来たる8月22日、オンラインセミナー「岐路に立つドイツ自動車産業の行方」が開催される。セミナーに登壇するのはジャーナリストの熊谷徹氏。元NHK特派員で、35年前からドイツ・ミュンヘンに在住し、欧州やドイツの政治や経済に関連したテーマを取材、執筆活動を行う。
今回のセミナーは以下のテーマで進められる。
1.従業員数を3万5000人削減!フォルクスワーゲン危機の背景
2.ドイツ自動車部品業界も苦境に
3.ドイツにおけるBEVおよび公共充電器の普及状況
4.2025年前半にBEVが持ち直した理由はEUによるCO2規制の圧力
5.ドイツ・メルツ政権が税制上の優遇措置により企業向けBEVを支援
6.トランプ関税がドイツ自動車産業に与えるインパクト
7.質疑応答
熊谷氏にセミナーの見どころを聞いた。
ドイツでEV販売が回復したその背景とは
ドイツの自動車産業が、かつてない構造的な危機に直面している。世界市場、特に電動化で先行する中国でのシェア低下、米国の保護主義的な関税の脅威、そして国内ではサプライヤーを巻き込んだ大規模なリストラが進んでいる。
象徴的なのが、フォルクスワーゲンが昨年発表した3万5000人規模の人員削減計画だ。このニュースは、ドイツ経済への懸念とともに世界に伝えられた。
しかしながら、ドイツ在住のジャーナリスト熊谷徹氏によると、2025年の上半期、フォルクスワーゲングループの欧州におけるEVの販売台数が、前年の18万台から35万台へとほぼ倍増したのだ。
一昨年、ドイツ政府がEV購入補助金を突如廃止し、販売台数が半減したことを考えれば、このV字回復は以外とも言える。熊谷氏も「ドイツでBEVは終わった、ということは言えません。ドイツでまたBEVは復活しつつある」と指摘する。
では、このBEV回復の背景は何なのか。最大の理由は、EUのCO2排出量規制だ。
「ヨーロッパの自動車メーカーは、販売する車両の過重平均で、1km走行あたりのCO2排出量を従来の115gから93.6gに減らさなくてはいけません。実に19%もの削減です」
もともと2025年から発効する予定だったが、今年3月には緩和策が発表された。本来は2025年末までに新しい上限値を達成することが義務付けられていたが、自動車業界の苦境に配慮して、2027年末までに達成すればよいことになった。
2年間の猶予を得たとはいえ、この極めて厳しい目標を達成できなければ、メーカーには2兆円もの巨額の罰金が科せられる試算もある。この罰金を回避する手っ取り早い手段が、CO2排出量ゼロとしてカウントされるBEVの販売比率を高めることだ。そこで各メーカーはBEVの大幅な値引き販売に踏み切ったというわけだ。あるドイツ企業は、今年上半期に、BEVの新車について、当初の希望価格よりも27.4%の値引きに踏み切った。2万ユーロ近い値引きだ。