東南アジアでホンダのホンキ攻勢が再始動? アセアン戦略が新フェーズへ【藤井真治のフォーカス・オン】

ホンダが9月に発表した7人乗りSUVの「BR-V」。インドネシア・ジャカルタのショッピングモールに展示されていた
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  • ホンダが9月に発表した7人乗りSUVの「BR-V」
  • BR-V PR ビデオより
  • ホンダ BR-V 新型
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  • ホンダモビリオ(インドネシア国際オートショー)

9月21日、ホンダ・インドネシアはASEANモデル7人乗りSUVである『BR-V』を世界初公開した。車両はジャカルタのショッピングモール内、ホンダの情報発信スペースであるホンダドリームカフェに展示してあり年末からの販売開始に向け先行予約を受け付けている。

「日本車天国」で販売されるASEAN専用車両

ホンダモビリオ(インドネシア国際オートショー)ホンダモビリオ(インドネシア国際オートショー)

インドネシアの新車市場において日本車比率は97%近く日本市場をも上回る。まさに日本車天国である。そのインドネシアの乗用車市場ではシェア40%を超えるトヨタを約20%のホンダとダイハツが2位争いを展開している。

新車市場でのメインプレーヤーは、日本では生産も販売もされていないASEAN専用車両。低コスト設計、現地工場で作りやすくしかも各国のコアユーザーの使い方や志向に合わせた商品パーケージとなっている。インドネシアにおいては3列シートの7人乗りMPV(マルチ・パーパス・ビークル)や派生型のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)で1300~1500ccのガソリン車、価格帯は約200~250万円。この市場がホット・ゾーンと言えよう。

世界的にはBセグメントよりも少し大きいくらいのサイズ感であろうか。著者の勝手なセグメントだがこれを「3列乗用車市場」と定義すれば、ダイハツの低価格車なども入れると実に乗用車市場の62%(※)がこのタイプとなる。

※2021/1-6インドネシアGAIKINDOデータより(株)APスターコンサルティング算出

3列シート車に一新した「BR-V」

ホンダが9月に発表した7人乗りSUVの「BR-V」ホンダが9月に発表した7人乗りSUVの「BR-V」

ホンダもこの「3列乗用車市場」においてASEAN専用車をインドネシアで生産販売しているのだが、実はこれがしばらく販売不振。MPVの『モビリオ』もSUVの先代BR―Vも低迷を極めている。2013年頃にASEANやインドも含めた現地モデルのラインアップを強化するため、ボディなど共用部品を駆使しセダン、ハッチバック、MPV、SUVの4モデルを同時開発し「ホンダ4兄弟」として各国で一気に現地生産、各国への市場投入を図り、インドネシアではホンダシェアの大きな底上げとなった。まさにホンダのASEANでのホンキ度を表明したわけだ。

ところがハッチバックから創ったような3列シート車のMPVとSUVは少し中途半端なパッケージだったようで、今回のBR-Vはその反省から本来の3列シート車として一モデルを一新している。

ホンダはこのBR-VをSUVとしているが、少しコンサバだがボリューム感・ステイタス感のある外観デザインや大人7人も十分乗れる室内スペース、シートの仕掛けなどを見てみるとターゲット層はヤングファミリーでむしろMPVユースといえるだろう。すこしおやっと思える低コスト設計も量販に必要な価格帯実現のための工夫と思われる。

現在は先行予約期間中だが、インドネシアのホンダ工場での生産&納車は年末か2022年にかけてとなりそうだ。しかしながらコア市場へのホンダの新モデル参入にトヨタ、三菱、スズキが黙っているはずもなく、コロナの閉塞感を打ち破りそうな熱く厳しい販売戦線が始まることは容易に想像できる。

平均年齢28歳の若い国が憧れるカーライフ

BR-V PR ビデオよりBR-V PR ビデオより

ホンダドリームカフェに流れている新型BR-VのPRビデオには、3人の小さな子どもを持つ夫婦がBR-Vを使う様々なシーンがでてくる。主人の通勤、子供の学校の送り迎え、夫婦が自転車でラン、5人でアウトドアランチ、そして近所に住む両親と3世代7人でレストランへ。家族のメンバーを守る安全装備のホンダセンシング。まさに平均年齢28歳の若い国で多くの人たちが憧れるカーライフが演出されている。

そんないいクルマなら日本でも売ったら?という声が日本からも出ているようだ。しかしながら、日本は大家族どころか核家族も通り越して「お一人様世帯」増えているという状況。はたしてファミリーターゲットの多人数用途、3列シートのMPVというのが日本で売れるだろうか?

平均年齢48歳の国日本。こうしたカーライフを実現できる世帯がどんどん減っていく限り「3列シートMPV」という市場も先細りというのは寂しい次第である。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

《藤井真治》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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