういうところにデジタルの発想を取り入れればより効率的にできるし、もっと面白いことができると思っています。

そこで、地域の交通を月額で自由に利用できる「mobi」のサービスは、ちょっとした暮らしの移動をもっと自由にするという発想で作りました。昔でいう顔見知りの近所のおじさんに駅まで送っていってもらう。そのような感覚で移動を提供できないか、というイメージです。このサービスは電話やオペレーターによる配車ではリアルタイムのニーズに応えることは不可能で、モバイル通信、位置情報やAIなどのテクノロジーを活用することで可能になりました。

杉原:弊社のスマホアプリ「トリマ」にも通じるものがありますね。「トリマ」はすでに880万ダウンロードをされている無料アプリですが、スマートフォンをゲートウェイとした位置情報と地図情報を結びつけてユーザーの移動そのものに、ポイントという価値を付けるものです。圧倒的な位置情報は地図データの整備へも活用されますし、新たなビジネスの一つにもなります。これまでナビゲーション用途以外にはあまり利用されていなかった地図情報でしたが、さまざまな情報と結びつけることで新しい価値につなげることができました。

村瀬:今まで埋もれていたものに利用価値を見出すのはITならではですね。ITとの融合は、移動の喚起にも使えます。例えばサケの溯上が始まったというリアルタイム情報から「よし見に行こう」というインスピレーションを、実際に見に行くという行動につなげることができます。そこにグラブのようなサービスがあれば簡単に行けそうですが、残念ながら日本にはまだない。ITはインスピレーションテクノロジーだと思っています。インフォメーションがインスピレーションを呼び起こし移動につながるのです。

(5)メタな移動をつなぐことでモビリティ・ディバイドを解消する

杉原:インスピレーションテクノロジーは面白い考え方ですね。AIの処理はアルゴリズムではなくニューラルネットによる多次元処理で答えを出すという点で人間のインスピレーションのように見えることがあります。

村瀬:すでにある交通手段やプラットフォームに人があわせて利用するのではなく、それぞれの人に合ったサービスが提供されることで、移動の格差がなくなり、移動総量が増え、地域経済が活性化する。これが、MaaSの価値だと思っています。私は、コミュニティベースでコミュニティ主導のサービスが作れたらと思っています。コミュニティというのは、街や地域という地理的なまとまりだけではなく、同じ目的や価値観でつながった別々の場所にいる人たちでもいいわけです。

杉原:地域の交通、個人的な移動、すべてに個別の理由や目的、事情があるかと思いますが、そういったさまざまな移動をうまくつないでやると、社会や地域経済を活性化させますよね。それをひとつのプラットフォームや仕組みで動かそうとすると、マスな移動しかカバーできませんが、ビッグデータでミクロな活動を捕捉できればデジタル・ディバイド(情報格差)ならぬモビリティ・ディバイド(移動格差)の解消にもなりそうです。

村瀬氏の言葉を聞いて、われわれの地図情報、位置情報の役割と意義を再認識することができました。これからも新しい価値を提供し続けてまいります。貴重なお話ができました。ありがとうございました。

村瀬氏:こちらこそ、お話の中でインスピレーションが刺激されました。ありがとうございました。

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《中尾真二》

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