モビリティと医療などの周辺サービスとの掛け合わせが、イノベーションを生み出すと期待されている。
2019年12月より(2021年3月まで)、MONET Technologies (モネ・テクノロジーズ) および長野県伊那市とヘルスケアモビリティの実証事業をはじめたフィリップス・ジャパン。
医療業界の課題とフィリップス・ジャパンの考え方について、フィリップス・ジャパン戦略企画・事業開発シニアマネージャーの佐々木栄二氏に聞いた。
12月20日開催セミナーでは、ヘルスケアモビリティの実現に向けて具体的にお話しいただきます。詳細はこちら。
医療業界の問題や課題は?
佐々木氏:大きく3つあります。(1)高齢化の加速 (2)医療施設・従事者の不足 (3)医療費の増加です。
---:以前から病院経営が問題となっていますね。地方では専門医不足で、病気になっても診てもらえない事態になっています。
佐々木氏: この問題を解決するために、いま医療業界では、以下のようなトレンドが起こっています。
まず病院・クリニックのトレンドについてです。今後、経営状態が悪い病院・クリニックは統廃合が進んでいきます。また、病院・クリニックは、医療機器の稼働率や利便性を向上させるために病院間でのシェアリングが進んでいきます。
次に、患者のトレンドについてです。病気にかからないようにする予防へのニーズが高まっていきます。また、病院ではなく、在宅で診断・治療を受けるニーズも高まっていきます。
最後に、サービスのトレンドについてです。患者が患う病気は、日々の食生活の乱れや運動不足による生活習慣病などの慢性疾患が主流になっていきます。慢性疾患を治療するには、患者の生活習慣に介入していき、一人ひとりの患者に合ったサービスを提供する必要があります。そのため、今後のサービスは、患者毎にパーソナル化して提供できるようになっていきます。同時に、パーソナル化されたサービスを提供するためには、患者情報を蓄えたプラットフォームの構築も必要になります。最終的にはマイナンバーカードなどとのデータ統合も視野に入ってくるでしょう。
ヘルスケアサービスを届けやすくしたい
---:フィリップスにとってのモビリティとは
いま医療業界は、急速にデジタル化が進んでいます。それに伴い、今後、「医療従事者の生産性」および「患者への医療サービスの質」が向上していくはずです。フィリップスは、医療業界のデジタル化に注力しています。一方、医療業界において、医療従事者と患者間のリアルな場での接点がなくなることはありません。そのため、フィリップスはデジタルに加えて、モビリティを活用することでヘルスケアサービスを「届けやすくすること」にも注力しています。医療従事者と患者にとってのリアルな接点を身近にすることを目指しています。
対面が基本
---:オンラインでの医療行為は、どこまで行えるのでしょうか
佐々木氏:国民健康保険の適応を受けず、100%自己負担で行う自由診療であれば、いろいろなことが可能となってきています。一方、国民健康保険を適応できるオンライン診療については、2018年から始まり、今後、段階的に適応される範囲が広がっていくことが予想されます。
しかし対面が基本であり、国民健康保険にてオンライン診療を適応するためには、いくつかの条件をクリアしなければなりません。例えば、現状の対象疾患は、糖尿病といった生活習慣病であること、初診は対面で定期的な対面診察を受けること、緊急時に30分以内に医療機関が患者を対面で診察できる体制が構築されていることなどの条件があります。
薬も対面が基本です。今後、薬を宅配で届けられる時代が来ると思いますが、まだ実証実験の段階です。対面での受け渡し、対面での服薬指導を受けなければ、国民保険保険の適応を受けることができません。ただし、2019年11月に改正医薬品医療機器法が改正されたことに伴い、服薬指導に関してはオンラインが可能となります。
ヘルスケアモビリティ
--:伊那市での実証実験「ヘルスケアモビリティ」の特徴は?
佐々木氏:1つ目は、医者が病院に残り、看護師が患者宅を回る点です。これまでは、患者が自宅で診察する場合、医者と看護師が一緒に回っていました。集落が点在している地域では、1日に数件しか回れないことがあります。ヘルスケアモビリティを用いることで、医者は、移動に時間を充てる代わりに、病院内での業務に時間を充てられます。一方、専属のドライバーが運転するヘルスケアモビリティに看護師が乗り込み患者宅を回ります。患者はヘルスケアモビリティに乗り込んで、看護師から心電図・血糖値・血圧などの測定を受けたり、PCモニターを通して病院にいる医者からオンライン診療を受けることができます。
2つ目は、複数の病院が、車両やドライバーをシェアし、クラウドシステムを通じて複数の病院間で患者情報を共有できる仕組みを構築したことです。
3つ目は、ヘルスケアモビリティのPCモニターを通して、薬剤師よりオンライン服薬指導を受けることができる点です。先ほども述べた通り、2019年11月に改正医薬品医療機器法が成立したことで、薬の飲み方を教える服薬指導のオンライン化が解禁されました。今後、伊那のヘルスケアモビリティも、これに対応していく方針です。
特徴は広域な事業領域
---:フィリップスが取組む活動のうち、他社と異なる特徴的なものはありますか
佐々木氏:フィリップスの特徴は、予防段階よりも以前の「健康な生活」から「予防」「診断」「治療」「ホームケア」までを一連のヘルスケアプロセスと捉え、ソリューションを提供していることです。実際に各プロセスに適応する製品も有しており、例えば「健康な生活」を送るためのノンフライヤーといった調理家電、「予防」のための電動歯ブラシなど口腔ケア製品、「診断」「治療」においてはフィリップスが得意としてきたMRIやCTなどの各種医療機器、「ホームケア」としては睡眠時無呼吸症候群の治療器(CPAP)を筆頭に、在宅医療の現場を支える機器をそろえています。このように全てのプロセスをカバーするプロダクトを有している企業はまれで、これこそがフィリップスの強みです。
---:健康な生活をサポートする領域では、電動歯ブラシがお馴染みですね。
佐々木氏:健康のために行う生活習慣の行動変容は、すぐに起こせるものではありません。人は将来病気になるかもしれないという不安を抱えていても、現時点では予防に対する価値や必要性をそこまで感じておらず、今の「健康な生活」に甘えてしまいがちだからです。だからこそフィリップスでは、「健康な生活」からサポートすることで一人ひとりの行動を理解し、彼らが認識していない課題も顕在化させ、行動変容につながる価値提供に努めているのです。
---:医療×モビリティは、このように広域の領域を手がけ、柔らかな発想で考えることができるフィリップスならではなんですね。