【ロードスター開発者への10の質問】Q4.ロードスターのエンジン開発における必須条件とは?

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パワートレイン開発本部副部長の仁井内進氏と、同本部走行・環境性能開発部の兼為(かねい)正義氏
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新型『ロードスター』の心臓部には、「SKYACTIV-G 1.5」が搭載される。歴史あるロードスターというスポーツモデルに新エンジンが組み合わされたことで、どのように進化したのか。


Q4.ロードスターのエンジン開発における必須条件とは?
A4.ロードスターをどのように「走らせたいか」が第一にあった。トップエンドまでずっとGを感じられるようなトルクカーブを演出させるエンジンにした。

加速度へ対しての造り込みや、セッティング、そしてスポーツカーのドライビングプレジャーを語る上で欠かせないサウンドについて、パワートレイン開発本部副部長の仁井内進氏と同本部走行・環境性能開発部の兼為(かねい)正義氏に話を伺った。

◆なぜ1.5リットルか、ではなく「どのように走らせたいか」

----:新しいロードスターのエンジンは1.5リットルのSKYACTIV-Gですが今回搭載するにあたってどこが進化したのか、今までの歴代のエンジンを鑑みた上で、何が必須条件なのか…というところを教えてください。

仁井内進氏(以下敬称略):現在我々はSKYACTIV-Gのシリーズとして1.3/1.5/2リットルを持っています。しかし、今回のロードスターで言えば、なぜ1.5リットルを選んだのか、というところじゃなくて、このロードスターのパワートレインを考える際に、どういう走りをさせていきたいのか、というところから入っています。ですから、例えば『CX-5』より前にはこういうパワートレインラインナップやミッションがこれだけあって、どう選んで組み合わせますか、というのがこれまでの基本的なアプローチだったわけですが、今回はそうではなかったんです。

----:それをあえて行わなかった?

仁井内:ええ。このクルマはそうじゃなくて「どう走らせたいか」、どういう価値をパワートレインがクルマに付け加えられるのかを考えた時に、結果的にそういう走りや特性とかを見てみると、じゃあ1.5リットルがエンジン排気量としては十分だね、と。ただしこれまでのFFモデルや『アクセラ』の特性とこのクルマの特性は異なります。もちろんハイエンドまで回って最後まで心地よく伸び感があっても(編集部注:アクセラの1.5リットルもトップエンドまで回る気持ちの良いエンジンという前提の中)吸排気のシステムを変えますし、音の作り方もサウンドが良いスポーツカーとしての、ある意味一つの価値ですよね。という辺りも加味して、ベースの排気量は1.5リットルですがエンジン自体の回転系や吸排気の特性などをこの価値を作るためにセレクションしました。排気量ありきでロードスターを作ったわけではない、ということです。

----:そして、それをFR用にするためにいろいろ技術的な試行錯誤がなされたと。実際、よく回るエンジンですよね。

仁井内:回ります、じゃなくて回すように作っています。

----:なるほど。では、実際どんなところに技術面での改良があったのでしょうか。

兼為正義氏(以下敬称略):よく回るというフィーリングについていうと、エンジントルクを出せるだけ出すというわけではなくて、トップエンドまで回した際に伸びを感じれるようなトルクカーブを設定しています。技法としては“躍度”という感じで言っています

----:躍度(やくど)ですか?

兼為:躍度は加速度の変化のことです。加速度の変化を人が感じている時に、伸びていくような感触が味わえるわけです。その躍度変化がずっとトップエンド、つまり7500回転までキープできるような、伸びを感じるようなトルクカーブを描いてもらっています。

仁井内:ものすごく高い加速Gを出したとしても、その後下がっていくと、人間というのは、この絶対Gを最初に感じた後にどんな高いGが出てても減速しているように思うわけです。ですから、あるGをずーっと同じレベルで維持し続けるということ、つまり加速をつなげていくということが重要なのです。だから絶対トルクや排気量がないと走り感が作れない、という話ではないわけです。

----:そのための工夫とは。

仁井内:つまりロードースターのエンジンのポイントは、トップエンドまでずーっとそのGを感じられるようなトルクカーブをエンジンに演出させることです。トップエンドまで回す、という点についてFFとFRとの大きな違いは、回転系です。特にクランク。FFのクランクはダクタイルといって鋳鉄なのですがFRのこの1.5リットルのクランクは、2リットルと一緒でフォージド(鍛造:foreged)スティールを採用しています。曲げ剛性とカウンターウェイトのバランス率を上げてスムーズに高回転まで回るという違いを作っています。それに対して、兼為が最初言ったトルク特性を作るために、排気系も中速高回転にあわせるように4-2-1の特性も合わせていく。吸気系も同様。低速はしっかり出て、中速高速にかけても続いていく。

----:こういう加速が続いていくといいな、と思っていたものが実際上まで回る。最後のひと伸びとシフトアップしても回転が続く感じ切れ目なく加速が得られたのでうまくできているな、と感じます。実際、フライホイールも軽くしているのでしょうか

兼為:軽くしています。MT車に乗った時のレスポンス、シフトアップ&ダウンだったり「ファン」と気持ちよく吹け上がる。車両のイナーシャ(慣性モーメント)を低減するのと同じように、エンジンのイナーシャも低減することで動きやすくなる。車両側の左右に動くときに端にウェイトがあると動き出しが遅くなる。エンジンも同様なのでイナーシャ低減を徹底して行っています。

◆SKYACTIV 以前と以後

----:アクセルレスポンスに関して、チームで設定している目標みたいなものは何だったのでしょうか。

兼為:「初代より速く」と「強さ」です。強さは絶対Gではなく、前述した「躍度」、身体が感じる反応は先代以上に。フライホイールやドライブシャフトの剛性、マウントなどのハード要件を積み重ねていって改良しました。またSKYACTIVでは制御が変わったので、コントロール性が上がりました。

仁井内:ガソリンもディーゼルでそうでしたが、SKYACTIVの導入で演算スピードが全然違うんです。燃焼の特性も含めてそれをいかにコントロールするかがキーポイントでした。コンピュータのロジックも含めて燃焼のサイクルをうまくコントロールするために演算スピードを噴射系も含めて上げているのです。それと前述したような特性を作っているので、どういう燃焼をさせたら、どのようにレスポンスが速くなるかを分かっている。そういう特性を作る際にSKYACTIVが導入されて作りやすくなった。自由度があるのです。本質的にはミッションを組み合わせてどういうシーンでどういう駆動力を出すか。「人間の感性としてペダルにエネルギーを込める」。それに対して、ドライバーが感じる目標値がある。それにピタッと合うように、駆動力をペダルでコントロールできるように仕掛けを作っています。

----:それはプログラミングの領域ですか?

仁井内:プログラミングというか人間特性に対してですね。何も制御しなかったら、人間は踏みすぎる。オーバーシュートするからアクセルを戻す。CX-5より前のクルマは、踏んだらいきなり出る傾向がありましたが、それを最初から「意図する加速Gや車速に行くな」というのを感じられるようにセットしてあります。

----:SKYACTIVを導入する際に、それ以前(のクルマ)に対しての何か“気付き”があったわけでしょうか?

仁井内:いままではエンジン屋はエンジン、ミッション屋はミッションだけ作る、シャーシも同じように作ってきました。でも、SKYACTIV以降は変わりました。特にロードスターは「どんな車を作りたいのか?」というのがゴールです。それに対して各々持っているシステムが、どのように機能を配分することで最適なシステム構成と、最もシンプルなアーキテクチャでスマートにコントロールするか。基本的にSKYACTIVのコンセプトで持っているエンジン、ライトサイジング=正しいサイズを選びましょう、と。

部品ではなく技術をコモン(コモンアーキテクチャの意)としてシンプルな構成で作れば、機能も含めてスマートな商品になるはずだと。このコンセプトは(SKYACTIV導入以来)何も変わっていなくて、特にロードスターはライトウェイトスポーツの特性を機能配分のなかで作っていく、ということだったんです。クルマへのアプローチ自体が変わっている。これはシンプルな話なんです。

----:SKYACTIVでブレイクスルーしたわけですね。

仁井内:そこの目標設定というか、クルマをどういう価値として捉えてお客様との接点、絆(きずな)をどう作っていくのか。発想自体がガラッと変わりました。エンジンもミッションやパワートレーンも、やっぱりクルマなんですね。僕はずっとCX-5のエンジンのチーフエンジニアをやりながら全車種乗って、その中でパワートレーンが出す駆動力やクルマの挙動を見てきました。

僕はパワートレーン屋ですがシャーシに文句言ったら「素人は黙っとけ」といわれたり(笑)。逆にシャーシのほうも「なんでここで加速の伸び感がないんや」とか「こんなんじゃいかん」「ステアリング切り始めの駆動力の入れ方がおかしいんじゃないか」とか。どういう車にしていきたいかっていう考え方というかアプローチが変わったことで、エンジニアが仕事のスタンスを大きく変えた。とくにロードスターはやりたい人がいっぱいいるから(笑)、そういうチャンスをもらった人はその中でチームとして自分の持っている部分を積み上げてきたわけです。

《高山 正寛》

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