モビリティ関連法の改正と想定されるビジネス…森・濱田松本法律事務所 パートナー 佐藤典仁弁護士[インタビュー]

モビリティ関連法の改正と想定されるビジネス…森・濱田松本法律事務所 パートナー 佐藤典仁弁護士[インタビュー]
  • モビリティ関連法の改正と想定されるビジネス…森・濱田松本法律事務所 パートナー 佐藤典仁弁護士[インタビュー]

自動運転レベル4のシャトルや電動キックボード、無人配送ロボットなどの新しいモビリティサービス実現のための、道路交通法の一部を改正する法律案が2022年4月19日に成立した。国土交通省自動車局で法改正を担当した経験もある森・濱田松本法律事務所 パートナーの佐藤典仁弁護士に聞いた。

佐藤氏は5月31日開催のオンラインセミナー 「自動運転・新モビリティ関連法改正/MONETの現在地とこれから」で、この内容について講演する。

自動運転シャトルは来年春から可能に

---:まず自動運転レベル4の実現に向けた道交法の変更内容について教えてください。
佐藤:まず、対象となるレベル4の自動運転は、いわゆるオーナーカーではなく、無人の自動運転移動サービスを念頭に置いています。モビリティサービスとして一定の範囲内での無人自動運転を実現することに対応したものです。

---:自動運転シャトルのようなものですね。
佐藤:はい。それを運転者なしでやるというのが、今回の改正のターゲットになっています。運転者がいなくなるので、これまで運転者にかかっていた義務、信号を守る義務、安全運転をする義務といった一連の義務が課される主体がいなくなるため、無人自動運転移動サービスを行おうとする者、具体的にはタクシー事業者やバス事業者ですが、その人達が公安委員会の許可を受けなければなりません。そして、公安委員会の方でサービス提供者が条件を満たしているかを確認するという制度になっています。その際には、移動サービスの計画、特定自動運行計画といいますが、どういったルートで走るかや、どうやって安全を確保するかをサービス提供者が示した上で、許可を取っていくことになります。

---:なるほど。そうするとサービス提供者は、事前に運行ルートを決めたうえで申請をして、許可をされれば事業ができるということですね。
佐藤:そうです。特定自動運行計画に基づく無人自動運転が、当該自動車の使用条件を満たしているか等を確認するため、このルートでこの時間帯、この日時でどういった人や物を運ぶのか、無人自動運転移動サービスに関与する従業員への教育内容、事故時の対応といったところを含めて計画として提出して、許可を得ることになります。

---:なるほど、ではタクシーのようなものではなくて、路線バスの代替のようなサービスが想定されているのですね。
佐藤:将来的にはWaymoのような特定の都市、一定のエリアでのタクシーサービスもあり得ると思いますが、まず念頭にあるのは、特定のルートです。

---:この道交法の改正はいつから施行になるのでしょうか。
佐藤:4月19日に国会で成立しており、公布から1年以内に施行されますので、来年の4月ごろになると思います。

---:すでに日本各地で自動運転シャトルの実証実験を実施していますが、来年には事業としてできるようになるということですね。
佐藤:そうですね。現在は実証実験なので、完全な形のレベル4ではなくて、どこかでドライバーが責任を負う形で監視・操作をしているので、そのドライバーがハンドルを握っているという整理です。

---:今の実証実験では、同乗オペレーターや、遠隔で監視している形ですが、これが無人化されることですか。
佐藤:はい。運転者とされる人がいなくなります。

---:では、遠隔オペレーターもなしで?
佐藤:オペレーターはいるんですけども、運転手ではなくなります。今の実証実験は、遠隔にいる人が運転している、あるいは車内にいる人が運転している、という整理でやっているのですが、レベル4の場合は、その人たちは運転はしません。運転しているのは自動運転システムということですので、運転者とされる人たちがいなくなって、その人たちは運転に関する義務を負わない形になります。

---:なるほど。そうすると、万が一何かあった時に、オペレーターに責任があるのか、システムに責任があるのかの違いでしょうか。
佐藤:そうですね。周りを監視して、適切なスピードで運転するところはシステムがやります。そして、それ以外の事故の際の救護や、救急車を呼ぶなどは、特定自動運行主任者がやることになっています。主任者が遠隔にいる場合は、遠くから自動運転車の周りを監視して、ハンドルを握っているわけではないですけども、何かの対応をする、ということです。

---:なるほど。サービス提供をサポートする役割ですね。
佐藤:そうです。はい。主体的に注意しているというよりは、見守る人という感じです。

---:なるほど。これによって、事業者としてはかなり負担が減って、事業をしやすくなる法改正ですね。
佐藤:そうですね。ひとつ大きなポイントは、旅客を運送する場合には、運転者に二種免許が必要でしたが、これが運転者ではなくなるので、必ずしも普通運転免許を持ってなくてもよくなります。ただ、“必ずしも”と言ったのは、何かあった時に、少しだけ遠隔操作をしないといけない場面は出てきます。例えばシステムの不具合で止まった場合、従来の自動運転を再開するまで別の場所にちょっと移動させるとか、システムで完全に対応できない例として、救急車が近づいてきた場合一旦止まりますが、その止まった後再開するとか、救急車を通すなどは人の手でやらざるを得ない部分がありますので、その部分で自動車を動かすための人は免許を持っている必要があると考えられます。

---:それは二種免許が必要ということですか?
佐藤:乗客が乗っていれば二種の可能性がありますが、まだそこは明確には整理されていません。ただメリットとしては、オペレーター全員が免許を持っていなくてもよいということです。例えば3人で複数台を見ている状況で、1台がそういった免許が必要な状態になった場合、そのうち1人だけが免許を持っていればよいなど、そういう割り振りができることになります。

---:なるほど。飲食店に食品衛生責任者が1人いればいい、みたいな感じですね。
佐藤:はい。全員が全員二種免許が必要というわけではなくなります。

---:運用台数が複数になる事業者だったら、それはメリットですよね。
佐藤:そうですね。

---:路線バスだと人件費やコストが合わなくなっているようなエリアで、自動運転シャトルの利用が始まりそうですね。
佐藤:そうですね。

---:これが先に改正されたということは、そこが優先事項だということなんですか。
佐藤:開発との兼ね合いもあると思うんですが、官民ITS構想・ロードマップという政府の文書がありまして、いつ頃までにこういうものの市場化が可能になるよう政府が目指すべき努力目標の時期を示しています。オーナーカーでは2021年にホンダ「レジェンド」が自動運転レベル3で発売されましたが、その次のレベル4では、オーナーカーよりもバスなどの無人自動運転移動サービスが先だということで、徐々に法改正が進んでいます。

電動キックボードは自転車に近い扱いに

---:他にも電動キックボードに関する法改正がありますね。
佐藤:電動キックボードは、現行法では原付に該当してしまうので、ヘルメットが必要であったり、車道しか走れなかったり、免許も取らないといけないということで、普及のハードルになっていました。政府で閣議決定された成長戦略実行計画の中でも、電動キックボードの制度整備の必要性が示されていました。それを受けて、警察庁の方でも検討会がなされて、今回の改正に至ったというのが大きな流れです。

---:これも施行は来年春ごろになりますか。
佐藤:こちらはもう1年先になります。

---:電動キックボードは原付扱いではなくなるということですか。
佐藤:そうですね。まず免許がいらなくなります。新しいカテゴリーを作ることになりました。原動機を使いますが、比較的自転車に近い原付の一種ということで、名前は「特定小型原動機付自転車」です。免許は要りませんが、16歳未満の人は運転してはいけない、などが定められています。また今回の改正で、自転車の運転もヘルメットの着用が“努力義務”になりましたが、電動キックボードの運転も、ヘルメット着用が努力義務とされています。また、販売事業者やシェアリング事業者が利用者に対して教育をする努力義務も課されています。

---:歩道は走れるのでしょうか。
佐藤:基本的には車道と普通自転車専用通行帯、自転車道を走ります。原付は車道の左を走らないといけないのですが、電動キックボードは走れる場所が増えました。その上で、さらに時速6キロしか出ないように電気的に制御できて、かつそういうカテゴリーのものだという掲示ができるのであれば、歩道も走っていいということになっています。今の電動キックボードは原付であり時速20キロも出るので、歩道を走ってはいけないのですが、新しいカテゴリーでは、電動キックボードは最高時速20キロで、更にそれを6キロしか出ないようにモードを変更できる仕組みがあれば、歩道を走ってもいいということです。

---:歩道モードみたいなスイッチがあって、6キロでだったら歩道を走ってもOKという?
佐藤:はい。

---:なるほど。16歳以上で、ヘルメットは努力義務で、20キロだったら車道か自転車道、6ロだったら歩道まで行けるということですね。
佐藤:そうですね。その歩道モードだということが外から見えるような形になっている必要があります。

---:ライトが光るとか、そんなことですかね。
佐藤:はい。歩道モードとそれ以外の時に点滅するライトを変えるといったことが想定されているようです。

---:かなり自転車に近い扱いになるんですね。16歳未満は乗れないというのが、大きな違いですかね。
佐藤:そうですね。16歳以上しか乗れないというのが、一番大きいですかね。

---:これが再来年の施行見込みですか?
佐藤:そうです。はい。

自動配送ロボットが出前を届ける

---:自動配送ロボットの法改正もありますね。
佐藤:これも改正の流れは電動キックボードと基本的には同じで、政府の成長戦略で言及されており、今回の改正に至りました。施行は来年の春ごろになる見込みです。段ボールの箱くらいの荷物を自動で配送するロボットで、受け取りの時はユーザーがスマートフォンで鍵を開けて受け取る、というような、ラストワンマイルの配送に使うことを念頭に置いたものです。すでにいろいろなメーカーが開発しており、海外では既にサービスインしているところもあります。例えばStarship Technologiesという事業者は、エストニア・ドイツ・アメリカ等で、段ボール箱一個が入る大きさのロボットでラストワンマイルの配送をしていますし、日本でもZMPや楽天などが開発・実証実験をしています。

これらの事例でもそうですが、電動車椅子程度の大きさの車体ですので、自動車と同様のハイレベルな自動運転機能を求めるのは難しいところがありますし、歩道を走ることを想定すると、今の日本の法律の整理では、人が必ず一緒に付いていないといけないので、そうなるとラストワンマイルデリバリーで人不足に対応していくという目的が達成できないので、法改正が必要になりました。

この場合も新しいカテゴリー「遠隔操作型小型車」を導入します。遠隔監視する人がいる前提でロボットを走らせることを今回可能にしたので、走る場所は歩道です。歩道・路側帯を走ることができるようになります。

---:なるほど。では事業の始め方についてですが、前出の自動運転シャトルと同じように、申請をして許可をもらう形で進めるのでしょうか。
佐藤:こちらは届出制となっています。配送ロボットの通行場所や遠隔操作を行う場所などを届け出る必要があります。

---:最高時速は6キロで、基本的には歩道を中心に走るんですね。
佐藤:そうですね。基本は歩行者等に含まれるので、歩行者と同じ場所を走ります。

---:先ほど挙げられたZMPの場合は、お寿司の出前ロボットだと思うんですが、想定される事業者としては、出前などの用途なのでしょうか。
佐藤:そうですね。出前もそうですし、あとはヤマト運輸などの宅配事業者が使うケースがあると思います。地域ごとに集配所があって、そこから人手を使って細かく配送していると思うのですが、その部分がこのようなロボットに置き換わることも考えられます。そのほかの事例としては、アメリカの大学で、キャンパス内の生協的なところから配送するというサービスもあるようです。

---:集配拠点からラスト1キロから数キロの範囲を、時速6キロでゆっくり届けると。台数がたくさんあればより効率的だということですね。
佐藤:そうですね。はい。

佐藤氏が登壇するオンラインセミナー 「自動運転・新モビリティ関連法改正/MONETの現在地とこれから」は5月31日開催。
《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集