SUVをスマート・ユーティリティ・ビークルと称して登場したのがフォードの個性派クロスオーバーSUV、『クーガ』である。先代モデルは第2世代で、2013年9月に日本へと上陸した。
目を引くのは、キネティック(動的)デザインと呼ぶ躍動感あふれるスタイリングだ。洗練されたハンドリングと卓越した走破性能も高く評価されている。また、ハンズフリー・パワーリフトゲートに代表されるスマート装備も数多く採用し、快適性を高めた。
発売から3年目を迎えたクーガは、自慢の「EcoBoost」エンジンを一新し、ドライバビリティを向上させるとともに環境性能も高めている。これまでは1.6リットルの直列4気筒DOHCエンジンに吸排気可変バルブタイミング機構と直噴システム、そしてターボを組み合わせていた。最新のクーガも「EcoBoost」の基本的なメカニズムは変わらない。だが、パワーユニットを2機種に増やし、魅力を広げている。
上級グレードの「タイタニアム」に搭載する「EcoBoost」エンジンは、『エクスプローラーXLT』から譲り受けた2.0リットルの直噴ターボだ。もう1機種はダウンサイジングし、アイドリングストップ機能を加えた1.5リットルの直噴ターボで、これは「トレンド」に搭載した。トランスミッションは、タイタニアム、トレンドともにセレクトシフト付き電子制御6速ATだ。
タイタニアムの2.0リットル直噴ターボはパワフルで、加速も力強い。400ccの排気量アップによって最高出力は170kW(242ps)/5500rpmと、1.6リットルターボより60psもパワーアップした。最大トルクも345N.m(35.2kg-m)/2000~4500rpmに向上している。最大トルクは旧型クーガと比べて10.7kg-mの向上だ。しかもJC08モード燃費は5%ほど改善されている。これはうれしい配慮だ。
アイドリングから少し上の回転域からターボは威力を発揮し、猛々しい加速を見せつけた。追い越しも俊敏にこなす。また、アクセルを戻し、再び踏み込んで加速したときの応答レスポンスも鋭い。ターボの弱点であるターボラグは上手に抑えられている。混んだ街中でのドライバビリティも良好だ。セレクターレバー横のサムスイッチをマニュアルモードを選び、その気になれば身体をシートに押し付けられる豪快な加速を味わうこともできる。静粛性もクラストップレベルと言えるだろう。
ダウンサイジングを図ったトレンドの1.5リットル直噴ターボも満足できる動力性能を備えていた。こちらは134kW(182ps)/6000rpm、240N.m(24.5kg-m)/1600~5000rpmと、旧型の1.6リットル直噴ターボと同等のパワースペックだ。このエンジンも低回転からターボが威力を発揮し、身軽な加速を見せつける。絶対的なパンチ力は2.0リットルの直噴ターボにかなわない。が、こちらもサムスイッチを操作すれば、俊敏なマニュアル変速も可能だ。
市街地や街中を舞台とした走りでは500ccのハンディを感じさせない。しかもアイドリングストップ機能を備えている。街中ではエンジンが停止し、燃料を節約できるし、地球環境にもやさしい。高回転の伸び感も文句なしだ。元気に6000回転まで回り切る。クルージング時は2.0リットルの直噴ターボと互角の静粛性を確保した。高回転ではエンジンが唸るが、スポーティな音色を奏でる。これも魅力だ。
『フォーカス』などに使われて好評を博しているC1プラットフォームにストラットとマルチリンクのサスペンション、インテリジェントAWDの組み合わせは、あらゆるスピード域において安心感のある走りを披露した。フットワークは安定志向で、素直なハンドリングだから舗装路でもオフロードでもコントロールしやすい。軽やかにクルマが向きを変え、荒れた路面を走っても足の動きはしなやかだ。旧型クーガではオフロードも走ったが、インテリジェントAWDは制御が緻密。優れたトラクション能力を披露した。
電動パワーステアリングも洗練された操舵フィールを実現している。ハンドリングは安定志向で、コントローラブルだ。スポーティ感覚が強いのは、パワフルなエンジンに235/50R18サイズのタイヤを履く兄貴分のタイタニアムだが、17インチタイヤのトレンドでも気持ちいい走りを見せた。路面からのインフォメーションも分かりやすい。乗り心地は18インチタイヤを履くタイタニアムでも上質である。路面の凹凸をしなやかに受け流し、ダイレクトなショックを伝えてこない。タイタニアムのほうが引き締まった印象は強いが、スポーティ感は一歩上だ。
ちょっとアップライトのドライビングポジションは、より多くの人に安心感を与える。運転席からの視界も良好だ。前後デュアルのサンルーフはシェード付きだし、電動で開閉するから使い勝手がいい。フロントシートだけでなくリアシートも快適性である。また、ラゲッジルームは広く、後席を畳めば1603リットルの荷室容量を実現した。しかも荷室フロアは2段階に調節することが可能だ。ハンズフリー・パワーリフトゲートも重宝する。キックするように足を動かすだけでゲートが電動で開閉するから慣れてしまうと便利だ。
インテリアの仕上げもハイクオリティだし、快適装備と安全装備も充実している。AWDモデルであることを考えると販売価格はバーゲンプライスだ。とくに1.5リットル直噴ターボのトレンドは日本車とも競合する魅力的なプライスタグを打ち出した。良質なクーガの真髄を知るために、ぜひ試乗してみることをおすすめしたい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
片岡英明│モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員