羽田空港には、旅客機の運航を支える、さまざまな珍しい車両が存在していた。そして、それらを操る地上業務のスタッフや、車両を整備するスタッフの話を聞いていると、たびたび同じフレーズを耳にすることができた。それが「定時性」だ。
たとえば、旅客機を移動させたり、荷物の積み卸しを行う地上スタッフに、「大変なことは何ですか?」とたずねれば、「どうしても時間に追われてしまいます。少し飛行機が遅れて到着したりメンテナンスなどで、出ていくまでの時間が短くなることがあります。そのときは最良の判断をしないといけません。安全を第一に考えながら、自分たちが普段できることをやりながら、その中で定時性を高めるのが一番難しいですね。時間が豊富にあれば、私どもも楽に仕事ができますけれど、そうはいきませんからね」とは、JALグランドサービス東京の渡辺恭尚氏だ。
ちなみに「定時性」とは、予定通りのスケジュールで運行を行うこと。世界の中でも運行遅れが少ないという日本の鉄道マンも同じく「定時性」を大切にする人たちだ。それと同じことを旅客機のスタッフも口にする。しかも、驚くのは車両の整備士さえも同じだというのだ。
「日本航空グループとして、まずは飛行機の運航の定時性と安全性を第一に考えています。整備の早さだけではありません。空港内で作動オイルを漏らしたら、空港全体の大問題になります。そういったところを現場の整備士は、常に考えて整備をしています」とは、JALの車両のメンテナンスを一手に引き受けるJALエアテック施設GSE事業部羽田事業所 羽田車両グループ・グループ長の宮内和氏だ。
ちなみに、空港で使用される車両は日本製には限らない。世界中のあちらこちらのメーカーの製品を利用する。その場合、導入時に、日本製の部品との互換性や、日本でのオーバーホールや補修が可能かどうかも検討されるという。「部品が届かないから修理が遅れる」ことがないように配慮しているというのだ。これも「定時性」を重要視する一例と言えよう。
しかし、旅客機というものは、意外と気流の関係で遅れたり早く着いたりしてしまう。天候にも左右されやすい乗り物だ。
「天候が悪いときときがあります。雨や雪が降ったり、そのときも定時に出す。ただ、焦るのではなく、安全をしっかり徹底して、作業を行うというのが難しいところであり、やりがいにつながるのかなと思います」とJALグランドサービス東京の西川和宏氏。
焦ってしまえばミスをしやすくなるもの。そうなれば、普通では考えられないようなミスも生まれる。
「旅客機を移動させるトーイングでは、指示が右と左しかないわけですよ。それを間違ってしまうと、混雑した空港の中では、まわりの航空機に迷惑を与えてしまいます。ヘディングっていうんですけれど、頭を向ける方向。これを間違えることも過去にはありました。“上司にはどうしてお前、右と左しかないのに、間違えるの?”と。でも、見方を変えると2分の1の不正解率なんですね。間違いが半分の作業をやっている。それをゼロにしようと努力しています」と渡辺恭尚氏。
そうした努力の末に、日本の旅客機の「定時性」が守られているというわけだ。
「仕事をしていて嬉しいことは?」と聞けば、「私たちは、最後にお客様に手を振るんですよ。“感謝をこめて、ありがとうございます”と。それを振りかえしてもらえると、非常に嬉しいですね。お客様と通じる瞬間。この仕事をやっていて良かったなと思う瞬間です」と渡辺氏。