三菱ふそうトラック・バスの寒冷地試験に同行取材…どんなテストをしているのか?

トータル4000km超、リアルワールドでしか得られないこと

シミュレーションを実走試験で確認

三菱ふそう独自で開発したスマホアプリでデータ送信

エンジンの性格の違い、先進安全運転支援システムのちょっとした不具合

三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2019年)
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我々の生活を支えるトラックやバスが世に出るまでに、どのような過程を経て開発されているのか。今回は三菱ふそうがかねてより毎年冬に北海道で行なっている“雪中行軍”ならぬ寒冷地適合性の試験に同行するという非常に貴重な機会をいただいた。

三菱ふそうでは、近い将来に発売する車両の信頼耐久性能試験の一環として、寒冷地における各種試験のため、この時期に北海道まで自走で訪れている。詳しくはまだ書けないが、今回の主な目的は、新たに搭載が予定されている車種での先進安全運転支援システムの確認となる。中型トラック2台、小型トラック1台、マイクロバス1台という計4台の試験車両は、すでに販売しているクルマをベースに件のシステムと計測に必要な機器が搭載されていた。

トータル4000km超、リアルワールドでしか得られないこと

栃木県の同社喜連川研究所を出発して、まずは高速道路で新潟まで走り、そこから一般道で国道7号線を4日かけて走り青森まで移動。さらに津軽海峡フェリーで函館へとわたり、北海道に上陸してからはまず高速道路で旭川の北の比布へ移動し、雪深いところをひたすら毎日走って雪害や凍結状態での試験を実施してきた。

本州の雪はベタベタしていてクルマにくっつきやすいのに対し、北海道の雪は細かくてさらさらしているので、部品の隙間など考えられないような場所に入り込む可能性がある。とくにシャシーにはエア関係の部品が付いていて、そこに入ってしまうとうまく機能しなくなる可能性もある。そこでカバーを追加したことも過去にはあるという。

三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2019年)三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2019年)そんな不具合がないかを1週間ほどかけて確認し、それがほぼ終わったので、より気温の低い道東を目指してきたところで合流した。ただし、予想外の好天がつづいて想定よりも気温が高めだったのだが、天候だけはどうしようもない……。

走行距離は、目標は3500kmだが、今回はトータルで4000kmを超えそうな見込み。クルマによって高速道路と一般道の比率を調整したり走るコースを変えたりするのだが、今回は中型と小型なので一般道を多めにしているそうだ。

「お客さまと同じ環境で1年中とにかく走りまくってクルマの不具合を探します。冬だけでなく夏も、日本だけでなく海外も走ります。寒かったり暑かったりすると何が起こるかわかりません。外に出る間はもちろんずっと家に帰れないので、財布の中身も大変になりますけどね(笑)」と、この道35年というリーダーの大森さんは述べる。

今回担当したマイクロバスの『ローザ』は、秋に2018年モデルが出たばかりだが、発売時には入れられなかった、先進安全運転支援システムや灯火類などの諸々の装備を搭載した試験車でいろいろ試している。

シミュレーションを実走試験で確認

むろん事前に喜連川研究所でもシミュレーションを行なっていて、部品単体としての機能を担当部署でも確認しているが、それをクルマに盛り込んだときにどうなるかを確認するのが今回の試験だ。実は筆者も、乗用車の試験で、温度調節が可能な部屋に入れて、極端な温度の環境下で試験を行なっているのを見学したことはあるが、こうしたトラックやバスのサイズになると、入れられるスペースは限られる。それゆえこうした実走での試験が欠かせないわけだ。

三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2019年)三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2019年)また、寒冷地でユーザーから出ている不具合の情報を吸い上げて、同じ状況で試して確認し、対策を考えたりする。社内の品質保証本部からもメンバーが参加したりして、ちゃんと評価に見合った場所を走っているか、試験をしっかりやっているかなど試験スタッフがチェックされることもある。

エンジン関係についても、単体でのベンチ試験やシミュレーションで燃費や排ガスなどについてはより机上検討を専門の担当部署がやった上で、こうして実際にドライブすることでシミュレーションに合っていることを確認する。今回も、もしシステムの深いところで何かが起きたときに即座に対応できるよう、専門知識を持った解析のエキスパートが試験に参加していた。

三菱ふそう独自で開発したスマホアプリでデータ送信

また、車両には市販車と同じセンサーが装着されていて、計測したデータをときおり本部に送信する。このとき、たとえば実際の外気温とセンサーのデータが正しいかどうかを確認するため、車両のある部分に「百葉箱」を設置したりしている。このデータを送信するのに役立っているのが、三菱ふそう独自で開発したというスマホアプリ。データ送信以外にも、車列を組まずに個々がバラバラに移動する時、各スタッフが今どこにいるのか(どこを走行しているのか)を確認できるなど非常に重宝しているという。

こうした大柄なクルマが何台かで走ると、いまや全道で122を数える「道の駅」の存在が非常にありがたいとスタッフは口をそろえる。なぜなら乗用車のようにトラック・バスはどこでも簡単に路駐はできない。まして冬の北海道はどこも道の両側にうず高く雪が積まれるので、車線がだいぶ細くなることを思えばなおのことだ。だから適度に点在して大きな駐車場を確保している道の駅はとても重要なのだという。トイレ休憩や、食事、急なトラブルな対処など、様々な時に重宝しているという。

三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2019年)三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2019年)トラックについては、小型の『キャンター』と、中型の『ファイター』についは、昨年夏に新たに追加された4気筒エンジンを搭載する平ボディと、既存の6気筒エンジンを搭載したワイドキャビンのパネルバンの2台だ。いずれも実際の使用状況を想定してウエイトを積まれている。

乗り比べると、やはり人を乗せるためのローザのほうが圧倒的に乗り心地がよいことはいうまでもないが、中型と小型でもだいぶ印象は違った。トラックのキャビンはユーザーの用途に合わせてベッド付きや3人掛けなど4タイプの仕様が選べるようになっているが、やはりワイドは広々としている。パネルバンは投影面積の大きい車両で横風等の外乱の影響を見るため、あるいは計器等を積む必要があるときに備えて毎回用立てている。

喜連川で作り込んだ性能が問題なく発揮された

昨年は海外での実走試験にも参加し、寒冷地試験は今回2回目という中型担当の高木さんに話を聞いたところ、まず印象的だったのは、前でも述べたとおり本州と北海道では雪質がかなり違うことだという。

また、エンジンが4気筒と6気筒では排気量もかなり違うため、むろん動力性能も段違いなのだが、ことのほか4気筒の印象がよかったようだ。「6気筒は、この車体にはオーバースペックといえるくらい力があって、とても走りやすいことはいうまでもありません。一方で4気筒も、思ったよりもずっとよく走ってくれて、長い上り坂がつづく美幌峠のあたりもまったく問題なく走れました。また、燃費が圧倒的によいこともあらためて確認できました。高速が主体のお客さまなら6気筒、地場を回るお客さまなら4気筒と、ニーズに合わせて選んでいただければと思います」(前出・高木氏)

三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2018年)三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2018年)また、先進安全運転支援システムについては、たとえば左折時の巻き込み防止する機能が雪壁のせいで変なときに反応したり、フロントのレーダーが汚れて機能しなくなったり、カメラが路上の雪のカタマリを車線と認識して逸脱の警報を発するなどのちょっとした不具合も見受けられたので、そのあたりはこういう状況下で実走したからこそ確認できた意見として今後の開発に盛り込まれていく。

そうした小さな問題点はあったものの、かくして釧路を拠点に2日間、道東のいろいろな場所を走りまわり、両日ともいたって順調に過ぎたわけだが、喜連川で作り込んだ性能が、こうした過酷な環境の中でもしっかりと問題なく発揮されることを実証できたところに大きな意義がある。

三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2019年)三菱ふそうトラック・バス寒地試験(2019年)「クルマは生きた道を走ってナンボです。道にはいろいろな外乱があって、その中で評価していかないと、いいものはできません。テストコースで得られるのは定量データであって、そのクルマの一番高いところしか見えません。シフトのタイミングやハンドリング、ブレーキフィール、乗り心地など、テストコースでは再現できない、外を走ったからこそわかることが山ほどあります。テストコースでは見つけられないものを見つけることのできるので、外を走ることに大きな意義とやりがいを感じています」(大森氏)

技術が進歩し、新しいものが矢継ぎ早にクルマに採り入れられる時代になったからこそなおのこと、こうしたリアルワールドでの検証はより重要度を増している。ましてやトラックやバスとなると、なにかあったときの影響は多くの人に及ぶ可能性もある。なにも不具合の起こらない裏には、今回見せてもらったような努力があることを思い知らされた次第である。

《岡本幸一郎》

岡本幸一郎

1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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