「キャラがわかりにくい?」マツダ MX-30のデザインがわかる十カ条

マツダ MX-30のデザインスケッチ
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「いまいちキャラクターがわかりにくい」と、そんな声を耳にするマツダ『MX-30』。それってつまり、デザインの「見所」がわかりにくいのでは? これまで皆さんが慣れ親しんできた魂動デザインとは、あえて違うことをやったのがMX-30だ。従来と同じ目線で見ていたら、「ピン!」と来なくて当たり前かもしれない。

そこで本稿では、おそらく多くの皆さんが「マツダらしくてわかりやすい」と感じているであろう『CX-30』と比較しながら、MX-30のデザインを「わかる」ための見所を、以下の十カ条で紹介していきたい。

第一条:「艶」と「凛」を超えて

マツダ MX-30マツダ MX-30
魂動デザインが目指すのは「生命感のある動き」だ。2012年の初代『CX-5』以来、それを「動」、「艶」、「凛」という3つのキーワードで追求してきた。基本となる「動」は不可欠。「艶」と「凛」は車種ごとに表現の配分を変える。

『マツダ3』で始まった「第7世代商品群」ではマツダ3・ファストバックとCX-30は「艶」を重視し、マツダ3・セダンは「凛」に力点を置いた。魂動というアイデンティティを打ち出すにしても、判を押したように同じデザインを繰り返すつもりは、そもそもマツダにはない。だから「第6世代」のときから、『ロードスター』は「艶」、『CX-3』は「凛」に振ることで、魂動の表現の幅を広げていた。

その幅をマツダ3やCX-30でさらに拡大した矢先、MX-30は「艶」も「凛」も強調しないデザインで登場した。これが「わかりにくい」と言われる最大の所以だろう。しかし「艶」と「凛」の配分だけでは、車種ごとのキャラクターを充分に伝えられなくなる日が、いずれ来る。そこに備えて、MX-30は「艶」と「凛」という軸を超える新たな方向性の魂動表現にチャレンジしたのだ。

第二条:モノ価値 vs ライフスタイル商品

マツダ MX-30マツダ MX-30
なぜMX-30で、新たな方向性にチャレンジしたのか? それはこのプロジェクトの成り立ちに起因している。MX-30はメイン市場の欧州ではバッテリーEV専用車。EVだからデザインの方向性を変えた…わけではない。

開発リーダーは商品本部の竹内都美子主査(現・人事本部長)。竹内氏が主査に任命されたとき、命題は「新しい価値を創造すること」であり、「どんなクルマにするか、まったくフリーハンドだった」という。

そこで竹内主査らは日欧米で若い起業家など、いわゆる「インフルエンサー」の声を聞く市場調査を実施。そこから「自分らしく自然体に生きるユーザーを主人公にする」という商品コンセプトを構築していった。

マツダはクルマ大好き集団だから、モノとしての価値を研ぎ澄ますクルマ創りは得意だ。CX-30も例外ではない。スタイリッシュなフォルムに、必要な機能を凝縮した。

しかしMX-30は「所有して嬉しいカッコいいクルマ」というモノ価値を問うプロジェクトではない。ユーザーの自然体のライフスタイルに寄り添うデザインが求めるとなれば、答えはおのずとこれまでの魂動とは違ってくる。

第三条:「ミニマル」な表情

マツダ MX-30マツダ MX-30
では、自然体とは何か? 身の丈の生活に不要なものを排除し、必要なものだけを残すという「ミニマル」。そして何を残すかと言えば、今後も捨てる対象にならない「タイムレス」なもの。そういう選択を当たり前に行うのが、インフルエンサーたちの自然体のライフスタイルだと市場調査から結論づけた。

だから例えばフロントの顔付きは「ミニマル」だ。グリルは最小限の大きさにとどめ、初代CX-5からCX-30へ脈々と受け継いできたグリルとヘッドランプを結ぶ「シグネチャーウイング」もない。

グリル形状も異例だ。CX-30のグリルは、マツダが90年代末に始めた「ファイブポイント・グリル」の5角形をベースにアレンジした形状。他の現行マツダ車と同様に、底辺のセンターに折れ点を設けることで「ファイブポイント」のイメージを残していたわけだが、MX-30はその折れ点さえ引き算して「ミニマル」を極めた表情にしている。

第四条:見せ場の「移ろい」も引き算

マツダ CX-30マツダ CX-30
マツダ MX-30マツダ MX-30
もうひとつCX-30との大きな違いがボディサイドの映り込みだ。CX-30では周囲にある水平線が、ボディサイドに映り込むとS字を描く。マツダ3も同じだ。S字の映り込みがクルマの動きにつれて変化する。この「移ろい」のダイナミックな表情こそ、「第7世代商品群」における魂動表現の新しい見せ場かと思われたのだが…。

MX-30は「移ろい」も引き算した。もちろんキャラクターラインなどない。CX-30ではフロントフェンダーから後輪に向けて、光を強く反射するハイライトラインがテンションの効いた「反り」のカーブを描いて下降するが(CX-5/『CX-8』も同様)、MX-30はその「反り」さえもごく控えめに抑えている。

魂動らしい「生命感のある動き」を、「ミニマル」に表現したMX-30。これまでの魂動がネコ科猛獣の躍動感を表現していたとしたら、MX-30は大人しい犬のような生命感と言えるかもしれない。

第五条:「タイムレス」な王道バランス

マツダ CX-30のデザインスケッチマツダ CX-30のデザインスケッチ
マツダのSUVは、どれもクーペ・ライクなプロポーションを持つ。欧州プレミアムは空間重視のSUVとそのクーペ派生車をラインナップしているが、マツダにそこまで車種を増やす余裕はない。そこでマツダらしくダイナミックでスポーティなクーペ的SUVを展開してきた。

CX-30はAピラーから滑らかにルーフを延ばしつつ、その頂点を後ろ寄りにして後席ヘッドルームを確保。そこからルーフサイドの折れ線をテールゲートに沿って下降させることで、モダンなクーペのようにスリークなキャビン・シルエットを実現した。

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MX-30のキャビンもクーペ・ライクだが、CX-30とはまったく異なる。Aピラー傾斜をCX-30より起こし、リヤピラー/テールゲートはより寝かせた。ピラーとルーフをあまり滑らかにつなげず、あえて少し折れを感じさせる台形キャビンにしたのもCX-30との違いだ。

60~70年代の2ドア・クーペはAピラーよりリヤピラーの傾斜が強い台形キャビンだった。あの「ルーチェ・ロータリークーペ」も例外ではなく、いま見ても美しい。時代の風雪を超えるクーペの王道バランス。モダンなCX-30とは対照的な「タイムレス」の味わいがそこに宿る。

第六条:乗降性のためのフリースタイルドア

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この「タイムレス」なクーペ・シルエットでも、後席ヘッドルームは確保できる。しかし問題は乗降性だ。後席に乗り降りするときに、強く傾斜したリヤピラーに頭をぶつけてしまう。

CX-30はルーフラインの頂点を後ろ寄りにすることで、ヘッドルームだけでなく乗降性もクリアした。クーペの王道バランスを求めたMX-30で、その手法は使えない。だからこその観音開き式フリースタイルドアだ。リヤドアが後ろヒンジ/前開きなら、乗降時におのずと頭の位置が前寄りになり、リヤピラーを気にすることなく乗り降りできる。

前後ドアを開け放てば開放感があるし、乗り込む際に後席に手荷物を置きやすいなど、フリースタイルドアには独特のメリットもある。しかしMX-30ではそれ以前に、後席乗降性を確保するためにフリースタイルドアが必要だった。クーペと言えば2ドアだった時代の王道バランスに、リヤドアの利便性を加えたデザインと考えればよいだろう。

第七条:部品の構成美を見せるリヤ

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MX-30のエクステリアでもうひとつ特筆すべきは、リヤピラーからリヤコンビランプにかけての部品構成だ。CX-30は全体フォルムにリヤコンビランプを融合させつつ、パネル面から少しランプを出っ張らせてワイド感を見せる。「第6世代」から、マツダはずっとそうやってきた。しかしMX-30はちょっと違う。

ボディカラーが3トーンの仕様がわかりやすい。ルーフ/リヤスポイラーはブラックで、ピラー/ルーフサイドがグレー。さらに、テールゲートの両サイドにもグレーの(=リヤピラーと一体に見せた)パーツがあり、これがリヤコンビランプの上にL字型に延ばす一方、リヤピラーの根元には「MAZDA」の文字を刻んだ金属調ガーニッシュを嵌め込んでいる。

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CX-30はリヤピラーとフェンダーを連続面で造形しているのに対して、MX-30はそれを分断。テールゲートに加えたグレー部品で強く傾斜したリヤピラーをより伸びやかに見せつつ、そのグレー部品、リヤコンビランプ、金属調ガーニッシュをタイトと組み合わせた。

全体フォルムに部品を埋め込むのではなく、部品を際立たせ、その構成美で見せるデザイン。これは例えばネイキッド・バイクに通じる感覚だ。タンクやシート、エンジンなどの単体部品を組み合わせて全体を構成するネイキッド・バイクには、トレンドを超えた原点回帰の美しさがある。MX-30のリヤまわりも同じ。部品の構成美が「タイムレス」を醸し出すのである。

第八条:水平基調を強めたインパネ

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ドライバーの着座中心を通る「軸」を重視し、その軸上に最も大事な情報を表示しつつ、軸に対して左右対称な形状にすることで運転に集中できるコクピットを形成。その一方、水平方向に伸びやかなインパネで広さ感/開放感を表現し、助手席側の快適さも担保する。これは「第6世代」から続くマツダのインテリア・デザインの揺るぎない方針だ。

CX-30も例外ではなく、メーターパネルの中央に大径の速度計を配し、その左右には左右対称の形状でベントグリルを置いている。MX-30もメーター中央に速度計を置くが、ベントグリルは左右対称ではない。センターに2連のワイドなベントグリルを置き、両端のベントグリルはそれよりずっと幅狭だ。

それによって、MX-30はインパネの水平基調をより強く表現した。これはつまり助手席乗員の快適さをより重視したと言えるだろう。しかしそれだけではない…。

第九条:横方向の抜け感という新価値

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MX-30のインテリアで、最も特筆すべきハイライトはセンターコンソールだ。EV仕様を見据えてシフトバイワイヤを採用。機械的なリンクがない利点を活かし、短いシフトレバーの下に大きな空洞(小物トレイ)を設けたフローティング・コンソールがデザインされた。

この空洞は、着座姿勢から見えやすい位置にあるわけではない。が、なんとなくその存在を感じる。空洞を通して横方向に空間が抜けて、運転席と助手席の空間がつながるような感覚だ。

MX-30の開発過程では、そこを空洞にするか塞ぐかで乗員の脳波がどう変わるかを測定。空洞にすると、ドライバーと助手席乗員の脳波がシンクロすることを検証したという。それはつまり、お互いが共感しやすくなるということだ。

横方向の抜け感にそんな効用がある。ならばインパネのデザインもそこを重視すべき。他のマツダ車より水平基調を強く表現したMX-30のインパネには、そういう意味もあるのだ。

第十条:コルクはサステイナブルな素材

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センターコンソールやドアに貼ったコルクは、マツダが東洋コルク工業というコルクメーカーから始まったルーツを物語る。創業100周年の節目に発売したMX-30にとってコルクは象徴的なアイテムだが、もっと大事なのはそれが環境負荷の小さいサステイナブルな天然素材ということだ。

ワインの栓でもお馴染みのコルクは、コルクの木の樹皮。いったん樹皮を剥いても10年ほどで元に戻るので、枯渇する心配がない。しかもMX-30はワインの栓を打ち抜いた残りの廃材のコルクを、コルク産業の盛んなポルトガルから輸入して使っている。

コルクはけっして高級感のある素材ではないが、触感が良いので釣竿や指揮棒の把手部分にも使われるし、サステイナブルという点では優等生だ。MX-30ではさらにドアトリムのグレー部分に、リサイクルしたポリエステル繊維をほぼ100%使って作ったフェルト素材を採用し、環境負荷の低減に配慮している。

SDGsが問われる時代だ。EV仕様もあるMX-30の内装素材は、まさに時代に相応しい価値観を打ち出した。これも注目していただきたい「見所」である。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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